見えない子供性被害①:性加害者を見つけるより重要なのは目の前の被害者に気づくこと
※ この記事は、子どもへの性暴力という重い主題を扱っています。読んでいてつらくなった方は、無理に読み進めないでください。ご自身やお子さんが被害に遭われている場合、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号 #8891 )、こどもの人権110番、警察相談専用電話(#9110)などに相談できます。この記事は法的・医学的な助言ではありません。
「あんな良い先生が、そんなことをするはずがない」 「うちの学校に限って、そんなことは起こっていない」
皆そう信じたいから、そう信じている。
しかし、今ある研究は残酷な現実を突きつけます。
教育現場や家庭内で発生する子どもへの性加害。その真の姿は、「見つけられない」「見ない」ことに問題の本質があるのです。
先日Nick大西さんとのコラボで、研究から見える数字を中心にお話した内容をまとめました。
■ 1. 「320人」という数字を、どう読むか
令和5年度、性犯罪・性暴力等により懲戒処分等を受けた公立学校の教育職員等は320人でした。過去最多です(文部科学省, 2024)。
ただし、この数字はそのまま「子どもへの加害」ではありません。このうち児童生徒に対する性暴力等は157人です。残りは成人に対する事案などを含みます。
そして、どちらの数字も発覚し、処分に至ったものだけです。
海外の調査を見てみます。米国4州で、高校を卒業したばかりの6,632名に尋ねた研究では、**11.7%**が、幼稚園から高校までの間に教職員から何らかの性的不正行為を受けたと報告しました(Jeglic et al., 2023)。
ここは内訳まで見ておきたいところです。
性的な発言 11%
性的な写真やメッセージ、キス、性的な身体接触、性交・オーラルセックス それぞれ1%未満
つまり11.7%の大半は、言葉によるものです。「9人に1人が性被害」と読むのは、正確ではありません。
でも、ここで安心してはいけないのですね。1%未満といっても、6,632人のうちの数十人です。そして同じ研究で、当局に開示されたのは**わずか4%**でした。
日本の調査でも、性交を伴う性暴力の被害に遭った人の半数以上が、どこにも相談していないと報告されています(内閣府男女共同参画局, 2023)。
被害の規模そのものについては、別の推計もあります。厚生労働省の調査研究事業の報告書に基づくものとして、日本国内で1年間に何らかの性被害を経験している子どもは約39万人という数字が流通しています(厚生労働省, 2021)。1日あたり1,000人以上という計算になります。
※ この39万人という推計については、私自身がまだ原典(本編723ページ)で算出根拠を確認できていません。そのまま鵜呑みにせず、「そういう推計がある」という程度に受け取ってください。
世界に目を向けると、165研究・約96万人・80か国を統合したメタ分析があります(Piolanti et al., 2025)。強制性交の生涯有病率は6.1%(女子6.8%、男子3.3%)、接触を伴う性暴力は8.7%でした。
私たちが目にしている「320人」という数字は、巨大な氷山の、海面から突き出たほんの数センチの破片に過ぎないのかもしれない。
そして被害を自覚していない被害者もいることを考えると、ぞっとします。
■ 2. 「加害者は見つけられない」という事実
なぜ、加害者は見つからないのか。
日本の犯罪白書には、小児わいせつ型・小児強姦型の対象者の教育程度についての調査があります。
でも、これは実情を反映しているでしょうか。ただ捕まりやすい人が捕まっているだけではないでしょうか。
警察に言っても受け止めてもらえずセカンドレイプに遭う。被害者支援を行う者から見れば明らかに性暴力なのに、無罪や不起訴が発生している(齋藤・大竹, 2020)。そうしたことを考えると、実際の被害と、警察に届いた記録は、まったく別物だと私は見ています。
捕まらない性加害者は、巧妙で狡猾です。
彼らは「普通」あるいは「優秀」「信頼のおける」人物の仮面を被り、数十年にわたり膨大な被害者を生み出していると考えています。
社会的地位という壁
加害者は、あらゆる社会階層に存在します。
そして、高学歴で社会的地位が高い人物ほど、その「善良な市民」という属性がバリアとなり、周囲は加害の可能性を想像することさえできなくなるのではないか。
※ ここは実証というより、臨床的な観察と、私自身の見立てです。
性的グルーミング(手なずけ)
教育者による性虐待を受けた成人サバイバー24事例を分析した研究があります(Jeglic & Winters, 2025)。
24事例すべて(100%)で、性的グルーミングが行われていました。
具体的な行動を見ると、こうです。
従順で信頼しやすい子どもを選ぶ 83%
魅力的で好かれる物腰 71%
過剰な注目を与える 67%
無害を装った接触 67%
偶然や気そらしを装った接触 67%
※ 24事例という小さな標本であること、成人サバイバーの回顧的な報告であることは、割り引いて読む必要があります。それでも、何を見ればいいかの手がかりにはなります。
特別な絆を結ぶことで、「先生と私は特別な関係なんだ」という心理的な鎖を、子どもに巻き付ける。
加害者は「大人に従順な子」や「家族のネットワークが薄い子」を狙います。
結果として、子どもは「自分が悪い」「これは二人の秘密なんだ」と思い込まされ(山本, 2010)、支配関係による心理的抗拒不能もあって、声を上げることを封じられます。
■ 3. 「やめられない」という側面─ただし「病気だから」ではない
性加害は、単なる「性的欲求」の問題ではありません。
加害者の心理的要因として、自分では止められないという側面が指摘されています。
ただし、ここは慎重に書きます。
ICD-11には「強迫的性行動症(6C72)」という診断がありますが、パラフィリア症群は明示的に除外されています。 つまり、強迫的性行動症と性加害は、イコールではありません。 ICD-11はこれを「依存症」としても位置づけていません。
「依存症だから止められない」という説明は、責任を軽くする方向に読まれてしまう危険があります。私はその読み方を採りません。
止められないのなら、環境の側が止めなければならない。私の立場はこちらです。
認知のゆがみ
加害者は「子どもも喜んでいた」「子どもはすぐに忘れるから傷つかない」といった独自の論理で、自らを正当化します(否認・最小化)。
オンラインでの子どもへの性加害者228名を平均6年3か月追跡した研究では、こうした犯行支持的な認知が、接触型の性再犯を予測する因子になっていました(Paquette & Brouillette-Alarie, 2025)。
※ この研究はオンライン加害者を対象にしたものです。同じ構造が対面の加害にそのまま当てはまるかは、別の検証が必要です。
反復性
同じ研究で、オンライン性再犯は3.5%でした。日本の犯罪白書も、性犯罪者の再犯と、類型による反復性の違いを報告しています。
そして、これらはすべて「見つかった加害者」だけのデータです。
彼らは「見つからないように」場所と相手を慎重に選び、エスカレートさせていく。
■ 4. 結論:視点を「加害者探し」から「被害者探し」へ
加害者は自ら名乗り出ることはありませんし、その姿を外見から判断することも不可能です。
今、私たちに求められているのは、「自分の周りには被害者がいない」という思い込みを捨てることです。
加害者は見つけられなくても、被害を受けて苦しんでいる子ども、SOSを出せずに震えている子どもは、必ずあなたのすぐそばに「います」。
「被害者がいる」という前提に立ち、子どもたちのわずかなサイン(ネットワークの弱さ、情緒の不安定さ、対人関係の課題、不自然な生活の変化)に鋭敏になること(厚生労働省, 2020)。
そして、あらたな性被害者・性加害者を生み出さないために、「嫌なことは嫌だと言っていい、自分を大切にする」という包括的性教育を、コミュニティ全体で進めること。
この「あるのに見えない・見ない構造」を終わらせるために、まずは「現実に起きていること」を直視し、被害者を孤立させないための強い意志を持つことから始めなければなりません。
■ 最後に、3段に分けて整理しておきます
確かめられていること:令和5年度、性犯罪・性暴力等で懲戒処分等を受けた公立学校の教育職員等は320人(うち児童生徒に対するもの157人)、過去最多。米国では6,632名中11.7%が教職員による何らかの性的不正行為を報告し、そのうち身体接触以上は1%未満。当局への開示は4%。日本でも、性交を伴う性暴力の被害者の半数以上がどこにも相談していない。教育者による性虐待24事例のすべてでグルーミングが行われていた。
解釈の域にあること:社会的地位の高さが「バリア」として働くという見立て。日本の年間39万人という推計(算出根拠を私はまだ確認できていません)。加害者の「やめられなさ」を依存症として説明する枠組み。
私の見立て:警察に届いた記録と、実際の被害は、まったく別物である。だから加害者を数えるのではなく、目の前の子どもを見るしかない。

【この記事について】 この記事は、研究の"さわり"(要点の紹介)と、私自身の見立てです。研究デザインの限界やバイアスまで含めた本格的な批判的吟味は、Voicyプレミアム放送やEBLDジャーナルクラブで行っています。ここで紹介した論文は原著にあたって確認していますが、ぜひご自身でも原典を読み、批判的に吟味してみてくださいね。
【Voicy配信中】 ドクターりん🎓🕊「エビデンスに基づく人生デザイン」 https://voicy.jp/channel/817829
【参考文献】
安藤久美子「性犯罪加害者の理解と対策」聖マリアンナ医科大学神経精神科学教室.(URLと閲覧日を要記載)
Jeglic, E. L., Calkins, C., Kaylor, L., Margeotes, K., Doychak, K., Blasko, B., Chesin, M., & Panza, N. (2023). The nature and scope of educator misconduct in K-12. Sexual Abuse, 35(2), 188–213. https://doi.org/10.1177/10790632221096421
Jeglic, E. L., & Winters, G. M. (2025). An analysis of sexual grooming in cases of child sexual abuse by educators. Children and Youth Services Review, 170, 108119. https://doi.org/10.1016/j.childyouth.2025.108119
厚生労働省(2020)『令和元年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業:児童虐待対応におけるアセスメントの在り方に関する調査研究 報告書』(および同付録「アセスメント項目情報リスト」)
厚生労働省(2021)『令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 潜在化していた性的虐待の把握および実態に関する調査 報告書』(研究代表:髙岡昂太/国立研究開発法人産業技術総合研究所)
内閣府男女共同参画局(2023)『こども・若者の性被害に関する状況等について』(令和5年6月13日)
法務省法務総合研究所(2015)『平成27年版 犯罪白書─性犯罪者の実態と再犯防止』(該当ページ番号を要特定)
文部科学省(2024)『令和5年度公立学校教職員の人事行政状況調査について』
Paquette, S., & Brouillette-Alarie, S. (2025). Online sexual offending against children: Recidivism rates and predictors. Sexual Abuse, 37(6), 635–666. https://doi.org/10.1177/10790632241309631
Piolanti, A., et al. (2025). Global prevalence of sexual violence against children: A systematic review and meta-analysis. JAMA Pediatrics, 179(3), 264–272. https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2024.5326
齋藤梓・大竹裕子(2020)『性暴力被害の実際─被害はどのように起き、どう回復するのか』金剛出版.
山本(2010)
World Health Organization. ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics, 6C72 Compulsive sexual behaviour disorder.
#ADHD #ASD #性被害 #voicyパーソナリティ #性加害 #AuDHD #研究論文 #エビデンスに基づく人生デザイン #ドクターりん #子供の性被害 #グルーミング #包括的性教育

