修羅場の話🌃
いつもの夜
ある日の夜、私はいつも通り夕食の片付けをしていた。
片付けが終わったらお風呂に入る。それがいつものルーティンだった。
でもその日は突然インターホンが鳴った。
『こんな時間に誰かな。』
インターホンの画面に映っていたのは、当時大学生だった次男が付き合っていた彼女のご両親だった。そして玄関を開けると、そこには彼女も立っていた。
次男が通う大学までは家から電車で1時間半以上かかるので、家と大学の中間地点あたりに部屋を借りて彼女と同棲していた。
彼女は小学生からの同級生だったので(と言っても高校になるまでは全く交流がなかった)お互いの実家は近くだった。
同棲を決めた時、2人ともまだ未成年だったので、彼女のお父さんが名義人になってくれる話がトントン拍子に進んでいった。
次男はご両親に気に入られている様子だったので私も夫も安心していた。
そして彼女は学生ではなく社会人一年生だったので、次男は仕事で疲れて帰って来る彼女のために、よく自分で夕食を作ったりもしていた。

修羅場のはじまり
彼女のお母さんが不安気な顔で話しかけてきた。
『◯◯くん、浮気してるみたいなんです』
私と夫は一瞬顔を見合わせた。
『どういうこと?』
いきなりそう言われて状況を理解するのに少し時間がかかった。
でも思い出した。
そう言えば少し前、次男からLINEで『最近◯◯ちゃんと居るのがしんどい。俺、ご飯作ったり掃除したり頑張ってるんやけど、それだけじゃ足りへんて言われる。だから一旦距離置こうと思ってる。』
そんな相談をされたけど、同棲し始めてまだ数ヶ月だったから(初期費用のために夫の母が30万円出してくれたのだし)早まらないでもう少し様子を見てみるのは無理なのかと話をした。
でもこの時次男の気持ちは定まっているようだったので、私もそれ以上は何も言わなかった。
彼女が言った。
『〇〇くん、大学の女の子と浮気してるんです。その子といつもLINEしてて。◯◯くんには裏の顔があるんです。』
私も夫も動揺が止まらなかった。
19年間息子を育ててきた私たちにとっては、まさかあの天然な性格の次男に裏の顔なんてあるのだろうか。
そう思ったけれど、子供は親の知らない顔を持っていてもおかしくないとも少し思った。
私自身も自分の親に見せていない顔は持っていたから。
彼女のお父さんから『今から〇〇くんのところへ一緒に行って下さい。話合いをしましょう。』
そう言われて承諾するしかなかった。
時間は午後10時をまわっていた。
長男は既に上京して家にいなかったけど、幸い私は自分の両親と同居しているので、両親に事情を話して、当時まだ11歳だった三男を預けて夫と一緒に車で次男の住むマンションへ向かった。
そして車の中で『ああ。これが修羅場ってやつなのか…』と、まるでドラマのような展開に心がザワザワしっぱなしだった。
真実
車で高速を走り、30分程で次男のいるマンションに着いた。
前もって次男にはLINEしておいたので、ドアを開けると次男は少しオドオドした様子で、彼女のお父さんと顔を合わせるとバツの悪そうな表情をした。
そして部屋に入ると、次男だけが質問攻めのような話し合いが始まった。みんな正座をして重苦しい空気が漂っていた。
『〇〇くんはいつも大学の女の子とLINEで私の悪口を言っている』そんな内容のことを彼女は言い続けた。
彼女は次男のLINEのトーク画面を勝手に自分の携帯に撮ってご両親にも見せていたので、私も夫もビックリしたけど、とりあえず話を続けた。
そして結局のところ次男の言い分では、彼女との生活がしんどくなってきたことを大学の女友達に相談していただけで、浮気するようなことは一切していないということだった。
ただ、彼女への不満を女友達に相談する時点で、彼女からすれば浮気されてるのと同じくらい嫌な気持ちになるのは当然だと私も思った。
どちらにしても、これ以上一緒に住む訳にはいかないので、彼女のお父さんから『この部屋はこちらが契約してるので、〇〇くんは急いで荷物をまとめて出て行って欲しい』と言われた。
そして、契約してまだ半年経たないので、違約金(家賃の約2倍)が発生するという話にもなった。
彼女は会社員なので普段の家賃は彼女が少し多めに払っているというような内容だった。
そして今回の事は次男の方から別れを切り出したという事もあったので、違約金はこちらが払って欲しいと言われた。
私は次男もアルバイトをしていたので家賃の半分はきちんと払っていると思っていた。
なのでそれを知らなかった私と夫も反省した。
そして、まだ未成年の2人の同棲を簡単に許してしまったことの責任もあると思い、違約金はその代償のようなものだと思って支払いに応じた。
するとご両親も少し安心したのか、話し合いが終わる頃には重苦しかった空気も少し軽くなっていた。
話し合いが終わって部屋を出る時、彼女のお母さんが次男に向かって『◯◯くん。いつも◯◯ちゃんにご飯作ってくれてありがとうね。』と言ってくれた。
そう言われて私も少しホッとしたと同時に、こんなにも早く同棲生活の終わりを迎えてしまったことが寂しくも感じた。
ゴールデンウィーク
部屋を引き払うのが5月末だと言われたので、私たちはゴールデンウィークの間、次男の大量の荷物をまとめて運び出すのに大忙しだった。
彼女は既に実家に戻っていたけど、新しく買った家具などはそのまま置いてあったので、それを家に持って帰ってきても置く場所に困るので、結局次男は大学の近くに下宿させることにした。
そして次男の引っ越し作業でずっとバタバタしてしまったせいで、連休の間三男を何処にも連れて行ってあげれなかったことと、次男を気分転換させてあげたいという思いもあって、連休の最終日は家族で神戸の南京町やハーバーランドに出かけることにした。
近場だったけれど、久しぶりの家族での外出は、今思えば私たちにとってとても貴重な1日となった。
この翌年からコロナ禍に突入してしまったのだから…


そして連休が終わってしばらくすると、違約金の正式な金額が決定したので、夫と2人でご両親に会いに行き、きちんと支払いを済ませて領収書も受け取った。
別れ際には『子供たちに振り回されて疲れましたね。でもこれも学びですね。』などと、少し笑いを含めながらの会話をしてその場を後にした。
終わらない
私たちは、違約金も支払ったのでこれで全てが終わったと思っていた。
でもそんな矢先、下宿していた次男から突然LINEがきた。
『俺、今回のことを◯◯ちゃんにLINEで最後に謝罪したんやけど、俺の送った内容のトーク画面をスクショしてインスタのストーリーに載せられた。共通の友達いっぱいいるのに。許されへん。』という内容だった。
私はビックリしたと同時に、『ああやっぱり…』とも思った。
次男の中では終わっていても、彼女の中ではまだ納得のいかない気持ちがあるんじゃないかと思っていたから。
そして次男は『これ、名誉毀損やろ。訴える。』そんなことを言い出した。
私が思っている以上に、彼は怒りと同時にかなり傷付いている様子だった。
自分の送ったLINEの内容を公に晒された時の気持ちを私は正直そこまで想像できていなかったので『えっ。本気で言ってるん?』と言ってしまった。
でもこの時実際に、診療内科で睡眠薬をもらう程になっていて、大学も休みがちになっていると告げられたので、私もこのままではいけないと思った。
弁護士
私の前の職場の後輩の旦那さんが弁護士さんだった。
結婚式にも呼んでくれて、私も一度だけ会ったことがあったので、まずは後輩に相談してみることにした。
『〇〇さんの頼みなら喜んで!旦那に話してみますね』そう言って旦那さんに次男のことを簡単に説明してくれた。
そして後日、私は次男が家に帰って来た時にその後輩に電話をすると、その場で旦那さんが電話に代わってくれた。
そして私と旦那さんが少し話した後、直接次男と話してくれることになった。
約5分くらいの短い通話だったけど、電話を切った後の次男は、それまでとは全く違う清々しい表情をしていた。
自分の気持ちを理解してもらえたことが凄く嬉しかったようだった。
弁護士さんというのは問題解決だけでなく、相談者の心が落ち着くよう丁寧な言葉かけをして、寄り添ってくれるんだと私はこの時初めて実感した。
そして訴訟を起こす前に、まずは彼女のご両親が今回の件を知っているのか確認して、彼女がやっていることを辞めさせるよう親同士が会って話しをすること。
それでも辞めないなら訴訟を起こすということをきちんと告げる。
そう提案された。
結局また親の出番がきてしまったけれど、とにかく私もこの件を少しでも早くきちんと解決したかったので、引き続きご両親と会うための連絡をすることにした。
彼女の気持ち
私は次男の引っ越しの時、家具や食器などの件で、次男の代わりに彼女と直接LINEで話す事があった。
その時私は、自分の息子の味方であるのは勿論だったけど、複雑な女心というものも凄く理解できたので、彼女を一方的に責める気にはならなかったし、同情する気持ちさえあった。
きっと彼女は、次男が料理など一生懸命やってくれたことよりも、大学生活を楽しんでいる次男に対しての嫉妬の気持ちや、彼女に対する愛情の深さが物足りないと感じていたんじゃないかと思った。
付き合ってすぐに同棲して、恋愛ごっこのような感覚を少なくとも次男の方が持っていたんだと思う。
でも彼女にとっては、形よりも心が欲しかったんじゃないかと思った。
そんな彼女の寂しさが、相手を束縛するという形でしか愛情を示せなかったのかも知れない。
女性なら恋愛で一度はそんな気持ちを経験する人は多いんじゃないかと私は思う。
特に若い頃は精神的に自立出来ず、相手に依存してしまうことは普通にあることだと思うから。
だから私は彼女の気持ちを考えると少し切ない気持ちにもなったので、『〇〇ちゃんの気持ちも分かるよ』
そう彼女に伝えていた。
和解
弁護士さんに言われた通り、再び彼女のご両親に連絡をとって会いに行った。
ご両親は彼女がインスタに投稿したことを知らないようだった。
そして今回の事と、弁護士さんに言われた通りの内容を話すと、とても慌てた様子だった。
でもインスタのストーリーは既に消えていたので『ストーリーなら24時間で既に消えてますよね?』と彼女のお母さんに言われた。
私は一瞬、そういう問題じゃないと思った。
実際に投稿を見た共通の友達から次男は色々と聞かれたり言われたようで、その事実は消えないのだから。
でも、これ以上絶対に投稿しないのなら訴訟は起こさないと約束したので、ご両親も今後二度とこんな事がないよう彼女に強く言っておくと約束してくれた。
そしてそれ以後、実際に彼女がインスタに今回の件を投稿することは一度もなかった。
再会
次男が彼女と別れて約半経った頃、無事に成人式を迎えた。
あれから彼女とのLINEもインスタも全て削除して、次男も心機一転大学生活を楽しんでいる様子だった。
下宿生活だったので、地元に帰って来ることは殆どなかったけど、成人式の日は久しぶりに帰ってきて同級生たちと朝早くから合流してとても楽しそうだった。
そして中学、高校の友達と成人パーティーにも参加して、その日はとても機嫌よく帰って来た。
そして『そういえば今日、〇〇ちゃん(彼女)に会ったわー』と明るく言ってきた。
この時私も既に彼女のことを懐かしく思っていたので『〇〇ちゃん、元気やった?』
と聞くと、彼女も今は落ち着いていたようで、『今は〇〇くんが幸せならそれでいい』
そんなことを言われたと言ってきた。
あー。良かった。私は心からホッとした。
そして
『あの時〇〇くんのママが優しくしてくれたのが心の救いやった…』
そう言っていたとも告げられた。
私はこの時少しビックリしたと同時に、そんなふうに感じてくれていた彼女の気持ちに、私の方が心が救われた気がした。
女心に寄り添えるのは、やっぱり女なのかも知れない。
あの時彼女を責めなくて良かったと心から思った。
そしてあれから6年。
次男は今、家庭を持っている。
お嫁さんはあの頃の彼女とは全く違うタイプだけど、同じ女性として私はお嫁さんのこともそっと見守っていきたいと思っている。
そしてあの頃の彼女が今も何処かで幸せに暮らしていることを心から願う😌
とても長い話、最後まで読んで頂きありがとうございました🙇♀️✨
