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Emily Remlerのメイン・ギターについて

70年代後半から活動を始め、主に80年代に活躍した女性ジャズギタリストに、Emily Remlerという人がいる。

彼女がキャリアの大部分でメイン・ギターとして使っていたのは、一見Gibson ES-335に見えるチェリーレッドのホロウタイプのエレキギターだ。しかし、これはES-335ではない。


ES-335とES-330

ES-335とは

ES-335はGibsonが1958年に発表した世界初のセミホロウ構造のエレキギターで、通常のフルアコとは違い、ボディ中央にセンターブロックと呼ばれる木の板が入っていて、その両端がフルアコのように空洞になっているフルアコとソリッドギターの中間のような構造のギターである。

エミリーのギターとES-335の大きな違いは、ネックとボディのジョイント部分。ES-335は指板のフレットで言うと19フレットのところでネックがボディに接しているのに対し、彼女のギターは16フレットのところでボディとネックが接している。

ES-335と似たボディ形状で16フレットジョイントのGibsonギターと言えば、ES-330である。

ES-330とは

ES-330はGibsonが1959年に発表したシンライン(=薄胴)ボディのフルアコで、ES-335と違い、センターブロックを有さない完全に空洞なボディとなっている。また、ES-335がハムバッカータイプのピックアップなのに対し、ES-330はP-90と呼ばれるシングルコイルタイプのピックアップが搭載されている。

しかし、エミリーのES-330にはP-90ではなくハムバッカーが搭載されている。これは、つまり改造されているということになる。

P-90とハムバッカーの違い

P-90とハムバッカーのサイズ

では、なぜエミリーはピックアップをP-90からハムバッカーに変えたのか。

ES-330に搭載されているP-90はドッグイヤータイプと言われ、ピックアップの両端に三角形の耳のような出っ張りがあり、その出っ張り部分でピックアップをボディに固定している。

一方、ハムバッカーはエスカッションと言われる四角いリング状のパーツをボディに取り付けて、そのリング内にハムバッカーを吊るして固定する。

ここで、ドッグイヤータイプのP-90とエスカッションのサイズを比較してみよう。

縦幅
ドッグイヤータイプのP-90のカバーの縦幅は、約40mm。
P-90本体部分の縦幅は、約35mm。
エスカッションの内側の縦幅(ハムバッカーの縦幅)は、約39mm。
エスカッションの外側の縦幅は、約45mm。

ということは、ハムバッカーはP-90本体より縦幅が約4mm長く、エスカッションはドッグイヤータイプのカバーよりも縦幅が約5mm長いということになる。

横幅
ドッグイヤータイプのP-90のカバーの横幅は、約119mm。
ドッグイヤータイプのP-90のピックアップ部分の横幅は、約85.5mm。
エスカッションの内側の横幅(ハムバッカーの横幅)は、約70.8mm。
エスカッションの外側の横幅は、約89mm。

つまり、P-90の方がエスカッションより約30mm左右に長く、エスカッションはP-90のピックアップ部分より約3.5mm左右に長いということになる。

また、ドッグイヤータイプのP-90の出っ張り部分の左右のネジ穴同士の距離は、約97mm。

ということは、エスカッションの横幅よりも左右に約8mm長いことになるので、エスカッションから約4mm離れたところにネジ穴があるということになる。

実際、エミリーのライブ映像でES-330のボディ部分がアップで映し出されるところを見ると、うっすらとネジ穴とドッグイヤーの跡が確認できる。

以上のことから、P-90用のボディのザグリにハムバッカーを収めるためにはザグリを縦方向に約4mm広げる必要があり、エスカッションはネジ穴を空ける以外の加工なくボディにネジ止めできるということになる。

ピックアップの高さに関しては、ドッグイヤータイプのP-90は約11mmの高さがあり、それに合わせてネックの角度は設定されているはずなので、フロント側はハムバッカーにしても調整幅は確保できそうだが、リア側はエスカッションがギリギリで、ピックアップの高さの調整幅が狭い可能性がある。

P-90とハムバッカーのサウンド

P-90とハムバッカーの音に違いはあるのだろうか。結論から言えば、"本来"は違いはない。

というのも、ハムバッカーを開発したGibsonのエンジニア、Seth LoverはP-90の音が気に入っており、ハムキャンセリング機能の付いたP-90を作ろうとして開発したのが、Gibsonハムバッカーだからだ。

P-90が「ハムバッカーとFenderタイプのシングルコイルの中間の音」というのは、P-90をそれらとはまた別の音がするピックアップというイメージで付加価値を付けて、ブランディングして売るための売り文句でしかない。

しかし、今では、その売り文句に合わせて作られたものもあるだろうことから「本来は」とした。

ハムバッカーに交換した理由

ハムキャンセリング機能の付いたP-90とハムキャンセリング機能の付いていないP-90という違いだけだと考えると、エミリーはハムノイズを無くしたくてハムバッカーに交換した可能性が考えられる。

理屈的に考えたらそうだが、もしかしたら単純にES-335みたいな見た目にしたくてハムバッカーにしたのかもしれない。というか、その可能性の方が高い可能性すらある。

なぜなら、ジャズギタリストなのでピックアップは基本的にフロント側しか使わない。ノイズ対策なら、交換するのはフロントピックアップだけでいいはず。なのに、わざわざリアピックアップまでハムバッカーに交換している。これは見た目的に、そっちの方が良かったからではないだろうか。

とは言え、元々はジャズ以外にもロックやブルースなども演奏していたそうなので、その時期に改造したのなら、そういう演奏のためにリア側もハムバッカーにした可能性も考えられる。

いずれにしても、もしエミリーに憧れて、ES-330を入手し、同様にハムバッカーに改造したいなどと考えた場合、P-90とは違うハムバッカーの音を期待して改造する必要はない。真似する側は見た目ありきで改造すればいいし、音ありきなら改造せずP-90のままでも問題はない。

ES-330について

16フレットジョイントの謎

ES-330はなぜボディとネックのジョイントの位置がES-335と違うのか。ES-335が19フレットジョイントなのに対して、ES-330は16フレットジョイントで指板がボディ側に大きくはみ出している。ES-335はほぼネック部分で指板は終わっている。

同じような見た目で、同じ時期に設計され発表されたものなのに、なぜこのような差が生まれたのか。セミアコかフルアコか、P-90かハムバッカーかの違いだけではなく、ボディとネックの接合方法にまで違いがあるということは、そこに意図があるに違いない。

製造方法

まず1958年に発表されたES-335だが、この年、Gibsonは斬新なデザインのギターを複数発表している。ES-335の他に、Flying V、Explorerがそれだ。これら3機種には共通点がある。それは指板がボディ側にほとんどはみ出していないところだ。これには理由がある。

1957年までに設計、製造されたGibsonギターの製造工程はボディとネックを作り、まずボディとネックを接着し、その後、指板を貼り付けるという手順で行われていた。

しかし、当時、新進気鋭のメーカーであったFender社は、先にネックと指板を貼り合わせて、ネックとボディそれぞれを完成させてから、ボディとネックをボルトで固定する方法をとっており、従来のギターの製造方法よりも効率的だった。

ボディとネックを接着後、指板を貼り付けると、ボディとネックがくっ付いた状態で指板にフレットを打ち込んだり、指板やフレットの形を整形したりすることになるので、作業の場所を取るし、取り回しも悪く、効率的とは言えない。

そこでGibsonもネックと指板を先に貼り合わせる製造方法で効率化を図ろうとしたのだろう。しかし、そこで問題が起きた。

1957年までに設計されたギターでそれをしようとすると、ボディにネックを取り付けるときにネックのジョイント部分の底面がボディにしっかりと接する前に指板がボディトップに当たってしまい、ジョイント部分の底面とボディが十分に圧着できなくなってしまう。

そこで、指板とネックを先に貼り合わせても問題が起きない生産効率の良いギターを新たに設計して作る必要があった。それが、ES-335、Flying V、Explorerといったボディと指板がほとんど接していないデザインのギターたちだ。翌年には、当時エントリーモデルとして製造されていたLes Paul Special、Les Paul Jr.もデザインが変更されダブルカッタウェイとなり、この製造方法で効率的に作られるようになった。遅れること1961年、Les Paulもデザインが変更され、のちにSGと呼ばれるデザインになり効率化が進んだ。

Gibsonのダブルカッタウェイのデザインは、このためにデザインされたシェイプだということが分かる。

ES-330の非効率性

これを踏まえると、余計不可解に思えてくるES-330。なぜなら指板が思いっきりボディにはみ出している1957年までの設計を踏襲しているからだ。

裏を返せば、ES-330はES-335と見た目は似ているが製造工程が違っていたことが推測できるということでもある。

つまり、ES-330は従来通り、ボディとネックを先に接着してから指板を貼り合わせて作られていたことになる。それはなぜか。

考えられるのは、ES-330がフルアコであるからではないだろうか。フルアコは1961年にダブルカッタウェイのBarney Kesselモデルが登場するまで従来通りの作り方で作られていたので、フルアコであるES-330もそれを踏襲したものと思われる。

ES-330はES-335よりも非効率的に作られていて、手間がかかっている。ということは、ES-335よりも上位扱いだったのでは?と思えてくる。

当時のES-330の値段は275ドル。一方、ES-335は267.5ドル。やはり、ES-330の方が高い。しかし、ES-345(345ドル)やES-355(550ドル)ほどではないので、装飾などが同じようなデザインで製造工程に差があるだけという価格差と言える。

Emily RemlerのES-330はヴィンテージか?

何年製なのか

エミリーのES-330は一体、何年製なのか。これは調べても、情報は出てこなかった。なので、推察するしかない。

彼女が、このES-330を手に入れたのは10歳のとき。兄からのおさがりだそうで、これが彼女にとっての初めてのギターだったとのこと。

エミリーは1957年生まれなので、10歳ということは1967年に入手したことになる。しかも、兄から譲り受けたものなので、製造されたのは67年より前なのは間違いないだろう。

彼女のES-330でもう一つ特徴的なのが、テールピース部分がMaestro Vibrolaというトレモロユニットになっていることだ。トレモロ機能を使うために必要なアームは取り外されている。

ES-330にMaestro Vibrolaが搭載され始めた年は不明だが調べた限りでは、1964年から1965年辺りからと思われる。

なので、1964年から1966年の間に製造された個体であることはほぼ間違いない。

エミリーと兄が何歳差なのかは分からなかったが、入手したばかりのギターをすぐに妹に与えるとも思えないので、1966年製である可能性も低いのではないかと思う。

となると、1964年か1965年ということになる。この頃の個体を検索すると、1965年製の方がMaestro Vibrola搭載のES-330が多く見受けられるので、断定はできないが、おそらく1965年製の可能性が一番高いように思われる。

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