見えない子供性被害②:性的グルーミング(手なずけ)が上手い人はどんな人か
※ この記事は、子どもへの性暴力という重い主題を扱っています。読んでいてつらくなった方は、無理に読み進めないでください。ご自身やお子さんが被害に遭われている場合、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(全国共通番号 #8891 )、警察相談専用電話(#9110)、こどもの人権110番(0120-007-110)に相談できます。この記事は法的・医学的な助言ではありません。
「被害者が名乗り出るのを待つ」という姿勢は、教育現場や家庭内における性被害の文脈では、実質的な「見捨て」を意味します。
なぜなら加害者は、子どもが声を上げられないように、時間をかけて巧妙な「支配の構造」を築き上げているからです(齋藤・大竹, 2020)。
今回は、性加害者が用いる戦略と、被害を潜在化させる環境的要因について、研究から解説します。
■ 1.「特別な関係」という心理的な檻─性的グルーミング
加害者は、突然牙をむくわけではありません。
教育者から性虐待を受けた成人サバイバー24事例を分析した研究では、24事例すべて(100%)で、計画的な性的グルーミング(手なずけ)が行われていました(Jeglic & Winters, 2025)。
※ 24事例という小さな標本であること、成人になってからの回顧的な報告であることは、割り引いて読む必要があります。
そして、ここがいちばん知っておいてほしいところです。
加害者の71%は、「魅力的で好かれる物腰」の持ち主でした。
感じのいい人だった、ということです。だから周囲は気づけない。
グルーミングの具体的な行動を、割合の高い順に並べます(Jeglic & Winters, 2025)。
大人に過度に従順で、信頼を寄せやすい子どもを選ぶ 83%
魅力的で好かれる物腰 71%
特定の子どもに過剰な注目を与える 67%
一見無害を装った接触 67%
偶然や気そらしを装った接触 67%
「この先生は私の理解者だ」と思い込ませ、そこから徐々に「二人だけの秘密」という鎖で子どもを縛り付けていく。
このプロセスによって、被害は子どもにとって「恐ろしい暴力」であると同時に「断りきれない特別な親愛」へと歪められ、外部への開示が極めて困難になります(山本, 2010)。
■ 2. 被害を「暗数」化させる「閉鎖性」の構造
性被害が潜在化(暗数化)する背景には、家庭や学校といった環境が持つ「閉鎖性」が深く関わっています(厚生労働省, 2021)。
早期発見を阻む構造的な要因として、2つのキーワードが提示されています。
閉鎖性(保護・援助要請機能の不在)
家族が機能不全に陥っている。あるいは学校内で特定の教員が絶対的な権力を握っている。そうした場合、子どもが助けを求める経路が、物理的にも心理的にも遮断されます。
性的境界の侵害
家族間や師弟間の適切な距離感が失われ、性的距離の近接が「日常」として容認されてしまう環境では、被害そのものが認識されにくくなります。
特に加害者が実父や継父、あるいは教員である場合、周囲の大人までもが「そんなはずがない」と否認に加担してしまい、被害が家庭・組織という閉鎖空間で、さらに深く隠されることになります(山本, 2016)。
■ 3. 被害者は「見つからないように」選ばれている
加害者は「自らコントロールできる相手」を、慎重に選んでいます。
知的・発達障害のある子ども
被害を言語化する困難さや、周囲からの孤立に乗じられ、ターゲットにされやすい傾向が指摘されています(山口, 2016;厚生労働省, 2021)。
コミュニティネットワークの薄さ
家族間やクラスなど、コミュニティ内のコミュニケーションが乏しい子どもは、被害を受けても「誰に言えばいいかわからない」状態に置かれます。
いじめられている、家族関係に問題がある、孤独感を感じている。そういう子どもは、関心を寄せてくれる大人に縋り付くでしょう。
それがエントラップメント(罠)であっても、「自分を守ってくれるかもしれない」という期待は、沈黙の理由になります。
そして、届かない。
教育者による性的不正行為を経験した生徒のうち、当局に開示されたのはわずか4%でした(Jeglic et al., 2023)。
日本でも、性交を伴う性暴力の被害に遭った人の半数以上が、どこにも相談していないと報告されています(内閣府男女共同参画局, 2023)。
加害者の「隠蔽能力」が、社会の「発見能力」を上回っている。 そう言わざるをえない数字です。
■ 結論:待ちの姿勢を捨て、「介入」する勇気を
加害者は、沈黙する被害者を狡猾に選び、隠蔽します。
そして、止まらない。
※ ここは慎重に書きます。「依存症だから止められない」という説明を見かけますが、ICD-11にある強迫的性行動症(6C72)はパラフィリア症群を明示的に除外しており、性加害と同一のものではありません。ICD-11はこれを嗜癖としても位置づけていません。「病気だから仕方ない」という読み方を、私は採りません。
止められないのなら、環境の側が止めるしかない。
子どもが自ら「助けて」と言える確率は、支配構造のなかでは極めて低いのが現実です。
私たちが「加害者は見つけられない」という前提に立つべき理由は、ここにあります。
被害者はあなたのすぐそばで、「言えない秘密」を抱えて日常を演じています。
「被害者はいる」という強い前提に基づき、子どもたちのわずかな情緒の変化や、不自然な人間関係の偏りに気づき、介入していくこと(厚生労働省, 2020)。
それこそが、巧妙に構築された沈黙の檻を壊す、唯一の手段なのです。

【この記事について】 この記事は、研究の"さわり"(要点の紹介)と、私自身の見立てです。研究デザインの限界やバイアスまで含めた本格的な批判的吟味は、Voicyプレミアム放送やEBLDジャーナルクラブで行っています。ここで紹介した論文は原著にあたって確認していますが、ぜひご自身でも原典を読み、批判的に吟味してみてくださいね。
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【参考文献】
Jeglic, E. L., Calkins, C., Kaylor, L., Margeotes, K., Doychak, K., Blasko, B., Chesin, M., & Panza, N. (2023). The nature and scope of educator misconduct in K-12. Sexual Abuse, 35(2), 188–213. https://doi.org/10.1177/10790632221096421
Jeglic, E. L., & Winters, G. M. (2025). An analysis of sexual grooming in cases of child sexual abuse by educators. Children and Youth Services Review, 170, 108119. https://doi.org/10.1016/j.childyouth.2025.108119
厚生労働省(2020)『令和元年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業:児童虐待対応におけるアセスメントの在り方に関する調査研究 報告書』(付録「アセスメント項目情報リスト」)
厚生労働省(2021)『令和2年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 潜在化していた性的虐待の把握および実態に関する調査 報告書』(研究代表:髙岡昂太/国立研究開発法人産業技術総合研究所)
内閣府男女共同参画局(2023)『こども・若者の性被害に関する状況等について』(令和5年6月13日)
齋藤梓・大竹裕子(2020)『性暴力被害の実際─被害はどのように起き、どう回復するのか』金剛出版.
山口真央(2016)『社会的養護における性的な問題への対応』(書誌情報を要記載)
山本恒雄(2010)『子どもの性的虐待被害とその支援』(書誌情報を要記載)
山本恒雄(2016)「児童福祉領域における子どもの性暴力被害の全体像」(掲載誌・巻号を要記載)
World Health Organization. ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics, 6C72 Compulsive sexual behaviour disorder.
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