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波の音 ②

「波の音」と書き殴られた看板が波打ち際に投げ出されていた。瓶に入っていたにしては大きすぎた。ダイイングメッセージかも知れなかったがそれらしい遺体もなかった。探偵はパイプを噛み締めた。これはやはり波の音ではなく波の塔だろう松本清張の。wikiを開くとあらすじが出ている。社会派ミステリにしてロマンス小説、不倫小説だが失楽園とは一線を画する。心中物にありがちな、つっころばしの若旦那と花魁の恋、トリスタンとイゾルデを原型とする愛と死の物語でありながら登場人物は中世の異国人でなくわが国の現代の身近さを感じさせる上級国民だ。読者は、通俗ものなんか読んでいませんよ栄養バランスの良い青椒肉絲ですピーマンだって食ってやるとその実肉だけをつまんで食べる、青年検事が向き合う不倫の末の傷害事件とその考察部分はて飛ばし恋愛シーンのみ拾い読みするごとく。

 助手が駆け寄る。旅館の看板でした。右から読んで「音の波」音波とは無関係です。おとのなみ、お殿様並みのサービスを謳っていましたが、やはり女性客にもウケなくてはね、時代の波に負けたようでホテルグループに居抜きで買収されたようです。

 家に戻ってもう一度波の塔を読み返してみよう、男側のご都合主義に走り過ぎていないか確かめるために。


531字

 改めて読み返した「波の塔」は、思いがけず松本清張にしては週刊女性連載のメロドラマだった。ここまではネット上のレビューの意見に左右された感想だ。以下ネタバレアリ。それ以外にも気づいた点がいくつかある。まずはトラベル小説である。登場する観光地の地名はすべて実名だ。主役の二人は上諏訪、深大寺、横浜などでデートを重ねる。唯一頭文字扱いのS温泉とはどうみても山梨県の下部温泉郷だ。石原裕次郎の定宿もある。つまり鉄道ミステリ要素がある。そして何よりこれはアンナ・カレーニナの翻案なのだった。小野木はヴロンスキーで頼子はアンナ、結城はカレーニンで田沢はオブロンスキーでワカ子はキティなどなど。あなたは問うだろうレービィンは? コズヌイシェフは? こんなに汚職の蔓延る社会はサッサと革命すべきという話? ラストでヒロインは東京駅で待つ恋人をよそに一人富士吉田に向かう。下りてしまえばそれは彼の破滅を意味したとある。ああ、線路に飛び込めばパクリバレバレという意味ね?


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