ジャズギターを挫折するプロセス
今回は、10代の頃、ロック少年だった僕が、ジャズに興味を持ち、ジャズギターが弾けるようになりたいと独学で勉強するも、よく分からずジャズギターを挫折するまでの流れを書いていきます。
僕に限らず、似た経験をしてきた人は多いのではないかと思います。もし同じような経験をした人が全然いなかったら、単に僕がセンスないだけなのですが、それはそれで少し寂しい気もします(笑)
ちゃんとギター教室に習いに行った人たちやジャズ研に入ってやっていた人たちには分からないとは思いますが、独学だと、こういう人もいるんだなぁと思いながら読んでいただけるとありがたいです。
ロック少年だった10代
スケールを挫折するまで
僕がギターを始めたのは高校生の頃で、最初はアコギでした。高1でフォークソング部に入り、アコギからギターを始め、そのフォークソング部は一年で辞め、高2になって初めてエレキギターを手に入れました。アコギから入ったこともあり、まずローコードから覚えて、Fの壁は3ヶ月ほどで"一応"乗り越え、FmやFm7は厳しいと思いながらも騙し騙しやり過ごして、Bの壁は薬指セーハでなんとかしのいで、アコギしか持っていなかった頃からエレキギターとロックへの憧れでパワーコードも覚えていました。
当時、バンド漫画のBECKがアニメ化され、それを見ながら、漫画も集めていて(初めて全巻揃えた漫画がBECKでした)、そのBECKの中で、主人公のコユキが斉藤さんというおじさんにギターを教えてもらっていたのですが、そこで指板にスケールのポジションが書かれた図を見せられて「これを見て、スケールを覚えろ」というシーンがありました。その時、僕はスケールというのは指板全体にあるスケールの構成音の位置を丸暗記しないといけないのかと思ってしまい、そんなの無理だ!とスケールを覚えることは早々に諦めてしまいました。あの漫画を見て、スケールを覚えるのを諦めた人は僕だけではないと思いたいです。それくらい、あのくだりは不適切だったと思います。そこで、ちゃんとスケールの覚え方を描いていたら、もっとスケールを覚えられたギター初心者は多かったのではないかという気がします。
丸暗記ではなかったスケール
結局、僕が初めてスケールを覚えたのは大学2年か3年のときで、もちろん最初に覚えたのはマイナー・ペンタトニック・スケール(ブルース・ペンタトニック・スケール)でした。ギターを始めてからスケールを覚えるまで5年くらいかかったことになります。本当なら独学でも2年くらいで覚えられたはずです。当時はまだYouTubeもサービスを開始したばかりで今の時代と比べると簡単に得られる情報は多くはありませんでした(とは言え、もっと昔に比べたら情報は充実していたと思います)。
多分、図書館で借りたギターの教則本のなにかを見て、スケールは指板全体を丸暗記するわけではないことを知ったのだと記憶しています。それを知るまでにBECKのせいで5年かかった…そう思っていましたが、僕が音楽のために積極的に図書館を利用し始めたのが大学生になってからだっただけで、早くから図書館を利用する習慣があれば、もっと早くにスケールを覚えられていたのかもしれません。今なら、YouTubeがあるから、こういうことも昔よりは起きづらくなっていると思います(YouTubeも適当な情報は多いですが)。
僕が高校時代メインで聴いていた音楽は同時代の、あるいは一つ上の世代のオルタナやエモ、メロコア、ヘヴィロックなどのギターソロが少ないラウドなロックでした。ハードロックやメタルも聴いていましたが、オルタナやメロコア的なギターが基準にあったので、メタルギター的な速弾きは自分には出来ないものとして聴いていました。なので、元々ギターソロが弾けるようになりたいとかギターヒーロー的なことをしたいみたいな憧れはあまりなく、どちらかというバッキングやリフの方に興味がありました。というかバッキングが上手いギタリストになりたかったというギター好きには多分、珍しいタイプでした。それは友達にアレンジの大事さを教え込まれていたのが大きいとは思いますが、一度はスケールを覚えることを諦めたせいもあるのかもしれません。大学生になり、ペンタトニック・スケールを覚えたことで、初めてソロを弾くこと、アドリブを弾くことを覚え、その楽しさを知りました。
ジャズギターへの興味
ジャズギターを挫折するまで
高校生の頃はロックばかり聴いていましたが、大学生になるとジャズやブラック・ミュージックに傾倒していき、ジャズギターにも興味が湧いてきました。ペンタトニック・スケールを覚えたことで余計にジャズギターを弾いてみたいと思うようになり、図書館でジャズギターの教則本を手当たり次第に借りてきては読み漁っていました。
ジャズギターの教則本には大体こんな感じのことが書いてありました。
ツーファイブについて (IIm7→V7→I△7)
各コードに対応したスケールについて (アヴェイラブル・ノート・スケール)
ドミナントコード上で使えるスケールについて (オルタード・スケールやコンディミなど)
他にも裏コードだとかセカンダリードミナントだとか機能和声に関する理論的なことなども書いてありましたが、アドリブに関する項目は主に上記のような感じだったと思います。つまり、各コードに対応したスケールを使ってアドリブを取りましょうというものです。IIm7ならドリアン・スケール、I△7ならイオニアン・スケール(リディアン・スケールも使用可)、V7ならミクソリディアン・スケールやオルタード・スケール、コンビネーション・オブ・ディミニッシュ・スケール(所謂、コンディミ)、ハーモニック・マイナー・パーフェクト5th・ビロウ(HMP5↓)などが使用可能…といった感じです。具体的なツーファイブでのフレーズ例も、IIm7のときはドリアン、V7はオルタード、I△7ではイオニアンという感じの解説が付いていました。
しかし、ドリアン・スケールとイオニアン・スケールは(ミクソリディアン・スケールも)全て同じ構成音、要するにメジャー・スケール。じゃあメジャースケールとして考えて、V7のときだけそれ以外のスケールを使えば、事足りるのでは?とジャズのアドリブが分からない人たちの御多分に漏れず、僕もそう考えてしまっていました。試しに、覚えやすい一ヵ所のポジションのオルタード・スケールを覚えて、ジャズのアドリブを試みるも全くジャズになりませんでした。オルタード・スケールを使えば確かにアウト感は出て、それに"ジャズっぽさ"を感じる人はいるかもしれませんが、それは本当にそのときだけ、オルタードが上手くハマったときだけで、それ以外の瞬間にはジャズっぽさは微塵も感じられませんでした。
確かジャズミュージシャンではないミュージシャンだったかが「ジャズのアドリブは本当のアドリブではなく覚えたリックを組み合わせて演奏しているだけだ」的なことを言っていて、それを聞いて僕は「教則本のフレーズ例で示されているような音使いをひとつずつ覚えないとジャズにはならないのか、いろんなフレーズを丸暗記しないといけないのか…」と思ってしまい…そんなの無理だ!と、また諦めてしまいました。
オルタード・スケール解説動画
時は流れ、YouTubeが盛り上がりを見せ、ギター系のYouTuberもたくさん登場し、ギターに関するいろいろを取り扱う動画が増えてきた頃、よくあったのが(今もあるのが)「オルタード・スケールの解説」動画でした。
僕がそうであったように、ジャズを弾けるようになるためには、とにかくオルタード・スケールをマスターしないといけないと思ってしまいます。そういう思考に陥ってしまったジャズのアドリブが分からない人たちを狙った動画がたくさんアップされ、それを見て、その瞬間は分かった気になれて、これで自分もジャズが弾けるようになるかもしれないと思うが、本当にそれを見て、ジャズが弾けるようになった人は多分ほとんど(あるいは全く)いないと思います。それを見て弾けるようになるのは、もうすでにある程度ジャズが弾けている人たちだけなのではないでしょうか。
しかし、そういう動画を見漁って、練習した視聴者の大部分はジャズが弾けるようにならないのは自分の理解が足りないからとか練習が足りないからとか自己責任的な思考になっているのではないかと思います。あれらの多くは、あくまでYouTubeコンテンツであり、その目的は皆がジャズが弾けるようになることでもオルタード・スケールを使いこなせるようになることでもなく、再生回数を稼いで収益を得るために食いつきの良いネタを取り上げているに過ぎません。
だからといって、動画内での解説が間違っているわけでもありません。単純に、そこを勉強しただけではジャズにはならないというだけです。そして、そういう動画をアップしている人たちも誰もこれでジャズが弾けるようになるとは言っていないはずです。
英語学習で言えば、be動詞や一般動詞、文型、単語や熟語も覚えていないのに、関係詞や仮定法を覚えようとしているようなものです。ジャズにおけるbe動詞や一般動詞、文型、単語や熟語などを順序立てたコンテンツを作らずに、いきなり関係詞や仮定法を紹介していたら、それは食いつきのいい"ネタ"としてコンテンツを作っているだけなのは明らかと言えると思います。それでもやはり食いつきがいいので、みんなそれに食いついて挫折をするわけです。
そして、結局のところ、僕が読んだどの教則本にもbe動詞や一般動詞、文型、単語や熟語の説明は書かれていなかったか、書いてあったとしても上手くまとめられていたり順序立てされていたりはしませんでした。それらを見て、弾けるようになるわけがなかっただけでした。教則本もまたYouTube動画と同じで目的は収益だったということかもしれません。もしかしたら、それを書いていたギタリストがそもそもジャズギタリストですらなかったか、あるいはジャズギタリストを名乗っているが、実はジャズを弾けていない人だったのかもしれません。または、どんなに上手くても教えるのは上手くない場合もあります。ロックギタリストがみんなPaul Gilbertくらい教えるのが上手いわけではないのと同じです。たとえ講師をしていたとしても。
ジャズが弾けないジャズギタリスト
以前、ギター好きの友達に、その友達の友達がジャズギタリストでライブをやるから観に行こうと誘われ観に行ったことが何度かあります。そのジャズギタリストはどちらかという仕事的にはスタジオミュージシャン業がメインで、自身のライブなどでジャズを弾く感じでした。しかし、実際にはジャズというかフュージョン的なR&Bで、アドリブはジャズが分からない耳にも明らかにオルタード・スケール(というかメロディック・マイナーだったのかも?)をなぞって弾いているだけの、「これじゃない」感溢れるソロでした。ジャズは感じませんでした。
他にも、ジャズ畑出身、ジャズがバックグラウンドにあるという肩書のスタジオミュージシャンもテンションコードとか裏コードとかを使えるだけでジャズを感じられない人は多かったです。それでも、テンションコードとか使えれば、"ジャズっぽさ"を感じる人は多いでしょうから、仕事的には、それでいいのかもしれませんし、それが悪いとも思いません。彼らは仕事で求められていることをしているだけです。
教則本とは、こういう人たちが書いていたのかもしれません。今となっては、自分が何を読んでいたのか分からないので、著者が誰か分からないですが、実際にジャズができている人ならしないような解説がされていたりするのだから、そう思ってしまっても仕方ない気がします。上記のようなミュージシャンはジャズを感じないだけで演奏は上手いことがほとんどです。自分がそうであったようにジャズなんて何をやっているのか分からない人の方が多いのだから、演奏が上手ければ、この人は出来ているのだろうと、上手い下手を評価軸にして判断してしまう人は多いと思います。
地味すぎるジャズギター
大学生の頃から、ジャズが何をしているのか(どこからどこまでがテーマで、どこからどこまでがソロなのかすら!)分からなくてもジャズは好きでしたし、ジャズギター弾けたらなぁとは思ってはいましたが、ジャズギターのアルバムはあまり好んで聴くことは、ほとんどありませんでした。
Joe Passの『Virtuoso』を聴いて、アコースティックすぎる音のソロギターで堅苦しいというかシリアスすぎに当時の僕は感じてしまい聴けず、Pat MethenyやKurt Rosenwinkelの丸いジャズギターらしい音色は良さが分からず聴けず、Wes Montgomeryも似た感じでピンっと来ませんでした(今考えるとウェスは十分ブライトな音色だと思うのですが)。Kenny Burrellはブルースフィーリングがあり、割とブライトな音色だったので聴くことができました。Grant Greenも似た感じで聴けましたが、どちらかという70年代のジャズファンク期のものを中心に聴いていました。John Scofieldはブルースフィーリングもあるし、音が歪んでいるし、アウトフレーズが分かりやすくカッコよかったので大好きでした。それでも、他の楽器のジャズアルバムほど聴くことはありませんでした。サックスなどの管楽器のような派手さがない地味すぎる音色の良さがずっと理解できなかったのです。(なのにベーシストのリーダーアルバムは好きでした)
だから、歪み、ブライト、ブルースフィーリング…などのようなロックギターに通ずる部分があるジャズギターは聴けたという感じだと思います。要するに、ジャズギターの「ジャズ」の部分は全く分かっていなかったということです。
それなのに、ジャズギターが弾きたいって、どういうことなんだ?と思うかもしれませんが、多分、実際そういう感じでジャズとかジャズギターはよく分からないけど、漠然とギターでジャズが弾けるようになりたいという人は多いと思います。「英語は何言っているのか分からないけど、いつか英語喋れるようになりたい。喋れたらカッコいいし」みたいなものです。
ジャズギターを挫折する人
挫折の仕方
ロックなどから入ってギターを始め、ソロを弾くため、アドリブを弾くためにマイナー・ペンタトニック・スケールを覚え、ブルースっぽいフレーズを弾くためにはブルース・スケールが必要なことを知り、世の中には、そのジャンルに合ったいろんな音階、スケールがあることを知り、ジャズをやるにはジャズ特有のスケールを弾けるようになる必要があると考え、オルタード・スケールやコンディミ・スケール、ビバップ・スケールなどに辿り着き、それを弾いてみるが全くジャズにならず挫折する…大体の人はこうやって挫折するのではないかと思います。
ジャズはいろんなスケールを覚えないと弾けない…おそらく、こういう思い込みに陥りがちなのだと思います。
しかし、そういう思い込みのまま練習してジャズを弾けるようになる人もいるようで、というか昔の日本のジャズミュージシャンは(昔というか40代か50代以上の方々は特に?)本当にスケールを覚え、フレーズを丸暗記していた人もいるようで、今でもそうやって考えているから、そう教えている人も多いのかもしれません。そう考えると、そういう人たちが教則本を書いたら、確かに僕が読んできた教則本のような内容になるのかもしれません。
ジャズギターを覚えるなら
時代が進むにつれて、アメリカに留学する人たちも増え、本場の方法論をちゃんと習ってきて、それを持ち帰って、日本で教えている人たちも増えてきていると思うので、もしジャズギターをやるのなら、そういう人たちに習いに行くのが手っ取り早いと思います。どこの誰だか分からない、経歴も不確かな人が何か言っているよりは実績があるので信頼性があります。
とは言え、その人が素晴らしいプレイをするジャズギタリストだったとして、必ずしも教えるのが上手いとは限りませんし、自分がやっていることを理論的にどこまで理解しているかは人それぞれなので、そこは気をつけた方がいいと思います。
気をつけた方がいいと言えば、「こうやれば簡単にジャズっぽくなる」みたいな裏技的な簡単な方法を言う人には気をつけてほしいです。それは食いつきのいいネタであって、本当に弾けるようになるためには逆に邪魔になってしまう可能性もあります。
一番の近道は結局、正攻法なので、ちゃんとした人は正攻法に沿った内容を丁寧に一つずつ教えてくれるはずです。なので、難しいと言えば難しいのですが、一つずつはシンプルなので、順番に少しずつ覚えていけば、覚えること自体はそこまで難しくはないと思います。
ジャズギターに限らず、裏技、ハック的なものには安易に飛びつかないことが大事だと思います。それは結局、時間の無駄になってしまうかもしれないからです。楽器のように技術を習得する必要があるものに関するハックは、短期的にはタイパがいいようでも、長期的には実はタイパが悪いことは多いです。楽をしたくて簡単な方法をいろいろ探して、いろいろな情報を仕入れた結果、逆に苦労してしまう…こうならないためにもネットなどの情報には気をつけた方がいいです。これはジャズギターに限った話ではありませんが。
また、人によって覚えやすい方法は違うこともあります。もしかしたら、スケールをたくさん覚えたり、リックを暗記しまくったりする方がいい人もいるかもしれません。
なので、先生との相性もあります。ある人にとっては教え方が上手いけど、また他のある人にとっては分かりづらい教え方かもしれません。それも講師業が長い人なら、その人の捉え方に合わせて、その人にとって分かりやすい教え方に修整していくと思うので、一人の先生についたら、しばらくは通ってみることをオススメします(人間的に合わない場合は別です)。
最後に
今回書いたことは主に10年以上前の話で、その頃に比べると、今はちゃんとした情報が増えてきているとは思います。それでも、未だにオルタード・スケールやコンディミなどのスケール練習ばかりを必死にやっている人は見かけます。情報が届いていないのか、自分がやりたいのはそういうのじゃない!と思っているのか…分かりません。
また、今の時代、YouTubeで海外のジャズミュージシャン/YouTuberのレッスン動画も日本語字幕や音声翻訳で聴けるので、そうした本場の情報も参考にして学ぶことができます。
日本のジャズミュージシャンのYouTubeでは、結構みんな言っているのに、海外のジャズミュージシャンのYouTubeではそんなこと誰も言っていない…みたいなこともあって、そういうことに気づけるようにするためにも海外の情報にアクセスするのは大事です。これは世の中の情報一般に対しても言えることです。
学生の頃、学校の先生が言っていることは全て正しいみたいな鵜呑みの仕方は多分、誰もしていなかったはずなのに、大人になって習い事をしたりすると、その(特に権威がある)先生が言っていることは全て正しいかのように思ってしまう人をよく見かけます。日本人は信者体質、権威主義的なところがあるので、学生の頃を思い出して、先生が言っていることを自分の中で咀嚼せずに鵜呑みにすることはないように気をつけてほしいです。有名なギタリストの先生だから正しいに違いないみたいなことはなく、そう思っているのは、おおよそ日本人だけです。
情報がいくら充実してきているとは言っても、結局、自分がどれだけ練習に取り組めるかで、出来る/出来ないは変わってくるので、なかなか自力でストイックに練習に取り組んだり、モチベーションを維持したりするのが難しい人は、レッスンに行くのが一番確実だとは思います。
教則本やYouTube動画でジャズギターを挫折した人が自分だけじゃないと思ってもらえたり、挫折した理由が必ずしも自分が悪かったわけではないと思ってもらえたら幸いです。
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