【名盤紹介】The Village Green Preservation Society-The Kinks
日々音楽を愛聴するゲンコツこと俺だが、「人生の最期に針を落とす一枚を選べ」と言われれば――部屋をウロウロし、コーヒーを淹れ、ジョイントに火をつけ、音楽との人生を思い出し、笑顔するだろう。3時間くらいそうして、最終的にこれを掴む気がするよ。
キンクスの
The Kinks Are the Village Green Preservation Society
だ。
このアルバムをどう説明すりゃいいだろうか。
たとえば、川のほとりで一人座り込んだとするぜ。鳥が鳴いている。風も吹いている。まぁ何も起きない。暇なもんだ。
すると、頭にタオルを巻いたジジイの小汚ねえチャリンコが、歩くのと大して変わんねぇスピードで河川敷をチンタラいく。
むこうじゃ別のオヤジが二時間くらい釣れていない。それでも微動だにしねぇ。魚より先にテメェの老後を釣り上げそうなツラをしてやがる。
そして、そんな光景を20分くらいボケェ〜っと眺めている自分に気づく。
――そんな瞬間に「悪くないな」と思えるナイスはヤローなら、たぶんこのアルバムから一生逃げられねぇはずだ。
1968年といえば、皆がポップスという音楽の世界を変えようとしていた時代。あらゆるジャンルの扉を開けた黄金時代。
そんな中でキンクスのヤツらは何をしてたか。
「村の緑を守ろう」
「古い家っていいよね」
「変なおばさんいるよね」
「蒸気機関車って、なんか寂しくない?」
ロック史の濁流の横で、一人だけ用水路を覗き込んやがる。
レイ・デイヴィスという男は、普通なら見逃す感情ばかり拾う。
「あの潰れそうな商店街、ちょっと好きだった」
「何も起きない午後って、あとで思い出す」
「どうでもいい風景が、ある日突然泣きそうになる」
そんな、“人生のメインディッシュになり損ねた感情”を、異様な精度で保存している。
だが、このアルバムの怖いところは、ノスタルジーだけでは終わらなねぇところだ。
単に「昔は良かった」ってことじゃねえ。
むしろ、「全部いつかは消えてしまうけれど、それでも愛したい」という、やけに静かな諦めがあんのよね。
青春は終わる。
村は変わる。
店は潰れる。
川辺のオヤジはそのうちいなくなる。
でも、確かにあったんだよね。
レイ・デイヴィスは、それをロックの絶叫ではなく、まるで古い写真を机に置くみたいに歌う。
半世紀以上経った今、このアルバムが古びない理由はそこにある。
あの、何も起きなかった時間こそ、人生だったのかもしれないと。
だから俺は今日もまた、この奇妙な小さな村へ帰りたくなる。
ロック史の片隅で、誰にも頼まれていないのに村の緑を守り続ける、少し変なナイスな英国人たちのところへ。
最後にレイ・デイヴィスのコメント
「『THE VILLAGE GREEN PRESERVATION SOCIETY』は個人的に、自分の人生におけるある時代の終焉についての作品だと思う。自分の想像の中にある町のアルバムであり、無邪気さ、そして若さの終わりを描いている。かなり年を取った人もいるが、VILLAGE GREENでは大人になることが許されていないのさ。この作品自体が、一つのライフ・サイクルの一部だと感じているんだ」―レイ・デイヴィス
