天国のような、あなたときみ/『でこれいと・でこれいしょん』 感想・紹介(ネタバレ無し・有り)
※最初はネタバレ無し
文章が良いノベルゲームは良いノベルゲームと決まっています。
テキストとはノベルの根幹であり、キャラを表現する手段の1つであり、シナリオに深みを生むブースターなのです。
ということで、とても良い作品でした。
ユーレイになってしまった女の子が主人公のポイントクリック&コマンド選択式のアドベンチャーゲームです。
大好きな「きみ」に話しかけたり、ポルターガイストを起こしたり、
夢枕に立ったり、呪ったりして想いを成就させることが目的となります。
しかし、ユーレイになってしまったあなたでは、霊感のない「きみ」には話しかけることすらままなりません。
試行錯誤を繰り返し、望んだ結果を引き寄せましょう。
本編のエンディングは6種類。
1周15分ほどで、選択や行動によって展開が変化します。
KEMCO…色んなADVのパブリッシャーやってくれていつもありがとな…
レイジングループと千里の棋譜以外あんまプレイしてなかったけど…イハナシの魔女は普通にKEMCO通す前にプレイしてるし…
1プレイは15分前後と短く、全END回収にも1時間前後しかかからないかなり小規模な作品ではあるのですが。
特に分岐などは無いと思われる前日譚、後日譚となるサイドストーリーが2本あり、なんならそちらは割としっかり連続したシナリオとなっているので、そちらで更に1時間分追加されてプレイ時間は2時間前後と言ったところですね。
元々は無料ゲームだったのが、有料版になるにあたって諸々の機能とサイドストーリー2本が追加された…という形のようなのですが。

なんならサイドストーリーの方がテキストの"良さ"が滲んでいたので、是非有料版をプレイして欲しいですね。
テキストの良さも、それに付随してキャラの背景もストーリーの感慨もより深く掘り下げられることになるので、こちらをプレイしてこそかなと思います。

というか、メイン部分だけだと間違いなくセンスは良いけどまあ短いから一発ネタに近いし色々描写に限度もあるからそれなりかな〜くらいで思ってたのが、サイドストーリーで一気に評価が上がった感じでしたね。
そしてサイドを踏まえると更にメインも良くなる。
主人公であり幽霊の女の子が「あなた」、そして想い人でありまだ生きている男の子が「きみ」でありこの2人のみで進行していくことになるため、二人称まみれで独特な読み味になる文章です。

二人称ノベル…というわけでもないんですが。
あなたはノースティリスの地に流れ着いた冒険者です。的なわけではなく。
一応ホラー的な要素が無くも…無いっちゃ無いですがほぼ無いと言っていいでしょう。
ホラーと言うよりは少しグロテスク?的な表現はありますが、表現緩和もできるようです。自分はしませんでしたが、特に気になりませんでした。
概ねラブストーリーの類型のような、ほろ苦い青春の味のような、過ぎ去りし日々を祝うような、そんなお話です。
切ない。
ちなみに自分の趣味がこうなのでテキストの話ばっかりですが、普通にビジュアルも素晴らしいので「女の子可愛い〜」みたいな、あなたちゃんくらいのノリで遊んでも全然大丈夫だと思います。

マジでテキストが良いので、未プレイの方は是非!やろう!
いちいちハマるテキストが入ってスクショを連打することになるのは、最近で言うとFateをプレイしている時のような感覚でした。
なんならたった2時間程度のゲームなので、見せ場が詰まっている分スクショ密度は更に遥かに上でしたけども。
以下ネタバレ。
本当にめちゃくちゃネタバレなのでチラ見でも注意。
自分は別に、所謂ヤンデレキャラはそこまで好きでもないというかなんならむしろ苦手寄りな印象なんですけども。
多分それは、テンプレート的に利用されるヤンデレに面白みが感じられない上に加害性を感じて嫌なのかなという話であって、背景がしっかりして納得を感じられれば問題ないのかなとも思いました。
何が言いたいかと言うと穴田ちゃんは尊敬に値する人物ということです。

序論(読み飛ばしていい)
創作における物語の魅力とは当然シーンの集合体、シナリオ展開の魅力という部分も大きいでしょうが、自分は自分に持ち得ない価値観を外付けしてインストールできることも大きいと思います。
キャラの魅力に共感は必然ではなく、むしろ徹底的に理解しがたい、感情移入しがたい人物だからこそ魅力的だということもあるでしょう。
最近デルウハ殿がにわかに人気ですが、あれこそまさにそのパターンでしょうね。
もちろんこの辺りは人に依っていて、狛枝凪斗に対して「なんだこいつ気持ちわりぃ…」と思うか「狛枝って…面白!!」と思うか「狛枝尊い…」と思うかは人それぞれ好き勝手でしょう。
自分はそれで言えば「面白!!」側の人間ですし、「共感しづらいキャラ」への魅力を感じやすい側の人間であることは間違いないと思っていますが、別にそれが全キャラに適用されるのかと言えばそんなことはなく、「なんか意味わからんし行動原理に納得できない」で終わるキャラだっているわけです。
そしてそういう意味で言えば穴田ちゃんは、自分には到底及びもつかない価値観・強さを持つ人種であり、圧倒的な光であり、ただの恋する女の子でした。
圧倒的、圧倒的女子。

本論
この物語はまるで二人称視点かのような三人称視点で語られていますが、実際のところかなり穴田ちゃんの視点に近い距離で描かれています。
要は、主人公を『あなた』と呼ぶ語り口であり、そしてそれはつまり穴田ちゃんをただ名字で呼んでいるだけなので三人称視点でありながら、実質的にはほぼ穴田ちゃんの視点から描かれているわけですね。

プロローグのネタバラシで、中々頭ですんなりとは読みにくかった「あなた」「きみ」の代名詞が単なる固有名詞であったことが判明して一気に読みやすくなったのは、中々面白い体験でした。
とはいえ語り口として二人称的な効果を狙っているのは明らかで、その二重性自体がこの作品のテキストの面白さでしょう。

本編のストーリーとしてはシンプルで、「なぜあなたはきみのことが好きなのか?」「あなたときみの関係性は?」「どういう結末を迎えるのか?」くらいの期待と展開くらいしかないのですが、本編では主には3つ目の部分に注目しており、結末の部分で1つ目~2つ目についても多少語られるという塩梅だったかと思います。
で、その「なぜ好きなのか・どんな関係だったのか」を重点的に描いたのがサイドストーリーで、これによって本編の話の流れにもより深みが出てきた感じですね。
本編だと「めっちゃ重くて変わった女の子」くらいの感覚で終わる穴田ちゃんですが、サイドストーリーの生きていた頃を読むと、「全力で人生を楽しんでいるだけの女の子」です。
そう、普通の女の子なんですね。勿論、過剰にライトではありますが。
現実に人を呪い殺す程のヤンデレなどそうは居ませんから、どちらかと言えば生前のほうがより一般的な人格に近いキャラでありつつ、しかしむしろ現実に近い人格の方が、創作キャラとしてはむしろ自分にとっては独特に映りました。
テキストの質あってのものだと思いますが、オタクにとってはヤンデレの方が「女子」よりも身近なものであり、「女子」こそが理解しがたい存在ということですかね。
そう、理解。
この物語は、こんなにあなたがきみを大好きでありながらも、本編中から最後の最後の今際の一際までは相互不理解の物語です。
ディスコミュニケーション。

TRUE以外のENDは基本的に殺るか殺られるか(と言っても既に殺られては居るのですが)で、つまりは当初の目的である「きみといっしょになる」ことを達成できるか否か、そしてどのように達成されるか程度の差です。
なので割とデフォルトで倫理観ゆるゆる系のお話かとも思っていたんですが、TRUEにおいてはそうでもなく、どちらかと言えば「正しい倫理観」を踏まえた上で、それを踏み越える話です。
穴田ちゃんは恐らくは幽霊になるにあたって適度に自我や記憶が蕩けており、TRUE以外のルートでは最後までそこをはっきりと取り戻せていないと思われるのですが、本来の彼女はそもそも別にそんな、愛した人を殺してでも一緒になりたいというほどのイカれた人物ではなさそうなんですよね。
幽霊化の影響でヤンデレっぽい感じになっただけだと思います。
TRUEで実際、そのようになるという推定のできる描写もありましたし。
呪い呪われ。

例えば現実で生きたまま「きみ」にフラれていたとして、同じような行動を取るか?と言われるとかなり微妙なところですよね。
とは言え、元々ある意味でとても強い精神を持っている子だったのは間違いなく、それが多少歪んで反映された結果がああだったというだけだと思いますが。
BADだろうがNORMALだろうがHAPPYだろうがTRUEだろうが、過ぎ去ったものに変わりは無く、そのため完全無欠のハッピーエンドは存在しません。
生き返ったりはしないし、死体は見つからないし、犯人は捕まりません。
が、しかし、穴田ちゃんは記憶と思い出を取り戻し、相互不理解だった過去を超えて、相互理解の一歩目に至りました。

相互不理解についても中々プロローグを踏まえるとヘヴィな表現でしたが、ここはより息苦しい思いになりますね。

その結果として、木見に「好きじゃない」「一緒にはなれない」と告げられた上でも、しかし彼女がめげることはなく。
あなたはこいするおんなのコのみならず、セカイでだれよりもつよいおんなのコなのでした。


そして穴田ちゃんが出した結論は、木見に好きになってもらうことよりも更に優先される、木見を守るというものです。
そして、最後に木見に呪いをかけていきました。

……と思ったら本当に守護霊になって帰ってきて、穴田と木見の2人は一緒に過ごせることに。
2人で一緒に天国に行くのではなく、2人で居る今この瞬間この場所こそが天国であるという解釈。綺麗ですね。


TRUEからプロローグ、エピローグは本当にテキストが素晴らしくて、スクショが止まりませんでした。いちいち表現が良いんですよね。

文学的…とは、また違うと思いますが。
なんとも、全力JKの穴田ちゃんの心情に寄り添った歌詞ですので、独特です。
ケータイ小説とやらがこんな感じだったりしたのでしょうか?


で、このテキストは明らかに穴田ちゃんのキャラに裏打ちされたそれですので、それに付随して穴田ちゃんのキャラもとても魅力的でした。
前述しましたが、全然違う人種だからこそですね。
女性はまた受け取り方が違うんでしょうか。
自分としては、全力で生きている人間には尊敬の念を抱くので、理解はし難いですがとても好感を持てました。
というかまあ、興味の方向性が全く自分とは違うだけで、自分の楽しいことに全力という意味ではむしろ普通に同意できる、羨むことのできる生き方な気もしますが。

自分もエンタメは愛していますが、しかしここまでエンタメをエンタメとした上で全力を懸けられるかと言えば恐らく難しいですからね。
まあそれは生活環境の問題などもあり、そしてそれが木見との相互不理解にも繋がっていたのでしょうが。

また、こんな最強ガールの穴田ちゃんですが、ちゃんと木見の事を好きになってきてからは割と弱い所も見せています。

自分との約束を木見が受け入れてくれるかを強く一喜一憂して、その答えを間接的に遠くから盗み見ていたところとかは、本当にただ普通の恋する女の子でした。
木見も「好きじゃない」と言っていましたし、それは事実なんでしょうけど、しかし別に全くもって好意が無かったというわけではないんでしょうね。
デートの約束を受け入れて、一応少しオシャレして出かけようとしていたわけですし。きっと恐らく、その先で、うまくいけば無事平穏に相互理解に至っていたのでしょう。
生きていれば。
ところで木見は穴田ちゃんきっかけに割とリア充グループにもそこそこ混ざって楽しくやっていたようなんですが、実際そこについてはどう思っていたんでしょうね。
穴田のことについては好きじゃないとの表明がありましたが、しかし別にその環境についてどう思っていたのかは語られていなかったように思います。

そもそも普通にイケメンだし、めっちゃ高身長だし、聞き上手らしいし、普通にモテていたり?
だからこそ穴田ちゃんも不安になっていたのでしょうけど。



プロローグは本当にとても良かったです。恋愛小説というものを読んだりはあまりしませんが、こういうものだったりするんでしょうか。
JKの視点、なおかつ恋する女の子の視点でそういう話を読むことは本当に無く、独特で素晴らしいテキストも相まって、凄まじい味わいでした。
こんなに素晴らしい日々があって、その先がああなのかという苦さの味わいもまた良いです。


からの現実!エピローグ!

要は穴田ちゃんの死体始末編なのですが、しかし穴田ちゃんが穴田ちゃんなので割とライトに読むことが出来ました。

しかし穴田ちゃんなのでライトに済んでいるだけで、本当に中々のエグみです。
倫理観を踏まえて、踏み越えていくというのも主にここのことですね。

穴田ちゃんの死は、誰にも知られることなく隠蔽されました。死体ごと。
そこにははっきり触れており、その上で隠したんですよね。

穴田ちゃんの死を穴田ちゃんの両親が知ることは無く、これだけ愛されて育ったであろう彼女ですから、両親の気持ちは察するに余りあります。
それでも、木見の為に穴田ちゃんはその道を選びました。

別に穴田ちゃんは木見以外がどうでもいいわけでもなく、当然両親のことも大切に思っています。それでもやるんですね。

プロローグではライトな方向にテキストが跳ね回っていましたが、エピローグではダークな方向での沈むように重良いテキストを読むことが出来ました。

また、「家族」や「友達」の愛を通した上で、「自分そのもの」を見てくれる愛が欲しかったという解答を出したのも良かったですね。

そして別に、木見は穴田ちゃん自身を見ていたわけではないのですが。
しかし別に、木見が誰に対してでも優しかったとしても、そんな木見を穴田ちゃんは好きになったので、それで彼女は良かったのです。

良いことも悪いことも引っくるめて纏めて許容し、その先に持っていく強さのある穴田ちゃんだからこそ出せた答えなんでしょうね。
死んでしまっても幽霊になってもそれはそれ、彼女は彼女なりの最善を尽くして、2人で天国のどん底に辿り着いたのでした。

起きていることはとても凄惨で残酷にも関わらず、しかしそれを光へと変えてしまう凄い力強い子でしたね。つよがるガールは最強?
結論
物語としてはシンプルで、死んで(殺されて)しまった女の子が好きな男の子の元に幽霊になって戻ってきて、そして真実を知って、思い出すだけのお話なのですが。
穴田ちゃんが理解し難くも尊敬に値する、全力で生きて生きて生き過ぎて死後まで全力になれる女の子であることを徹底的に刷り込まれるお話でした。
キャラゲー…なのか…?
なんか違う気もしますが、しかしこの作品の良さは間違いなくテキストと、そこに一体化している穴田ちゃんのキャラですね。
木見との残酷な相互不理解も、その先の相互理解も、全てちゃんと受け止めてちゃんと苦しんだ上で結論を出しているのが良いと思います。
見た目とキャラからは想像つかないくらい哲学的だった気もしますね。
完全無欠のハッピーエンドも好きですが、こういう、苦みもしっかり味わった上での甘みのある終わりも好きです。
でこれいと・でこれいしょん。
チョコレートの飾り付け的な例えかと思っていましたが、Decollateの方は斬首の意味を持つようなのでやはり中々ダークですね。
ダークな意味合いと、甘い響きが両立する良いタイトルだと思います。
タイトル通り、ビターな話をスイートなテキストで覆ってしまうことで、とても甘く切ないお話になっていたと思います。
プレイ時間2時間弱とは思えない、とても満足感のあるゲームでした。


