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「やらされ」が熱狂に変わる瞬間 〜キヤノン流・自走するチームの作り方〜

こんにちは。
株式会社スプリングボード代表の足立晋平です。

私はNHKの『プロジェクトX』が大好きで、見ると毎回のように泣いてしまうんですが、皆さんはキヤノンを扱った“伝説の回”をご存知でしょうか?

ゼロックスの特許網に挑んだ「突破せよ 最強特許網」というエピソード。あれは本当に、痺れるほどいい話でした。


ただ、今朝の日経新聞「私の履歴書」に掲載されていた、キヤノンのもう一つの物語も、それに負けず劣らず、現場リーダーの心を揺さぶるものでした。

取り上げられていたのは、御手洗冨士夫会長。
テーマは、キヤノンの代名詞とも言える 「セル生産方式」 の誕生秘話です。


今日はこのエピソードから、チームの熱狂を生むヒントをシェアします。



🛑 なぜ「正解」は拒絶されるのか

1990年代後半、キヤノンは苦境に立たされていました。
そこで御手洗さんが目をつけたのが、ベルトコンベヤーを廃止し、少人数のチームで最初から最後まで製品を組み立てる 「セル生産」 です。

「これはいい!在庫も減るし、生産性も上がる!」

社長である御手洗さんがそう確信したにも関わらず、会社全体の生産システムを決める生産本部は大反対しました。

トップの肝煎り案件であっても、現場や中間層は頑として首を縦に振らない。
ここには、組織変革を阻む“心の壁”が存在します。

💡ちょこっと理論紹介💡
現状維持バイアス(Status Quo Bias)

変化で得られる利益よりも、変化に伴う損失やリスクを過大に見積もり、「今のやり方」に固執してしまう心理傾向のこと。

どんなに論理的に正しい新システムでも、人には本能的に「慣れ親しんだやり方(=ベルトコンベヤー)」を守ろうとする強力なブレーキがかかります。

このバイアスを突破したのは、論理的な説得ではなく、ある「感情」の爆発でした。


🔥 「恥ずかしい」が導火線になる

御手洗さんは、社内の猛反対を力づくで押し切るようなことはしませんでした。

代わりに選んだのは、別の工場での「スモールスタート(テスト導入)」です。

​しかし、現実は非情でした。

いざ蓋を開けてみると、セル生産方式の結果は惨敗。

あろうことか、撤廃しようとしていた「ベルトコンベヤー方式」の方が、生産効率が高かったのです。

​「やはり、無理だったか……」

​御手洗さんがそう判断し、「もうやめてもいいぞ」と撤退を提案したその時です。

現場の女性社員たちから、思いがけない言葉が返ってきました。

「もう一回やらせてほしい。
他社ができて、私たちができないのは恥ずかしい」

この瞬間、スイッチが入りました。

彼女たちは自ら工夫を凝らし、最終的にはベルトコンベヤーとの生産性競争に打ち勝ち、世界中のキヤノン工場を変えるきっかけを作ったのです。

なぜ、最初は失敗したセル生産が、彼女たちの言葉一つで成功に転じたのでしょうか?

💡ちょこっと理論紹介💡
自己決定理論(Self-Determination Theory)

人は、報酬や命令(外発的動機づけ)よりも、次の3つの欲求が満たされた時に内側からやる気が湧く(内発的動機づけ)とされます。

🧩 有能感(Competence): 「自分はできる」と感じたい
🗽 自律性(Autonomy): 自分の行動を自分で決めたい
🤝 関係性(Relatedness): 周囲とつながり、貢献したい

最初は「やらされ仕事(自律性の欠如)」だったセル生産が、
「他社に負けるのは恥ずかしい(有能感の希求)」
「もう一回やらせてほしい(自律性の発露)」
に変わった瞬間、仕事は 「自分たちのプロジェクト」 になりました。

メソッドそのものが優れていたのではなく、メソッドが彼女たちの 「意地」と「誇り」 に火をつけたことが勝因だったわけです。


⚔️ 高杉晋作と奇兵隊

この話、歴史上の大転換点とも重なります。
幕末、長州藩の高杉晋作が創設した 「奇兵隊」 です。

それまでの戦争は、武士という「プロ」だけが行うものでした(=従来のライン生産)。
しかし高杉は、身分を問わず 「志」 のある者を募りました。

農民だろうが町人だろうが、
「世の中を変えたい」「故郷を守りたい」
という熱意を持った人間が集まり、自律的に動く部隊を作ったのです。

結果、寄せ集めの奇兵隊は、訓練された幕府の正規軍を打ち破ります。

「やらされているエリート」よりも、「自らやると決めた素人」の方が強い。

キヤノンの現場で起きたことも、まさに現代版の奇兵隊だったのではないでしょうか。


⚽ グラウンドでの「沈黙」

以前、息子のサッカーの試合を観戦していた時のことです。
いつもはサイドラインから「そこに出せ!」「上がれ!」と大声で指示を出す熱血コーチが、その日はなぜか腕を組んで一言も発しませんでした。

最初は子どもたちも戸惑い、動きがぎこちなかったのですが、次第にピッチの中から声が出始めました。

「オレが行く!」
「お前は後ろを見てくれ!」

ハーフタイムに戻ってきた子どもたちの顔つきは、いつもと違っていました。
「やらされている」顔ではなく、「戦っている」 顔だったのです。

結果、後半に素晴らしい連携からゴールが生まれました。

私たちリーダーがついやってしまう 「良かれと思った指示」 が、実はメンバーから 考える機会(=セル生産的な工夫) を奪っているのかもしれません。

メンバーが「悔しい」「やってみたい」と感情を吐き出し、自ら走り出すまで、じっと待つ。
それもまた、リーダーの重要な仕事なのだと、寒空の下で痛感しました。

皆さんは最近、部下の「指示待ち」を嘆く前に、彼らが「自分事」にするための時間を待てていますか?

それでは、また。


▼あわせて読みたい

以前、「任せること」の難しさと大切さについて書いた記事です。今回の話と通じる部分があるかと思います。



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