水たまりに映った青空は。|#ショートショート|#シロクマ文芸部
雨の日はキライ。
だって前髪がうねるから。
女子高生にとって、前髪は命だ。
つい、前髪が気になる。指でつまんで前髪を引っ張る。
変になってないかな。
今朝だって、時間をかけてセットしてきたのに。
駅から学校に向かう。
色とりどりの傘を差した、同じ制服を着た子たち。
「おっはよー」
頭一つ上から陽気な声。
さしてる傘ごと、振り返る。
「・・・おはよう」
一応、返事はするけど、そのまま顔をそむけてしまう。
「なに、元気ないじゃん。朝飯、食ってきた?」
「・・・だって、雨降ってるから」
「あー、雨嫌いかぁ、俺好きだけど。」
「え?」
「雨降ると、水たまりできるじゃん」
「水たまり?」
靴が濡れて嫌だから、避けて歩く。それくらいにしか思ってなかった。
「雨がやんだときにさ、水たまりに空が映るだろ?
俺、あれが好きなんだ。空が2倍キレイに見えるじゃん。」
・・・空が2倍キレイかぁ。
そんな風に考えたことなかった。
足元を見る。
アスファルトには小さな水たまりがいくつもできていて、雨粒が落ちるたびに丸い波紋が広がる。
晴れたら、青空がここに映るのかなって、想像してみる。
「そうかも。キレイかも。」
「それに、バイトの給料で買ったレインスニーカーが役に立つしさー!かっこいいだろ?」
そう言って、片足を私の方へ見せるように上げる。
白とグレーのコンビネーションで、黄色がワンポイントに入ってる。前から欲しがってたブランドのレインスニーカーだ。
「・・・で、なんで前髪ずっと、ひっぱってんの?」
いたずらっぽく笑って、言う。
「いーの!」
横断歩道の前で足を止めた。信号が赤だ。
白線は雨に濡れて、いつもより少しだけ白く光ってる。
「帰りは晴れるといいなぁ。」
傘の先から落ちる雫を見ながら私がつぶやく。
隣で信号待ちをしている彼がこっちを見た。
「お、確認する? 空がホントに二倍キレイに見えるか。」
思わず笑ってしまう。
「俺も見たいからさ。」
少し照れくさそうに笑って続ける。
「・・晴れたらさ、帰り、クラスまで迎えに行くよ。」
周りの人たちが、一斉に歩き出す。
信号が青に変わったのだ。
「でも、まだ、雨降ってるかも。」
「絶対晴れるって!雨降ってても迎えに行くし。一緒に帰ろ」
傘を打つ雨の音が、一瞬聞こえなくなる。
傘があってよかった。頬が熱い。私は下を向き、小さくうなずく。
「うん」
私たちもゆっくりと歩きだす。
雨は相変わらず降っているのに、さっきまでとは少し違って見えた。
私の歩調に合わせて踏み出す、彼のレインスニーカー。
降る雨に揺れる水たまり。
帰るころには、青い空が映るかもしれない。
笑っている彼がいて。その隣に、私。
そんなことを考えながら、前髪から、そっと手を離す。
・・・今度から、雨の日は、前髪アップにしよ。
#ショートショート #恋愛 #小説 #シロクマ文芸部 #水たまり #前髪
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