見えない子供性被害④日本と世界の実態、そして性加害者はなぜ見つからないかその特質性
※ この記事は、子どもへの性暴力という重い主題を扱っています。読んでいてつらくなった方は、無理に読み進めないでください。ご自身やお子さんが被害に遭われている場合、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号 #8891 )、警察相談専用電話(#9110)、こどもの人権110番(0120-007-110)に相談できます。この記事は法的・医学的な助言ではありません。
子どもの性被害は、私たちの社会が直視しなければならない、最も深刻な課題のひとつです。
近年の科学的な調査は、この問題が一部の特殊な事例ではなく、世界中で極めて高い頻度で発生している構造的な問題であることを浮き彫りにしています。
国際研究と日本国内のデータを並べて、被害の実態と加害者の実像を見ていきます。
■ 1. 潜在化する被害の規模
世界規模の推計から見ます。
2023年時点の、児童に対する性的暴力の年齢標準化有病率(Cagney et al., 2025, The Lancet)
女性 18.9%(95%不確実区間 16.0–25.2)
男性 14.8%(95%不確実区間 9.5–23.5)
そして同じ研究は、こうも報告しています。被害を経験した人のうち、最初の被害が18歳未満だったのは、女性で67.3%、男性で71.9%。
ほとんどが、子どものうちに始まっているということです。
別のメタ分析では、165研究・約96万人・80か国を統合して、生涯における強制性交の経験率は6.1%(女子6.8%、男子3.3%)と報告されています(Piolanti et al., 2025)。
日本国内はどうか。
若年層(16〜24歳)の4人に1人以上(26.4%)が、何らかの性暴力被害に遭っている実態が報告されています(内閣府男女共同参画局, 2023)。
そして、性交を伴う深刻な被害に遭っても、52.1%はどこ(だれ)にも相談できていません(内閣府男女共同参画局, 2023)。
表面化している数字は、依然として「氷山の一角」に過ぎません。
■ 2. 教育現場における加害
本来もっとも安全であるべき学校現場での性加害も、深刻です。
米国の大規模調査では、高校を卒業したばかりの6,632名に尋ねたところ、**11.7%**が幼稚園から高校までのあいだに教育職員から何らかの性的不正行為を経験したと報告しました(Jeglic et al., 2023)。
ここは内訳まで書いておきます。
性的な発言 11%
性的な写真やメッセージ、キス、性的な身体接触、性交・オーラルセックス それぞれ1%未満
つまり11.7%の大半は、言葉によるものです。「9人に1人が性被害」と読むのは正確ではありません。
それでも、6,632人の1%は66人です。そして同じ研究で、当局に開示されたのはわずか4%でした。
加害者は85%が男性でした(Jeglic et al., 2023)。
日本では、2023年度(令和5年度)に性犯罪・性暴力等で懲戒処分等を受けた公立学校の教育職員等は320人。過去最多です。そのうち児童生徒に対する性暴力等は157人、つまり約半数でした(文部科学省, 2024)。
■ 3. 性加害者の戦略─性的グルーミング
教育者から性虐待を受けた成人サバイバー24事例を分析した研究では、24事例すべて(100%)で、計画的な性的グルーミング(手なずけ)が行われていました(Jeglic & Winters, 2025)。
※ 24事例という小さな標本であること、成人になってからの回顧的な報告であることは、割り引いて読む必要があります。
行動別の内訳が、この研究のいちばん実用的なところです。
大人に過度に従順で、信頼を寄せやすい子どもを選ぶ 83%
加害者が「魅力的で好かれる物腰」だった 71%
特定の子どもに過剰な注目を与える 67%
一見無害を装った接触 67%
偶然や気そらしを装った接触 67%
2番目に注目してください。
7割の加害者は、感じのいい人でした。
「あんな良い先生が」と思ってしまうのは、私たちの油断ではありません。そう思わせることが、戦略そのものだからです。
そして加害者は、自らの行為を「子どもに優しくしているだけだ」と正当化する「最小化」や「否認」といった認知のゆがみを持ちます。
オンラインでの子どもへの性加害者228名を平均6年3か月追跡した研究では、こうした犯行支持的な認知が、接触型の性再犯を予測する因子になっていました(Paquette & Brouillette-Alarie, 2025)。
■ 4. 再犯の予測
先ほどの追跡研究から、もう少し詳しく(Paquette & Brouillette-Alarie, 2025)。
この研究では、再犯のタイプによって予測因子が異なることが示されました。
対面型(接触型)の再犯を予測したもの
子どもへの情緒的な同一化(子どもを対等な友人のように感じる性質) Harrell's C = .77
子どもを性的な存在とみなす歪んだ信念(Molest尺度) .73〜.75
オンライン再犯を予測したもの
児童性搾取物(CSEM)の消費頻度 .69
ポルノの消費量そのものより、子どもをどう見ているかのほうが、対面加害を予測していた。ここは重要だと思います。
※ この研究はオンライン加害者228名を対象にしたものです。対面加害者一般にそのまま当てはまるかは、別の検証が必要です。また、オンライン性再犯は3.5%でした。
そして、これらはすべて「見つかった加害者」だけのデータです。
■ 結論:構造的な「見えない被害」への対策に向けて
これらのデータは、子どもの性被害が単なる個人的な不幸ではなく、加害者の巧妙な戦略(グルーミング)と、社会的な潜在化(暗数)が組み合わさった構造的な問題であることを示しています。
私たちが目にしている事件の背後には、声を上げられない膨大な数の子どもたちが存在します。
加害者の「認知のゆがみ」や「グルーミング行動」を早期に検知する視点を持つこと。そして被害者が決して自分を責めず、安心して相談できる環境を整えること。
いま、まさに求められています。
■ 3段に分けて整理しておきます
確かめられていること:世界の有病率は女性18.9%・男性14.8%(2023年)。強制性交の生涯有病率6.1%。日本の若年層の26.4%が性暴力被害を経験し、性交を伴う被害では52.1%が誰にも相談できていない。米国では6,632名中11.7%が教育職員による何らかの性的不正行為を報告(大半は言葉、身体接触以上は1%未満)、開示は4%。令和5年度の日本の懲戒処分等は320人、うち児童生徒に対するもの157人。教育者による性虐待24事例のすべてでグルーミングが行われ、加害者の71%は感じのいい物腰だった。
解釈の域にあること:オンライン加害者の研究知見を、対面加害にどこまで一般化できるか。
私の見立て:表に出ている数字は、いずれも「見つかった分」でしかない。

【この記事について】 この記事は、研究の"さわり"(要点の紹介)と、私自身の見立てです。研究デザインの限界やバイアスまで含めた本格的な批判的吟味は、Voicyプレミアム放送やEBLDジャーナルクラブで行っています。ここで紹介した論文は原著にあたって確認していますが、ぜひご自身でも原典を読み、批判的に吟味してみてくださいね。
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【参考文献】
Cagney, J., Spencer, C., Flor, L., et al. (2025). Prevalence of sexual violence against children and age at first exposure: A global analysis by location, age, and sex (1990–2023). The Lancet, 405(10492), 1817–1836. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(25)00311-3
Jeglic, E. L., Calkins, C., Kaylor, L., Margeotes, K., Doychak, K., Blasko, B., Chesin, M., & Panza, N. (2023). The nature and scope of educator misconduct in K-12. Sexual Abuse, 35(2), 188–213. https://doi.org/10.1177/10790632221096421
Jeglic, E. L., & Winters, G. M. (2025). An analysis of sexual grooming in cases of child sexual abuse by educators. Children and Youth Services Review, 170, 108119. https://doi.org/10.1016/j.childyouth.2025.108119
厚生労働省(2021)『令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 潜在化していた性的虐待の把握および実態に関する調査 報告書』(研究代表:髙岡昂太/国立研究開発法人産業技術総合研究所)
Piolanti, A., et al. (2025). Global prevalence of sexual violence against children: A systematic review and meta-analysis. JAMA Pediatrics, 179(3), 264–272. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2024.5326
榊原禎宏・森脇正博(2024)「教員による『わいせつ行為等』の量的研究─教育行政と学校経営における危機管理のために─」『京都教育大学紀要』No. 145, 131–143.
内閣府男女共同参画局(2023)『こども・若者の性被害に関する状況等について』(令和5年6月13日)
Paquette, S., & Brouillette-Alarie, S. (2025). Online sexual offending against children: Recidivism rates and predictors. Sexual Abuse, 37(6), 635–666. https://doi.org/10.1177/10790632241309631
文部科学省(2024)『令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』
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