見出し画像

テレビからペーパービューへ。格闘技ビジネスの収益構造を、経理の視点でRIZINから読み解いてみた」

私は格闘技が好きで、RIZINをよく観ています。2026年9月10日、京セラドーム大阪で「超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」が開催されました。今回は、いつもの実体験ベースの記事とは少し違い、RIZINの歴史とビジネスモデルを、経理の視点で読み解いてみたいと思います。


RIZINという団体について

RIZINは、株式会社ドリームファクトリーワールドワイドが主催する総合格闘技(MMA)・キックボクシングの興行団体です。代表を務めるのは榊原信行氏。1997年に始まった格闘技イベント「PRIDE」の運営に初期から関わり、2003年からはPRIDEを主催していたDSE(ドリームステージエンターテインメント)の代表取締役を務めた人物です。2007年にPRIDEの経営権をUFC側に売却したのち、2015年に新たに立ち上げたのがRIZINです。何が言いたいかというと榊原信行氏あっての現在の総合格闘技・キックボクシング業界ということです。
先日2026年9月10日に行われた「超RIZIN.5 浪速の超復活祭り」は、RIZIN史上初の京セラドーム大阪開催となり、朝倉未来vs青木真也戦や、RIZIN・PFL(米国の総合格闘技団体)のフェザー級王座統一戦などが組まれました。放送はABEMAが独占し、PPV(ペーパービュー、都度課金の視聴形式)で全試合が生中継され、大いに盛り上がりました。平日開催となりましたが、私は仕事を早く切り上げてPPVで閲覧しました。

PRIDEの時代:収益の柱は「テレビ」と「チケット」だった

RIZINを理解するには、その前身であるPRIDEの歴史を振り返る必要があります。PRIDEは1997年に始まり、2000年代には日本の総合格闘技の最高峰として、さいたまスーパーアリーナなどで大規模な動員を記録しました。私は現在30代ですが、大晦日といえば格闘技で、毎年家族で格闘技を見て大晦日を過ごしていました。
特に記憶にあるのかが以下試合です。

●2003年 K-1 PREMIUM 2003 Dynamite!! / ボブ・サップ vs 曙
●2005年 K-1 PREMIUM 2005 Dynamite!! / 山本"KID"徳郁 vs 須藤 元気
●2005年 PRIDE 男祭り 2005 -ITADAKI- / 小川 直也 vs 吉田 秀彦
●2006年 PRIDE 男祭り 2006 -FUMETSU- / エメリヤーエンコ・ヒョードル vs マーク・ハント
●2009年 Dynamite!! 〜勇気のチカラ2009〜 / 魔裟斗 vs アンディ・サワー
●2010年 Dynamite!! 〜勇気のチカラ2010〜 / 高谷 裕之 vs ビビアーノ・フェルナンデス

当時の格闘技興行の収益構造は、現在とはっきり違っていました。地上波テレビの放送権料と、会場のチケット収入が収益の柱だったと推測します。当時はまだ配信という視聴手段が一般的でなく、地上波で無料放送されることが、スポンサー収入・知名度・選手のファイトマネー原資のすべてに直結していました。PRIDEも、フジテレビで試合当日または同週に録画放送されており、この地上波放送枠こそが最大の収益源だったと言われています。
その収益構造の裏返しとして、PRIDEの崩壊は「テレビ」という収益源を失ったことで一気に進みました。2006年、PRIDEを主催するDSEをめぐる週刊誌報道をきっかけに、フジテレビは同年6月、DSEとの契約を解除してPRIDE中継を打ち切りました。地上波の看板を失ったことで、高額なファイトマネーを抱えていたPRIDEの収益構造は一気に立ち行かなくなり、2007年3月、榊原氏はPRIDEの経営権をUFCの運営会社ズッファのオーナー、ロレンゾ・フェティータ氏に売却したとされています。売却額は、報道によって「65百万ドル」とするものと「200億円規模」とするものがあり、正確な金額は公式には確認できていませんが、いずれにしても数十億円〜百億円規模の取引だったとみられます。
経理の視点で見ると、PRIDEの崩壊は非常に象徴的な事例です。収益の大部分を「地上波テレビ」という1つの取引先に依存していたことで、その関係が失われた瞬間に、事業の存続そのものが揺らいでしまった。特定の販路・取引先への依存度が高い事業ほど、その関係が途切れたときの経営インパクトが大きくなる、ということを、PRIDEの事例は物語っています。

RIZINの時代:収益の柱は「ペーパービュー」に

RIZINは2015年の旗揚げ当初からフジテレビとの関係を持ち、当初は録画中心の放送でしたが、2019年7月のRIZIN.11(さいたまスーパーアリーナ)から地上波での生中継が本格化しました。PRIDE崩壊から10年以上を経て、総合格闘技が再び地上波の看板コンテンツに返り咲いた形です。
ところが、2022年5月、榊原氏をめぐる週刊誌報道をきっかけに、フジテレビは同年6月に予定されていた「THE MATCH 2022」(那須川天心vs武尊)の中継中止を発表しました。これ以降、RIZINの地上波中継は行われなくなりました。ここでもまた、特定の報道をきっかけに地上波という収益源を失う、という展開が繰り返されたことになります。
地上波を失って以降、RIZINの収益の中心はABEMAをはじめとする配信プラットフォームでのPPV(ペーパービュー、都度課金の視聴形式)に移っていきました。視聴者が1大会ごとに数千円を支払って視聴する仕組みで、地上波の広告収入や視聴率に左右されず、視聴者から直接収益を得られるのが特徴です。2026年8月には、RIZINの国内PPV配信をABEMAに一本化する方針も発表されており、配信プラットフォームへの依存度はさらに高まっています。また、地上波中継を失った直後の実例として分かりやすいのが、この「THE MATCH 2022」(那須川天心vs武尊、2022年6月19日・東京ドーム)です。これはRIZIN単独の興行ではなく複数団体が関わるクロスプロモーション企画でしたが、榊原氏がプロデュースに関わったとされています。チケット(ゲート)収入が約20億円、PPV売上が28億円超(購入件数53万件超)で、合計約50億円の売上が報じられました。地上波中継がなくなってもなお、1興行だけでこれだけの売上が立つというのは、PPVという収益モデルならではの規模感です。
さらにRIZINは強者ノ巣という会員コンテンツも行っており、こちらも収入源となっています。(無料プランもあり)

ここからは、運営会社全体の数字ではなく、今回の「超RIZIN.5」という1大会に絞って、経理の視点で売上規模を試算してみます。運営会社の年間財務数値は情報源として不確定な部分が多く、コロナ禍のデータであるなど前提条件も古いため、今回は参考情報として外し、公表されている動員数やチケット価格、PPV価格といった具体的な数字から、チケット・PPV・スポンサーという3本柱の売上を推測してみます。以下の数値は公式発表そのものではなく、あくまで公開情報をもとにした仮の試算である点はご了承ください。
まずチケット売上です。今回の動員数は48,968人と報じられています。RIZIN公式サイトによると、チケットは外野A席15,400円から、最高額のVVIP1列席110万円まで全10種類の価格帯が用意されており、VVIP席やSRS席、S席など上位の席種の多くは完売となっていました。座席種類ごとの販売数は公表されていないため、あくまで一般的なアリーナ興行の座席構成(会場全体の大部分を外野A席・A席クラスの比較的安価な席が占め、プレミアム席は数百席程度という配分)を仮定して計算すると、加重平均の客単価はおおよそ23,000〜24,000円程度と推測されます。これを動員数にかけると、チケット売上はおおよそ11億〜12億円程度という規模感になります。(少し保守的かもしれません。客単価を30,000円とすると15億円程度です。)
ちなみに過去主要大会の動員数以下です。
● 超RIZIN.3(朝倉未来 vs 平本蓮):48,117人
● 超RIZIN.4:43,965人
● RIZIN.45:23,013人(ナンバーシリーズ)

次にPPV売上です。今回のPPV価格は、当日視聴でブラウザ6,900円・アプリ7,600円(事前購入はさらに割安)となっており、ブレンド単価は7,000円前後と見ておきます。購入件数は公表されていませんが、過去のRIZIN大会の実績を参考にすると、今回は少なくとも20万件前後のPPV購入があったと仮定するのが妥当だと考えます。これを単価にかけると、PPV売上はおおよそ14億円程度と試算でき、チケットと合わせた大会単体の売上は25億円~というところまで積み上がります。
過去のPPV販売数
●RIZIN.47:約12万件
●RIZIN.48:約11万件
●RIZIN.49:約28.4万件
●RIZIN LANDMARK 10:約5.4万件
●超RIZIN.3:約42万件

これに加えて、スポンサー収入もあります。RIZINはリングサイドの看板やユニフォーム露出など、多数の企業スポンサーを抱えており、その金額は非公開です。一般的な格闘技興行ではスポンサー収入が興行収益全体の1〜2割程度を占めるケースもあることを踏まえると、今回の大会だけでも数千万円〜数億円規模の上乗せがあったと推測されます。正確な金額は分かりませんが、チケット・PPV・スポンサーという3本柱で、1大会あたりで数十億円を超える売上が立っている可能性が高いというのが、今回の試算から見えてくる姿です。

会場動員から見える、興行というビジネスの規模感

京セラドーム大阪というプロ野球で使われる大型会場を、格闘技イベント1つでほぼ満員近くまで埋めたという事実は、単純に「大きな箱を借りて興行を打てば儲かる」という話ではなく、それだけの集客力と客単価を実現できるコンテンツ力があって初めて成立するビジネスだということを示しています。さらに今回の興行は平日開催です。(土日の会場を押さえられなかったとか)会場費やファイトマネー、演出・中継にかかる制作費なども当然かさむため、興行単体の利益率がどの程度かまでは分かりませんが、少なくとも「売上規模」だけで見れば、1大会でこれだけの数字を作れる興行は、国内の格闘技ビジネスの中で最大だと思います。

RIZINが生み出した「格闘技ブーム」というもう一つの資産

経理の数字だけを見ていると忘れがちですが、RIZINがここまでの動員力・PPV購入者数を獲得できた背景には、朝倉未来選手や朝倉海選手、那須川天心選手といった、格闘技ファン以外にも名前が知られるスター選手たちの存在があります。彼らの試合がきっかけでRIZINを知り、YouTubeやSNS経由でファンになったという人も多く、これは決算書の数字には直接表れない、RIZINというブランドが積み上げてきた「無形資産」だと感じます。今回の京セラドーム大阪という大型会場で平日に開催すること自体が、この数年で格闘技ブームが確かな規模にまで育ってきたことの証明のようにも見えます。

メインとセミメインの温度差から見える、興行の難しさ

今大会のメインイベントは、19戦無敗・全戦フィニッシュ勝利中のRIZINフェザー級王者ラジャブアリ・シェイドゥラエフと、元Bellator世界フェザー級王者でPFLのトップコンテンダーだったAJ・マッキーによる「RIZIN・PFLフェザー級Wタイトルマッチ」でした。RIZIN王座シェイドゥラエフの防衛戦、PFL王座は王座決定戦を兼ねるという珍しい形式で、結果はシェイドゥラエフが4度目の防衛に成功すると同時に、初代PFL世界フェザー級王者にも輝きました。世界的なMMAファンの間では「今、世界で誰が一番強いのか」が見える一戦として大きな話題になっていたカードです。
一方セミメインでは、日本国内で圧倒的な知名度を誇る朝倉未来選手と青木真也選手の一戦が組まれていました。会場に足を運んでいた観客の中には、朝倉未来選手の試合を一番の目当てにしていた方が多かったためか、セミメインが終わった時点で席を立ち、会場を後にする人が一定数いたと聞いています。間違いなくメインイベントのほうが世界基準の一戦だったにもかかわらず、です。この様子からは、日本の格闘技ファンの多くが「MMAというスポーツ」そのものよりも、「朝倉未来というスーパースター」を見に来ているという構造が透けて見えました。
興行ビジネスとして成立させるには、純粋な強さ・競技レベルを追求するだけでなく、観客がどの試合を「目当て」として財布を開くのか、つまり誰をどう主役に据えて興行を組み立てるかという設計力が同じくらい重要になります。世界最強を決めるような一戦をメインに置いても、それだけでは興行として最大化できないというのは、スター選手のマネジメントも含めた「興行」というビジネスの難しさを物語っていると感じました。ちなみに私個人としては、シェイドゥラエフ vs AJマッキー戦は近年で一番興奮したベストバウトと言えるくらいの好カードだったと思っています。次々と日本人を難なく倒し嫌われ者だった?シェイドゥラエフがRIZINを背負ってAJマッキーと二つのベルトをかけて戦って勝った。この事実が痺れます。今後もシェイドゥラエフを追い続けます。

まとめ

今回は、いつもの実体験ではなく、RIZINとその前身であるPRIDEの歴史や、超RIZIN.5の売上を経理の視点で読み解いてみました。PRIDEの時代は地上波テレビとチケット収入が収益の柱で、その収益源を失ったことが崩壊の直接の引き金になりました。RIZINの時代になると、収益の柱はペーパービューに移り、視聴者から直接収益を得るモデルに変わり、今回試算した通り、1大会だけで数十億円という売上規模にまで成長しています。……と、ここまで経理目線(経営目線)で数字をあれこれ推測してきましたが、正直なところ、会場やPPVで朝倉未来選手や那須川天心選手の試合を観ているときに、こうした数字のことを考えている人はほとんどいないと思います。格闘技は、細かい収益構造を知らなくても、シンプルに「かっこいい」「熱い」で十分楽しめるコンテンツです。経理として数字を追いかけるのも面白いですが、結局のところ格闘技は最高なので、皆さんもぜひ、難しいことは抜きにして純粋に試合を楽しんでみてください。(一方でこのような楽しいコンテンツを届ける側では経理の視点が非常に重要になります。)
榊原さんいつもありがとうございます!
読んでいただき、ありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!