見出し画像

【ハーブ天然ものがたり】月桂樹(ローレル)勝者に捧げる冠と、抱擁を拒んだ精霊の記憶



勝利の象徴としての日用品―スープに浮かぶ一枚の葉から

スープや煮込み料理の鍋底から、ふわりと爽やかな香りを立ち上らせる乾燥ハーブ「ローリエ」や「ベイリーフ」。
キッチンでごく当たり前に手にするその一枚の葉は、古代ギリシャ・ローマの世界において、太陽神アポロンの聖樹であり、栄光と勝利を象徴するハーブです。

地中海沿岸に息づくクスノキ科の常緑樹、今回はローレルの神話の深層と、古代の人々が紡いできたエーテル世界の物語を紐解いてみたいと思います。

「理想のイケメン神」アポロンの泥臭いルーツ

教科書や美術全集に描かれるアポロンといえば、文武両道で理知的な「太陽の公達」といった完璧なイメージが定着しています。
けれどギリシャ神話のページをめくれば、生まれたばかりのヘルメスに巧妙に牛を盗まれて振り回されたり、恋に破れて取り乱したりと、案外人間臭い(あるいはどこか抜けた)一面を覗かせています。

アポロンは最初から完璧な「太陽神」だったわけではありません。
小アジアの土着信仰、青々と繁茂する植物の精霊、あるいは北方遊牧民の守護神……古代の人々が各地の土地で祈りを捧げていた素朴な神々が、時代の要請とともに「アポロン」という洗練されたひとつの政治的・合理的キャラクターへと統合されていった背景が見えてきます。

「凄腕の理想的青年像」という側面が時代ごとに強く押し出された(いわばパワープレイされた)結果、元々の太陽神ヘリオスとさえも習合され、ついに太陽神アポロンとして光の冠を戴くようになりました。
けれど、明確なアーキタイプ(原型)として形づくられる以前の原初に想いを馳せるなら――彼はあらゆる生命の源であり、男神でも女神でもある原初両性存在「パン(汎)」から分化していった流転の残響なのかもしれません。

パンとディオニュソス―「形を与える力」と「解体する衝動」

原初の神話において、牧神パンは「プロートゴノス(最初に生まれた者)」あるいは「パネース(顕現する者)」と呼ばれ、宇宙の卵から生まれた両性の神であり、大地の神ガイアと天空神ウラノスを生み出した究極の源流とされています。
ギリシャ語の「あまねく、すべて」を意味する接頭語 Pan(汎) の語源でもあるように、彼は世界のあらゆる要素を内包した存在でした。

占星術における山羊座の象徴として描かれるパンは、巨人怪物ティポンに襲われた際、上半身は山羊、下半身は魚という姿になって逃げ延びたといわれます。

海底の深淵から山頂の奇岩まで、この物質世界(地球)ならどこへでも行き来できる万能の姿です。 下半身がヤギの半獣サテュロスとも同一視されるパンは、酒と陶酔の神ディオニュソスのお供としても欠かせない存在です。

興味深いのは、アポロンとディオニュソスの関係性です。
「形式と秩序への衝動(アポロン)」と、「陶酔と創造への衝動(ディオニュソス)」。

ベクトルは真反対でありながら、このふたりは常に互いを補完し合う「対(ペア)」として機能してきました。

形を与えること、個体化すること、境界線を描くこと――そうした造形芸術の原理が「アポロン的」であるなら、個体化した枠組みを陶酔によって解体し、永遠の流動へと還す音楽芸術の原理は「ディオニュソス的」です。

ふたつの極が旋律のように流転することで、地上にドラマティックな物語や芸術が生まれていきます。

同じ古い神(汎なる存在)から分化して創造された「右の柱(アポロン)」と「左の柱(ディオニュソス)」。
アポロンは山羊座の象徴として枠組みを守る理知的な神となり、ディオニュソスは陶酔によってその枠を融解させ、隙あらば外へと溢れ出そうとします。

さらには男性性と女性性を明確に分化させる創造行為の中で、双子の姉妹神アルテミスが置かれたのではないのかな、と。

女神アルテミスは古代アナトリア半島(現在のトルコ)の地母神キュベレ(クババ=「知識の保持者」)の信仰との関連性があり、アポロンは詩神ムーサの主神、医術の神、あるいは「遠矢射る疫病の神」といった多面性があります。
その歴史を辿っていくと、アポロンは単なるイケメン神ではなく、土着の信仰を習合して「現実世界を治める構造(山羊座的スキーム)」をつくり上げたシンボルであることが解ります。

時代が変わり、社会の枠組み(山羊座)を「守るか破るか」だけでなく、次のサインである「水瓶座」的な横の繋がりや、多層的な世界線が交錯する現代で、どのような神話やキャラクターを自分の足場にするかを想像することは、この時代を生きる私たちに与えられた豊かな地上特権なのかもしれません。

ダフネの変身―光の執着から身を隠すグリーン・ポータル

予言、詩歌、音楽、医療の神アポロンにまつわる化身物語の中で、最も切なく美しいのが妖精ダフネとの物語です。

エロースの放った戯れの矢――情熱を煽る黄金の矢を射られたアポロンと、拒絶を刻む鉛の矢を射られたダフネ。 猛烈な求愛から逃げ惑うダフネが最後に選んだのは、逃避ではなく「植物(月桂樹)へと変身すること」でした。

植物は、目に見える物質界と、目に見えない天界(精霊界)を優しく繋ぐ「エーテル体の梯子」のような存在です。
肉体のまま逃げ切ることを手放したダフネは、自らを月桂樹というグリーン・ポータルへ変容させました。

それによってアポロンの過剰な熱情を受け止め、天地を調和させる「地上降下用のお座布団(サンクチュアリ)」へと、自身を昇華させたのだと感じられます。

のちにアポロンがその葉を編んで冠とし、すぐれた才能を持つ勝者や詩人、アスリートへ授けるようになったのは、名誉の象徴としてだけではなく、決して手に入らなかった愛しい存在(エーテル体として佇むダフネ)への、果てしない敬意と憧憬だったのではないのかな、と。

ローレル、ベイリーフ


魔女の箒と預言の夢―エーテル体を調和させるウィッチクラフト

古代ローマ時代、人々は新年を迎えると幸運を祈って月桂樹の枝を贈り合い、カエサルは自らの門をその葉で飾りました。

お祭りの日には教会の床一面に敷きつめられ、中世ヨーロッパでは月桂樹の小枝が「妖精や小人を招く依り代」として飾られたといいます。

空を飛ぶ魔女の箒の柄に使われたという説や、抜けた乳歯とサクランボの種を月桂樹の葉に包んで身につけると周りの人が優しくなるというおまじない、枕の下に敷いて見る預言の夢――。

筋肉の疲れを癒やし血行を促すハーブバスや、キッチンで肉料理の臭みを消すスパイスとしての実用性とともに、人々は月桂樹の中に「目に見えない世界と繋がる力」を脈々と感じ取っていました。

月桂樹には、数あるハーブの中でも際立った古くからの信仰があります。
それは「月桂樹の樹は、決して雷に打たれない」「稲妻から身を守ってくれる」という強い伝承です。

「遠矢射る神」として地上に虐殺の矢を放つアポロンは、なぜ月桂樹にだけは決して矢(雷)を落とさないのでしょうか?
そして、アポロンにまつわるもうひとつの化身物語「血から咲いたヒヤシンス」と、私たちがこれから向かう「水瓶座の時代」には、どのような星のコードが隠されているのでしょう――。

ここからは、天上の叡智、シュタイナー霊学が明かすエーテル体のグラデーション、そして現代の私たちが日常で「魂の聖域(サンクチュアリ)」を取り戻すためのディープな妄想考察へと足を踏み入れていきます。


ここから先は

2,289字
この記事のみ ¥ 350
Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

記事は随時更新(加筆)しています。今後収載記事が増えますので、定期的にお値段も見直ししてまいります。

魔術から化粧品、厨房から医薬まで。所感まじりに綴る、ハーブ今昔物語。【ハーブ天然ものがたり】は有料テキストとして購入頂きましたことを受けて…

Amazon Payで支払うと最大2%還元のチャンス! 9/30まで

このノートが、こころを潤す一助になれたなら、これほどうれしいことはありません。 いただいたサポートは、さらなる星の探究や、植物の声を形にするための「エリキシル(精髄)」として、大切に循環させていただきます。 物語の続きをともに育んでくださるお気持ちに、心から感謝いたします。