#444 なぜ日本では死刑制度が残っているのか?
世界では近年、死刑を廃止する国が増えています。
特にヨーロッパでは、
「国家が人の命を奪うべきではない」
という考え方が強く、EU加盟国のほとんどは死刑を廃止しています。
しかし、その一方で日本では現在も死刑制度が維持されています。
内閣府の世論調査では、死刑制度を「やむを得ない」と考える人が8割を超える状態が続いています。
なぜ、日本では死刑制度が残っているのでしょうか。
そこには、
・被害者感情
・世論
・日本の刑事司法
・「永山基準」と呼ばれる判断基準
など、複雑な背景があります。
世界では死刑廃止が「多数派」
現在、世界では死刑を廃止する流れが強まっています。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、2025年時点では、
・法律上も完全に死刑を廃止している国 … 約110か国
・戦争犯罪など特殊な場合を除いて廃止している国 … 約10か国
・長年執行しておらず、事実上廃止状態の国 … 約20か国
とされています。
つまり、世界全体では約3分の2以上の国が、実質的に死刑制度を使っていないのです。
一方で、死刑制度を維持している国は約50~55か国ほどとされています。
ただし、その中でも実際に毎年死刑を執行している国は限られています。
ヨーロッパでは「死刑反対」が常識に近い
特にヨーロッパでは、多くの国がすでに死刑を廃止しました。
これは第二次世界大戦後、
・人権意識の高まり
・国家権力への警戒
・冤罪への恐れ
などが強まったためです。
特にヨーロッパでは、
「国家であっても命を奪うべきではない」
という価値観が広がっていきました。
そのためEUでは、加盟条件として死刑廃止が事実上求められています。
つまりヨーロッパでは、
「死刑制度を残しているほうが珍しい」
という状況なのです。
では、なぜ日本では残っているのか?
ここで多くの人が疑問に思います。
「世界で廃止が進んでいるなら、日本もそうなるのでは?」
しかし現実には、日本では死刑存続支持が非常に強いのです。
内閣府の世論調査では、
約8割の人が
「死刑制度はやむを得ない」
と回答しています。
これは欧州諸国と比べてもかなり高い割合です。
つまり、日本では政治家だけでなく、国民世論そのものが死刑制度維持を支持している面が大きいのです。
被害者感情という大きな問題
日本で死刑支持が強い理由の一つが、「被害者感情」です。
たとえば、
・家族を殺された
・子どもを奪われた
・通り魔事件で人生を壊された
という被害者遺族にとって、加害者に極刑を望むという感情は自然なものでもあります。
特に日本では1990年代以降、犯罪被害者の権利が重視されるようになりました。
以前の刑事裁判は、
「国家 vs 被告人」
という構図が中心でした。
しかし近年では、
「被害者遺族の気持ちも重視すべきだ」
という考え方が強まっています。
そのため、
「命を奪った犯罪には命で償わせるべきだ」
と考える人も少なくありません。
「永山基準」とは何か
では、日本ではどんな場合に死刑が選ばれるのでしょうか。
ここで重要なのが、
「永山基準」
と呼ばれる考え方です。
これは、永山則夫連続射殺事件の裁判をきっかけに作られた基準です。
1968年、19歳だった永山則夫は4人を射殺しました。
この事件は社会に大きな衝撃を与えます。
その後、最高裁は1983年の判決で、死刑を判断する際の基準を示しました。
それが「永山基準」です。
具体的には、
・犯行の残虐性
・被害者数
・遺族感情
・社会への影響
・犯人の年齢
・前科
・反省の有無
など、複数の要素を総合的に判断するとされました。
特に実務上は、
「被害者が複数かどうか」
が重視される傾向があると言われています。
つまり、日本では
「殺人=死刑」
ではありません。
さまざまな事情を総合的に考慮したうえで、極めて慎重に判断されているのです。
日本は「冤罪」をどう考えているのか?
ただし、死刑制度には強い批判もあります。
その最大の理由の一つが、
「冤罪だった場合、取り返しがつかない」
という問題です。
有罪判決は後から覆せても、死刑が執行されれば命は戻りません。
実際、日本でも過去に冤罪事件が問題になってきました。
近年大きく注目された袴田事件では、長年死刑囚だった人物の再審が認められました。
こうした事件は、
「本当に国家に命を奪う権利を持たせてよいのか」
という議論につながっています。
「日本ではなぜ死刑支持が多いのか?」
さらに、日本では犯罪に対して厳しい処罰を支持する傾向が比較的強いと指摘する研究者もいます。
その背景には、日本では謝罪や反省によって社会との関係を修復することを重視する傾向があることが挙げられます。
歴史的には、共同体を重視する社会や儒教、武士道などの影響も背景にあると考えられています。
そのため、重大犯罪に対しても、
「厳しく責任を問うべきだ」
という世論が形成されやすいという見方があります。
また、日本は比較的治安が良い国です。
だからこそ、凶悪事件が起きた際の衝撃も大きく、
「絶対に許せない」
という世論が高まりやすい面もあると考えられています。
「死刑制度」は簡単に答えが出ない問題
死刑制度は、
・人権
・被害者感情
・冤罪
・国家権力
・犯罪抑止
など、さまざまな問題が複雑に絡み合っています。
だからこそ、世界でも意見が大きく分かれているのです。
世界では、すでに3分の2以上の国が実質的に死刑制度を使わなくなっています。
しかし日本では、
・世論支持
・被害者感情
・犯罪に対する厳しい責任追及の意識
などを背景に、現在も制度が維持されています。
つまり、日本の死刑制度は単なる法律の問題ではなく、
「日本社会が犯罪とどう向き合うのか」
という価値観そのものを映しているのかもしれません。
そして、このテーマに「絶対の正解」はないからこそ、今も世界中で議論が続いているのです。
【目次】
