見出し画像

波の音|シロクマ文芸部

 波の音が聞こえるーー

 彼との結婚はない。もう長引かせるつもりもなかった。いつか別れを切り出そうと思っていた。けれど、この場所で口にするとは思っていなかった。
 ふいに、今ここで言うのがいいと思った。二人で歩き慣れた海辺を、日が傾くまで歩いた。

「わたし、一人で帰るから」

「え、どうしたの?急に」

「急にじゃない。ずっと考えてた」

「‥‥‥‥」

「‥‥別れよう」
 
彼はゆっくり顔を上げた。怒りで顔を真っ赤にし、頬を震わせている。

「な、何様なんだよ。あんたから言われる筋合いはないんだよ」

 逆ギレか。もううんざりだった。彼に合わせ続けた自分にも腹が立った。掴まれた腕を振り切り、わたしは走った。


 別れを告げたのはわたしなのに、涙が溢れてきた。

 波の音だけが、いつまでも追いかけてくるように感じた。

#シロクマ文芸部
#波の音