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#483 声にも「権利」がある?~生成AI時代のパブリシティ権~

「声」にも権利がある。

そんなニュースが、2026年7月、注目を集めました。

生成AIの普及によって、声優や著名人の声を本人の許可なく利用したコンテンツが作られ、SNSなどで公開されるケースが問題となっています。

こうした状況を受け、法務省の「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」が報告書を取りまとめ、著名人の声についても、パブリシティ権による保護の対象となり得ることを明記しました。

一方で、興味深いのが「モノマネ」です。

報告書では、本人とは別人によるモノマネだと分かる場合には、パブリシティ権の侵害には当たらないと整理されています。

では、

なぜモノマネは許されることがあるのに、生成AIで本人そっくりの声を作ると問題になるのでしょうか。

そもそも、パブリシティ権とは何なのでしょうか。

そもそも「パブリシティ権」とは?

パブリシティ権という言葉は、あまり聞き慣れないかもしれません。

簡単にいうと、著名人の名前や肖像などが持っている、

「人を引きつける力」を無断で利用されないようにする権利です。

例えば、人気俳優の写真を勝手に商品広告に使ったとします。

その広告を見た人は、

「この俳優がこの商品を宣伝している」

と受け取るかもしれません。

人気俳優の名前や顔には、それだけで商品やサービスに人を引きつける力があります。

こうした顧客吸引力を無断で利用することが、パブリシティ権との関係で問題になるのです。

パブリシティ権は、憲法第13条の幸福追求権(人格権)に由来する「新しい人権」の一種として、裁判例を通じて認められてきました

一番有名なのがピンクレディーの写真が無断で使用された、所謂「ピンクレディー事件の判決です。

「声」がなぜパブリシティ権で守られる?

パブリシティ権と聞くと、

「顔や写真(肖像権)を守るためのものでは?」

という印象が強いかもしれません。

ところが、今回話題になったのは「声」についてです。

声優など、声を商売道具として活動している人にとっては、

声そのものがその人を識別する重要な要素です。

例えば、人気声優の声を聞いて、

「この声はあの声優だ」

と分かることが多々あります。

人気俳優や歌手、ナレーターなどでも同じでしょう。

つまり、

顔だけではなく、声にも「その人を象徴する力」がある場合がある

ということです。

今回の法務省の検討会は、生成AIの普及などによって肖像や声の無断利用が深刻化していることを背景に、現行法やこれまでの判例を踏まえて、どのような場合に民事責任が生じるのかを整理しました。

その中で、著名人の声についてもパブリシティ権による保護の対象となることが明記されたのです。

生成AIが「声」の問題を大きくした

では、なぜ今、「声」が大きな問題になっているのでしょうか。

その背景にあるのが、生成AIです。

以前、ある声優の声を使いたいと思えば、基本的には本人に依頼して録音する必要がありました。

あるいは、人間が声まねをするという方法もあります。

ところが現在では、生成AIを使うことで、本人がその場にいなくても、本人に非常によく似た声を生成することが可能になっています。

つまり、

「本人が話していないのに、本人のような声が作れる」

時代になったのです。

法務省も、まさにこのような生成AIの普及による肖像や声の無断利用が深刻化していることを検討会設置の背景として挙げています。

生成AIは非常に便利な技術ですが、その一方で、

「誰かの声を利用しているのに、本人には何の許可も取っていない」

という新しい問題を生み出したのです。

「似た声」なら何でも違法なの?

ここで注意したいのが、

「AIで本人に似た声を作ったら、すべて違法になる」

というわけではないことです。

実際にパブリシティ権の侵害に当たるかどうかは、個々のケースによって判断されます。

例えば、

  • 誰の声なのか識別できるのか

  • その声が持つ顧客吸引力を利用しているのか

  • どのような目的で利用したのか

  • 商品やサービスの宣伝に使ったのか

  • 収益を得るために利用したのか

など、さまざまな事情が関係します。

したがって、

「生成AIを使ったから違法」

という単純な話ではありません。

今回の報告書も、新しい法律を作って一律に禁止するものではなく、現行法や判例法理を前提として、どのような場合に民事上の責任が問題となるのかを整理したものです。

モノマネはどうなる?

今回のニュースでも特に注目されるのが、モノマネについてです。

「声が本人を識別するものなら、モノマネ芸人もパブリシティ権を侵害してしまうのでは?」

と思うかもしれません。

しかし、そう単純ではありません。

今回の報告書では、モノマネや声まねについて、それが本人ではなく別人によるものだと分かる場合には、パブリシティ権の侵害には当たらないという考え方が示されています。

ここで重要なのが、

「似せること」と「本人の声として利用すること」は同じではない

ということです。

例えば、モノマネ芸人が、

「○○さんのモノマネです」

と明らかにしたうえで、その人物の特徴的な声や話し方を再現する。

この場合、見る側も、

「本人ではなく、モノマネをしている人だ」

と分かります。

一方、AIで作った声を、

「本人が実際に話している」

ように見せて広告などに利用すれば、話は変わってきます。

この違いが、今回の整理を理解するうえで重要になります。

どんな利用が問題になる?

では、実際にはどのようなケースが問題になるのでしょうか。

今回の報道で紹介された例には、

声優の声(声優に似た声)を利用して曲を作り、SNS上で公開して収益を得る

といったケースがあります。

また、

  • ボイススタンプ

  • オーディオブック

  • 広告のナレーション

などへの利用も、パブリシティ権との関係で問題となり得る具体例として挙げられています。

共通しているのは、

「その人の声だからこそ価値がある」

という点です。

例えば、無名の人の声ではなく、人気声優の声だからこそ、

「聞いてみたい」

「商品を買ってみたい」

と思う人がいる。

その「声の価値」を本人の許可なく利用して利益を得ることが、パブリシティ権との関係で問題になるわけです。

今回の報告書で「新しい法律」ができたわけではない

ここは、今回のニュースを理解するうえで非常に重要です。

今回、

「声を守る新しい法律が成立した」

わけではありません。

法務省の検討会が行ったのは、生成AIの普及などによって生じている新しい問題について、現在の法律やこれまでの判例をもとに、どのような場合に民事責任が生じるのかを整理することです。

また、今回の報告書そのものには法的拘束力がありません。

そのため、

「今日からAIで他人の声を作ったら犯罪になる」

という話でもありません。

むしろ今回のニュースは、

AIによってこれまで想定されていなかった利用方法が登場したため、既存の法律をどのように適用するのかを政府が整理した

と理解する方が正確です。

「声の権利」は著名人だけの問題ではない

ここまで読むと、

「声優や芸能人の話だから、自分には関係ない」

と思うかもしれません。

しかし、生成AIの技術が進歩すれば、この問題は一般の人にも関係してくる可能性があります。

例えば、

自分の声そっくりのAI音声を勝手に作られる。

あるいは、

自分になりすまして電話やSNSで発言される。

さらに、

自分の声を使って、商品やサービスを宣伝される。

といったことも技術的には可能になっていきます。

こうなると問題は、

「有名人の声を守るにはどうするか」

だけではありません。

「AIによって自分自身を再現されたとき、私たちはどこまで自分を守ることができるのか」

という問題になります。

実際、政府も生成AIによるなりすましや声の無断利用について、パブリシティ権などの侵害が生じ得るケースを含めて対応の検討を進めています。

おわりに

現代は、生成AIの登場によって、

本人がいなくても、本人そっくりの声を作ることができる

ようになりました。

これまでなら「モノマネ」で済んでいた問題も、特定の人物の声がAIによって大量に、簡単に、そして商業的に利用できるようになれば、話は変わってきます。

今回のニュースが教えてくれるのは、単に「AIで声を作ってはいけない」ということではありません。

むしろ、

「人間の声をどこまで自由にまねてもよいのか」

そして、

「他人の声が持つ価値を、どこから無断で利用してはいけないのか」

という、新しい時代の境界線が模索されているということです。

生成AIが「人間そっくり」に近づいていくほど、私たちは改めて、

「人間そのものには、どこまで権利があるのか」

を考える必要があるのかもしれません。

【目次】


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