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水たまり|#シロクマ文芸部

水たまりをしばらく見つめた後、男はそっと目を閉じた。

昨夜観た世界陸上のシーンが蘇る。

歓声。

熱気。

男は両手を上げる。

頭上で手を鳴らす。

パン。

パン。

パン。

観客が応える。

拍手が波になって広がっていく。

ゆっくりと目を開ける。

数歩下がる。

立ち止まる。

もう一歩下がる。

まだ足りない。

さらに半歩。

そこで頷いた。

靴紐を結び直す。

軽く屈伸をする。

足首を回す。

深呼吸。

右手のひらを湿らせ、太ももを二度叩く。

視線は水たまりから離れない。

風を読む。

もう一度正面を向く。

小さく息を吐く。

右足を引く。

左足を合わせる。

静止。

一秒。

二秒。

三秒。

そして、全ての音が消える。

男は走り出した。

一歩。

二歩。

三歩。

加速する。

腕が大きく振られる。

男は空へ跳んだ。

一瞬、世界が止まる。

次の瞬間。

水たまりのど真ん中に着地した。

盛大な水しぶきが上がる。

男はそのまま空を見上げた。

割れんばかりの歓声。

惜しみない拍手。

男は静かに右手を上げ、その声援に応えた。



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