作詞するにあたって、怪異譚を書いてみた。
YOASOBIのような、ちょっとイマドキな曲を作ってみたくなりました。
AIに相談したところ、まず歌詞の背景となる物語を作り(書き上げ)、そこから歌詞を書いてみてはどうか、でした。
というわけで、まずは物語を書いてみることにしました。
とは言っても、恋愛ものは絶対無理なので・・・怪異譚にしました。
ホラーも苦手なので。
まずは使えそうな怪異を探しました。
いろいろありますね。日本は怪異に溢れているという感じです。
「神隠し」が一番使えそうな怪異に思えたんですが、既にいろいろな作品で使われていたので、もっと使われていないものを。
それが『辻占』でした。
辻占:夕方に辻(交叉点)に立って、通りすがりの人々が話す言葉の内容を元に占うもの
辻は人だけではなく、神も通る場所であったことに由来するそうです。偶然通りかかった人の言葉を神のお告げとする。
ちょっと強引な気がしますが、怪異だから許します。
この話を少し怪しくアレンジしたのがこの作品です。
気をつけた点は、ホラーにならないようにすること。
ホラーと怪異譚は何が違うのか。
またまたAIに尋ねてみると、ホラーは「怖がらせること」が中心、怪異譚は「説明できない出来事に出会うこと」が中心なんだそうです。
なるほど。
さて、この物語、怪異譚になったでしょうか。
次は曲作りです。
辻占

まだ十分に深くはない夜の時間の中を、僕は一人さまよっていた。探しているものが何なのかさえわからないまま、探し物を探し続けていた。
「生きるべきか、死ぬべきか」のように、「べき」で締めくくる言葉。
そんなものを渇望する。それが今の僕が欲している生だった。
ぬらぬらと、とどまることなく垂れ流されてくるショート動画。
そんな現実の細切れの中、突然、一つの言葉が耳を打った。
「時間と時間の狭間にできた瞬間。
妖気が漂う辻で。
最初に聞いた言葉が未来になるの」
「ん?何だそれ?」
そう思って、意識を束ねた時には、その動画は消えていた。
全てのものが一瞬で過ぎ去るネットの世界。急いでスクロール・バックし、探してみても、もう見つからない。
鼓膜に触れると同時に消え去ったその声は、どこにでもありそうな若い女のものだった。
現実だったのかどうかさえも判断できないまま、すぐに溶け去り、意識の底に残像だけが残った。
「妖気漂う辻か・・・。って、『辻』って何?」
辻。道路が十字やT字などに交わる「十字路」や「交差点」、または多くの人が行き交う「道端・街頭」。
「ふーん、交差点ねえ」
僕は少し引っかかるものを感じた。
道が交わる場所は、ごく普通に身の回りに溢れかえっている。
迷ったことさえも記憶されず、何度も何度も選び、歩いてきた。
それが交差点。
しかし妖気漂うとは・・・。
「この時代に妖気だってw」
真っ白な壁に投げた萎んだゴムボール。振り絞るような台詞でもあった。
「それってデジタルなのか?」
うすら笑いとともに続けた独り言。跳ね返ってくるものは何もない。
いつもの見慣れたシーンだ・・・。
僕は静かにスマホを取り出した。
その衣擦れの音さえ聞こえてきそうな沈黙の中、自身の唾を飲み込む音が周囲に響き渡った。
23:57
眠るには早い時刻。
ただ、鈍く光るその数字が、やがて「狭間」の扉を開きそうな気がした。単純に、そんな気がした。
僕はその日、動画を見流すのを忘れるほどに探していた。
妖気漂う辻・・・。
時間と時間の狭間にできた瞬間・・・。
馴染みのない言葉の連なり。
想像もつかない場所を求めて、ひたすらスマホ画面をタップした。スクリーン上を湧き上がるように流れる画像群。
心にシンクロする場所は見つからない。
そんな行為を何時間続けただろう。
何かがおかしい。
手招きされているのに、どんどん遠ざかって行くような気がした。
そう感じた僕は、遂にスマホを放り投げ、ベッドに背中を預けた。
代わりに目を閉じ、瞼に浮かぶ記憶をスクロールし始める。
静かに。そしてただ無心に。
突然、恐らく・・・そうであろうような場所が浮かび上がってくるのを感じた。
まるで、自分の魂が、本来はそちらに手招かれていたかのように、それは胸の深いところでこちらにまなこを向けていたのだ。
23:58
僕は、目の前でこちらを見下ろしているその風景を覚えていた。なぜここに来たことがあると感じるのか理由はわからない。
本当に来たことがあるのか?
答えの出ない疑問だった。
ただ、記憶に映る風景は、実際には目の前にあるものと全く同じ風景ではなかった。それは、日差しが溢れる時間の映像だった。
スマホのマップ上には、その場所は歪に押し潰されたようなY字形で示されている。そして、その中心交差点手前に僕は立っている。
画面上からは窺い知れないが、ここは急な坂道の途中なのだ。
右に向かえば、その先には地元の人でもあまり知る者のない神社がある。確か、稲荷神社のはずだ。
昼間であれば、その存在を示すかのように、三つの道が合流する地点からでもかすかに鳥居の朱色が望める。
そして、その先には長い石段が待っているはずだ。
暗がりの先に、小さな二つの点が光った。こちらを見つめる何かの目。
猫でもいるのか。
一見、ここは民家に挟まれた、生活感のある空間だ。しかしその道は、確かに神聖な場所へと通じる非日常的な導線でもある。
Y字の左への道は、同じく細く、しかし崖に沿うような道路で、さながら結界に沿って神社を迂回するような上り坂だ。
道の左側には、崖にすがりつくように民家がところどころに立つ。
反対側には、今度は崖に張り付くように、同じく、ところどころに民家が並んでいる。
夜の帷の中、この細い坂道は神域と人域を隔てるぎりぎりの限界線を形成していた。
23:59
今、静かに待っている。
同時に、何を待っているのかを自問している。
自動車の通り過ぎる騒音が、微かに届くのを背中に感じた。
夕食の残り香が澱んだ空気に混じり込んで、俗界が喘いでいる。
気のせいか、右の上り坂の先にぼうっと灯がともったような気がした。
さらさらと何かが頬を横切った。
いや、そんな気がした。
「お前は大切なものを失う」
はっ。
我に帰った。スマホを見る。
00:00
鈍い光沢の数字が無表情に見つめ返す。
改めて周囲を見渡した。
誰もいない。いや、いた気配がない。
先ほどの、二つの光が消えていた。
「確かに聞いた。・・・。でも、今のは誰の声だったんだ?」
振り返ると、Y字の底辺で、淡い灯火の残像が横切った。ゆらゆらと。そして、ふらふらと。
ぼんやりと、それが流れてゆくのを追いながら、僕は今、耳が捉えた言葉を反芻した。
「お前は大切なものを失う」
大切なもの、大切なもの、大切なもの・・・。
「僕の大切なもの?何だ、それは?」
それからしばらく、立ち尽くしたまま、大切なものについて考えた。
そしてもう一つ。
あの声の主は?
確かに鼓膜を震わせたその声からは、年齢も性別も読み取れなかった。唸るような、どこか「人外」を想起させる声だった。
どれぐらいそこにとどまっていたのだろう。
その間、誰一人として過ぎゆく者はなかった。
考えても考えても何も手にできない。
そう悟った時、僕はゆっくりと、神社のある階段の先を背中で想像しながら、坂道を下りていった。
