#490 琵琶湖の水は止められない?
「琵琶湖の水、止めたろか。」
滋賀県民が、京都や大阪などの人に向かって冗談めかして言うフレーズとして知られています。
実際、この言葉を使ったグッズも公式に販売されています。
こうしたグッズの一つ、「琵琶湖の水止めたろかグミ」はAmazonでも販売されているようです笑
滋賀県にとって、琵琶湖は単なる観光地ではなく、生活用水や農業用水、工業用水を供給する重要な水源です。
さらに、自分の県だけではなく、京阪神を支えているという自負がある誇り高き湖なのです。
では、なぜこのようなジョークが生まれたのでしょうか?
なぜ滋賀県は「いじられる」のか?
滋賀県と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。
多くの人が最初に思い浮かべるのは、やはり琵琶湖ではないでしょうか。
日本最大の湖を持つ滋賀県ですが、京都や大阪と比べると、観光地や都市としての知名度では目立ちにくい存在です。
関西では、そんな滋賀県を「地味な県」としていじるような地域ネタもあります。
「滋賀って琵琶湖しかないやん」
そんなからかいに対して、滋賀県民が返す定番の言葉が、
「琵琶湖の水、止めたろか!」
なのです。
もちろん、本当に水を止めるわけではありません。
「こっちを馬鹿にするなら、そっちが毎日使っている琵琶湖の水を止めるぞ」という、滋賀県側の対抗ジョークです。
実際、琵琶湖の水は京都・大阪・兵庫などの生活や産業を支える重要な水源となっています。
つまり、この一言は単なる脅し文句ではありません。
「滋賀県は地味かもしれない。でも、琵琶湖の水がなかったら困るのはそっちだろう」
という、滋賀県民なりの反撃なのです。
では、そもそも琵琶湖の水は、どれほど多くの人々の生活を支えているのでしょうか。
京阪神を支える琵琶湖水系
まず、琵琶湖がどれほど重要な水源なのかを見てみましょう。
琵琶湖の水は、滋賀県だけで利用されているわけではありません。
琵琶湖から流れ出した水は瀬田川から宇治川へ流れ、さらに桂川や木津川などと合流して淀川になります。
そして、その水は京都府、大阪府、兵庫県などの京阪神地域へ届けられています。
滋賀県によると、2024年3月末時点で、琵琶湖の水を水源としている水道事業の給水人口はおよそ1,470万人です。
国土交通省も、琵琶湖が近畿圏約1,400万人の生活や都市活動、生産活動を支える重要な水資源であると説明しています。
琵琶湖の水は、水道水だけに使われているわけではありません。
農業用水や工業用水としても利用されており、京阪神地域の暮らしや産業を支えています。
つまり、
「琵琶湖の水を止めたろか」という言葉の裏側には、実際に多くの人が琵琶湖の水に支えられているという事実があるのです。
では、その水を本当に止めることはできるのでしょうか。
琵琶湖の水は止められる?
ここで重要になるのが、琵琶湖から水が流れ出る場所と、その管理者です。
琵琶湖には、117本の一級河川など、非常に多くの川から水が流れ込んでいます。
ところが、自然に流れ出る河川は瀬田川だけです。
そして、この瀬田川には「瀬田川洗堰」があります。
琵琶湖の水位や下流の河川の状況などに応じて、この洗堰からの放流量が調節されています。
ただし、この瀬田川洗堰を管理しているのは滋賀県ではありません。
国土交通省が管理しています。
さらに、琵琶湖から水が流れ出る場所は瀬田川だけではありません。
琵琶湖疏水にも水が流れ出しており、そこにある水門は京都市が管理しています。
また、琵琶湖の水を利用した宇治発電所の取水口については関西電力が管理しています。
つまり、琵琶湖からの流出に関係する施設は、複数の管理者によって管理されているのです。
そのため、滋賀県が「今日から琵琶湖の水を止めます」と一方的に決めて、すべての水を止めることはできません。
「琵琶湖の水を止めたろか」というジョークとは違い、実際の琵琶湖は、
滋賀県だけの判断で水を止められる仕組みにはなっていないのです。
では、琵琶湖から流れ出る水を本当に止めてしまったら、どうなるのでしょうか。
琵琶湖の水を止めたらどうなる?
琵琶湖には、非常に多くの川から水が流れ込んできます。
一方、自然に流れ出る川は瀬田川しかありません。
つまり、琵琶湖は、
「たくさん入ってくるのに、出ていく場所が少ない」
という特徴を持っているのです。
もちろん、実際には瀬田川洗堰などによって流出量が調節されているため、普段から琵琶湖が流入した水であふれることはありません。
しかし、もし琵琶湖からの流出を長期間にわたって完全に止めてしまうと、琵琶湖には水が入り続けるため、少しずつ水位が上昇していきます。
滋賀県も、琵琶湖からの流出3か所をすべて閉鎖して流出を止めた場合、
長期間止めると琵琶湖沿岸部から浸水が始まる可能性がある
と説明しています。
「琵琶湖の水止めたろか」はどうなる?
確かに、琵琶湖の水は京阪神地域の生活を支える重要な水源です。
しかし、滋賀県が単独で水を止められるわけではありません。
そして、仮に琵琶湖からの流出を本当に止めてしまえば、今度は琵琶湖自身の水位が上昇し、沿岸地域に大きな影響が出る可能性があります。
「琵琶湖の水、止めたろか。」
と言われた側は、
「止められるもんなら止めてみろ!」
と言ってしまえば、「琵琶湖の水止めたろか」というジョークはブーメランとなって滋賀県民に帰ってきてしまうのです。
しかし、本当に止められてしまったら京阪神の大都市圏に暮らす人々の生活が成り立たなくなるという側面は否定できません。
普段は冗談として使われる「琵琶湖の水止めたろか」という一言。
その背景には、琵琶湖という巨大な湖と、そこから流れ出る水をめぐる地形・河川管理・水資源の仕組みがあるのです。
【目次】
