建築家の空想休憩 第十二話|幻想行きの各駅停車——捨てられた夢を拾う駅
夕暮れになると、どこかに現れる駅がある。
時刻表には載っていない。
地図にも描かれていない。
それでも、ときどき誰かがたどり着く。
仕事に疲れた帰り道。
夢をあきらめた帰り道。
何かを失くしたことにさえ気づかなくなった帰り道。
その駅には、不思議なゴミ箱がある。
中をのぞくと、折れた紙飛行機や、色あせた切符、名前の書かれていないノートが入っている。
駅員は静かに言う。
「それは、誰かが途中で捨ててしまった夢ですよ。」
乗客は笑う。
「夢なんて、ゴミになるんですか。」
駅員は首を振る。
「いいえ。捨てられただけです。」
ホームに列車が滑り込む。
古びた車体なのに、窓には夕焼けと星空が同時に映っている。
発車ベルは鳴らない。
代わりに、どこからか風が吹く。
もし、ゴミ箱の中から一つだけ夢を拾い上げることができたなら、その人には乗車券が現れるという。
誰かの夢ではない。
昔、自分が置いてきた夢。
大人になる途中で、
「もう無理だ」と思って手放した夢。
列車はゆっくりと動き出す。
レールは街を抜け、雲を抜け、空へとのびていく。
終点がどこなのか、誰も知らない。
けれど、不思議なことに、その列車へ乗った人は、帰ってくる頃には少しだけ歩き方が変わっている。
夢が叶ったからではない。
もう一度、夢を持ってもいいと思えたからだ。
だから今日も夕暮れになると、どこかで静かに列車が停まる。
「幻想行きの各駅停車」。
その駅は、捨てられた夢を拾うためだけに存在している。

時間は、過去へ戻るものではなく、未来へ積み重なっていくもの。
『時間建築論』では、建築を通して「時間」と「記憶」の関係を考えています。
もしこの物語がお好きでしたら、ぜひこちらもお読みください。
この駅は、「建築家の空想休憩室」の世界にある、ひとつの場所です。
現実には存在しないけれど、どこかで見たことがあるような建築や風景を描く短編シリーズです。
よろしければ、ほかの空想の旅にもお立ち寄りください。
はじめて読んでくださった方へ。
このnoteでは、建築、暮らし、時間、そして日本と韓国の住文化について、建築家の視点から記録しています。
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