選択制はどうなる?”一部の福祉用具に係る貸与と販売の選択制の導入に関する調査研究事業(結果概要)”を改めて掘り下げる:販売選択率わずか2%未満。福祉用具「選択制」導入1年の通信簿が示す5つの現実
福祉用具レンタルvs購入、初年度データ全解剖:販売2,143件→991件が語る制度の行方
「買ったほうが得」は本当か?福祉用具選択制の調査結果3万件から読む、現場の本音と制度の死角
2024年4月に始まった福祉用具の「貸与と販売の選択制」。導入から約1年、介護給付費分科会 介護報酬改定検証・研究委員会に報告された大規模調査の結果を今回は、徹底的に読み解きます。
販売件数が初年度ピークの半分以下に落ち込んだ背景、レンタルモニタリングの形骸化リスク、購入後のアフターフォローが「ついで対応」になっている実態、そして選択制対象品目の拡大はあるのか。
約1万人分の利用者データと1,000超の保険者回答をもとに、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、施設管理者、ご家族が、「次にどう動くか」を判断できる材料をお届けします。

あなたが担当する利用者さんが、杖を手にして「これ、買ったほうがいいの? 借りたほうがいいの?」と聞いてきたとき、すぐに根拠のある答えを返せるでしょうか。
2024年4月、福祉用具の一部に「レンタルか購入か、利用者自身が選べる」制度が始まりました。固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖・多点杖の4種目が対象です。あれから約1年。制度は現場で、どんなふうに回っているのか。令和8年2月18日に開催された介護報酬改定検証・研究委員会(第32回)に、約1万人分の利用者データを含む調査結果が報告されました。数字が語る現実は、制度設計の狙いとも、現場の肌感覚とも、少しずつ違っています。
選択制導入1年の「全体評価」:大混乱は起きなかった、けれど
制度が始まって最初に確認すべきは、「現場が混乱したかどうか」です。結論から言えば、大きな破綻は起きていません。
介護保険総合データベースの分析によると、選択制対象種目の販売実利用者数は令和6年6月に2,143件でピークを迎え、その後は減少に転じています。令和7年6月には991件、給付額ベースでも2,081万円から1,095万円へと、約半分にまで落ちました(厚生労働省「介護報酬改定検証・研究委員会(第32回)資料1-3」(2026年))。
「販売に殺到した」わけでも、「誰も販売を選ばなかった」わけでもない。導入直後の駆け込み需要が一巡し、静かに落ち着いたというのが正確な描写です。
もう一つ見逃せないのが、給付費全体の動きです。選択制対象種目について、貸与費と居宅介護支援費の合計(レンタル関連コスト)は制度開始後に減少しています。販売分を加えた総額は令和6年6月に一時的に増えたものの、その後は減少し、導入前と概ね横ばいの水準に戻りました。保険者別に見ても、販売の選択率が0%~0.5%未満にとどまる保険者が大半を占めています(同上資料)。
国が期待した「給付の適正化」は、マクロ的にはある程度機能しました。しかし、販売が制度全体を塗り替えるほどのインパクトにはなっていません。「静かなテストケース」としての1年間だったと言えます。
購入を選んだ利用者は何を考えていたのか
では、実際に「買います」を選んだ利用者は、どんな判断をしたのでしょうか。
アンケート調査(利用者状況調査票、回答数:固定用スロープ1,383件、歩行器416件、単点杖256件、多点杖1,333件)によると、購入理由の上位は「長期利用が想定されるため」が固定用スロープで43.5%、「貸与よりも購入のほうが経済的であるため」が同30.5%でした。歩行器や杖でも同様の傾向が出ています(同上資料)。
注目したいのは、医師や専門職の意見が購入の決め手になったケースが極めて少ない点です。「医師・看護職員やリハビリテーション専門職等の意見があったため」は、固定用スロープでわずか0.4%。利用者の選択は、身体状況の医学的評価よりも、経済性と所有の心理によって動いています。
ヒアリング調査でも、興味深い声が報告されています。
「歩行補助つえは自分の身体の一部として使うため、自らの所有物である意識が強く喜ばれている」。これは福祉用具を「道具」ではなく「身体の延長」として捉える利用者心理の表れです。経済合理性だけでは説明しきれない、所有することの心理的安定感がそこにあります。
ただし、購入にはリスクも伴います。目標達成状況の確認時点で、購入した歩行器の6.4%がすでに使用を取りやめていました。主な理由は「身体機能低下等」です。多点杖でも4.3%、単点杖で4.7%が使われなくなっています。購入から数か月という短期間でこの数字が出ていることは、看過できません(同上資料)。
行動経済学で言う「サンクコスト効果」、「せっかく買ったのだから使い続けよう」という心理が、身体に合わなくなった用具への固執を生む可能性があります。逆に、使用をやめた利用者は合理的な判断をしたとも読めますが、その判断を支える専門的なフォローが十分だったかどうかは、別の問題です。
今回概要まとめ図
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