#495 核融合発電は世界を変える?~VIVANTでも話題の次世代エネルギー~
「核融合」という言葉を、最近耳にする機会が増えていませんか。
核融合は、これまでSFの世界のように思われてきた技術です。
ところが現在、世界各国が実用化に向けて研究開発を進めています。
日本でも、政府が2030年代の発電実証を目指す方針を掲げており、核融合を単なる遠い未来の技術ではなく、将来のエネルギー産業として捉える動きが強まっています。
そして2026年9月現在放送中の、ドラマ『VIVANT』第2シーズンでも核融合が物語の重要な要素として登場しました。
第16話では、作中のAIが核融合について解説する場面まで描かれています。
では、そもそも核融合とはどのような技術なのでしょうか。
そして、もし核融合発電が実用化されたら、私たちの社会は本当に大きく変わるのでしょうか?
核融合発電とは?
核融合とは、軽い原子核同士を融合させ、そのときに生じる大きなエネルギーを利用する反応です。
太陽が大量のエネルギーを生み出しているのも、核融合反応によるものです。
現在、核融合発電では、主に水素の仲間である「重水素」と「三重水素(トリチウム)」を燃料として利用する方式が研究されています。
核融合を起こすには、燃料をものすごく高い温度にする必要があります。
その温度はおよそ1億度とされています。
もちろん、1億度で固体を保てる物質は存在しません。
そのため、強力な磁石の力で原子を浮かせた状態で核融合反応を起こすという仕組み(磁場閉じ込め方式)や、燃料となる小さな球(ペレット)に向けて、周囲から一斉に超強力なレーザーを照射して高温を生み出す仕組み(慣性閉じ込め方式)が研究されています。
詳しくは以下の動画を参考にしてみてください。
原子力発電とはどう違う?
こうした核融合を利用する発電に対し、「核分裂」の反応から生まれるエネルギーを使用するのが原子力発電です。
原子力発電では、ウランなどの重い原子核を分裂させ、そのときに発生する熱で水を沸騰させ、蒸気でタービンを回して発電します。
どちらも「核エネルギー」を利用する発電ですが、反応の仕組みは大きく異なるのです。
核融合発電のメリットとデメリット
核融合発電の燃料は海水?
核融合が注目される大きな理由の一つが、燃料の資源面です。
核融合で使われる重水素は海水中に存在しています。
そのため、化石燃料のように特定の地域に資源が集中している状況とは異なり、世界中どこでも発電に用いる燃料を得られる可能性があります。
クリーンなエネルギー
もう一つの大きな特徴が、核融合発電では二酸化炭素をほとんど排出しないことです。
核融合反応そのものでは、化石燃料を燃やす場合のような二酸化炭素は発生しません。
事故のリスクが低い
また、核融合は反応を維持するために燃料を供給し続ける必要があります。つまり、何らかの原因で燃料の供給やプラズマの維持ができなくなれば、反応は止まります。
核融合戦略に関する文部科学省の資料でも、核融合には「燃料の供給を止めれば反応が停止する」という特徴が示されています。
放射性廃棄物のリスクが低い
さらに、核融合発電には、現在の原子力発電とは異なる放射性廃棄物の特徴があります。
現在の原子力発電では、使用済み燃料を再処理する過程で「高レベル放射性廃棄物」が発生します。
これは非常に強い放射能を持ち、放射能が十分に低下するまでには非常に長い時間がかかります。
そのため、日本では地下深くに埋める「地層処分」が計画されています。
これは、人間の世代をはるかに超える、10万年規模の長い時間を考えなければならない問題です。
一方、核融合発電では、核分裂炉から出るような高レベル・長寿命の放射性廃棄物は発生しないとされています。
ただし、核融合でも放射性廃棄物がゼロになるわけではありません。
核融合反応で発生する中性子によって、炉を構成する金属などが放射化するためです。また、燃料として使う三重水素(トリチウム)は放射性物質なので、適切な管理が必要です。
ただし、核融合炉で発生する放射化物の多くは、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物とは性質が異なります。
ITERの説明では、廃棄物に含まれるほとんどの放射性同位元素は半減期が10年未満で、100年以内には放射能が十分に低下し、再利用できる程度になると見込まれています。
これは、現在の原子力発電で問題となっている高レベル放射性廃棄物とは大きく異なる点です。
商業的に発電できる核融合発電所は実現していない?
核融合反応そのものを起こすことと、それを安定して長時間維持し、発電所として電力を供給することは別の問題です。
現在は、ITERや日本のJT-60SAなどをはじめ、世界各地で実用化に必要な技術の研究が進められています。日本では2030年代の発電実証を目指した政策も進められています。
つまり、核融合は「もうすぐ完成する発電方法」というより、実用化を目指して世界中で開発競争が進んでいる技術なのです。
なぜ核融合は「歴史を変える」と言われるのか?
それでも核融合が「歴史を変える」と期待されるのは、実用化された場合の影響が非常に大きいからです。
現在の世界は、石油や天然ガス、石炭などの化石燃料に大きく依存しています。
そのため、エネルギー資源を持つ国と、輸入に頼る国との間には大きな関係があります。
例えば、日本はエネルギー資源の多くを海外から輸入しています。
もし核融合発電が大量かつ安定的に利用できるようになれば、化石燃料への依存度を下げられる可能性があります。
これは単なる発電方法の変更ではありません。
エネルギーをめぐる国際関係そのものが変化する可能性があります。
石油や天然ガスを輸出することで大きな収入を得ている国にとっては、エネルギー市場の構造が変わることになります。
逆に、エネルギー資源を海外から大量に輸入している国にとっては、エネルギー安全保障を強化するチャンスになります。
日本政府も、核融合エネルギーの実現を「自律性の確保」や「経済安全保障」の強化につながるものとして位置づけています。
ただし、ここで注意したいことがあります。
核融合が実用化されたからといって、石油や天然ガスがすぐに必要なくなるわけではありません。
航空機や化学製品など、化石資源には発電以外の用途もあります。
また、原子力発電もすぐに消えるとは限りません。
核融合発電が十分に安価で安定した電力を供給できるようになるまでには、技術的・経済的な課題があります。
さらに、再生可能エネルギーなど他の電源も発展していくでしょう。
したがって、核融合が実用化されれば「すべてのエネルギーが核融合に置き換わる」というより、世界のエネルギーをめぐる選択肢が大きく変わると考えたほうが正確です。
核融合技術を持つ国が一人勝ちする?
では、核融合技術を最初に実用化した国は、世界のエネルギーを独占できるのでしょうか。
これも単純には言えません。
核融合発電には、プラズマ制御、超伝導磁石、材料、燃料供給、発電設備など、非常に多くの技術が必要です。
そのため、仮にある国が先行して実用化に成功したとしても、世界中の国がその技術をまったく利用できなくなるとは限りません。
一方で、核融合に必要な重要技術や部品、知的財産を先に確立した国が、世界のエネルギー産業で大きな影響力を持つ可能性はあります。
これは現在の半導体やAIなどと似た側面があります。
技術そのものだけでなく、その技術を支える企業、人材、製造設備、特許、サプライチェーンまで含めて考える必要があります。
だからこそ、日本政府も核融合を研究開発だけの問題としてではなく、産業政策や経済安全保障の観点からも捉えています。
『VIVANT』で核融合技術をめぐって国家や組織が動く展開が描かれるのも、こうした現実の世界情勢を考えると、完全な絵空事とは言い切れません。
おわりに
核融合発電は、まだ実用化された発電方法ではありません。
現在は、世界各国が実用化に向けて研究開発を競っている段階です。日本でも2030年代の発電実証を目指す取り組みが進められています。
それでも、核融合が注目されるのは、その先にある可能性が大きいからです。
化石燃料への依存を減らせるかもしれない。
エネルギー資源をめぐる国際関係が変わるかもしれない。
エネルギーを輸入している国と輸出している国の立場が変わるかもしれない。
そして、核融合に必要な技術を持つ企業や国が、新しい産業の中心になるかもしれません。
もちろん、実用化にはまだ多くの課題があります。
だからこそ、核融合を「夢のエネルギー」として見るだけではなく、技術開発の進展が社会や国際関係をどのように変える可能性があるのかという視点で見ることが重要なのです。
『VIVANT』で描かれている核融合をめぐる争いはフィクションですが、
「もし世界のエネルギー事情を根本から変える技術が生まれたら、国家間の関係はどうなるのか」
という問いそのものは、現実の国際社会でも重要なテーマになっています。
【目次】
