見出し画像

コーヒーの酸味について

コスタリカで飲むコーヒーは、この10年ほどで大きく変わった。
常識としてずっとあったもの、それはコーヒーは安い飲み物という概念。
現在でも多いが、ホテル、観光地の施設、コスタリカ国内では多くの場所で、コーヒーは無料提供されている。
大抵の場所で提供されていたコーヒー。
これがお世辞にも美味しくはなく、悪い言い方をすると、カフェイン入りの泥水のような飲み物だった。


安いコーヒーの仕組み

大抵、ホテルなどに置いてあるコーヒーは、パーコレーターにあるコーヒー。これが期待して飲んでしまうとガッカリする原因だ。
無料だから、まあ原価の安いコーヒーを使用する。
この、業務用の原価が安いコーヒーが、また曲者。
最近でこそは少なくなったが、かさ増しという方法で、コーヒーよりも安いトウモロコシ、砂糖、そしてコーヒーの殻などを混ぜて焙煎させている。
ギリギリまで焙煎にかけ、粉にしてしまうと見分けがつかない。
袋を開けると香ばしい匂いが漂うので分からないが、この香ばしい匂いは焦げるギリギリまで焙煎をかけた匂い。
極限まで深煎りすると、豆は脆くなって膨らむ。それによって重さは同じでも体積が増える。つまり量が増える。
私の想像だが、量販店で昔売られていた激安コーヒーには、このような粉が多かったのではないだろうか、とも思う。

さて、ギリギリまで焙煎をかけた深煎り以上のコーヒー。
香ばしい匂いが漂うと同時に、色も濃く、苦味も強い。
淹れたてのコーヒーは、香ばしさが漂い、決して不味くはない。
ただ、舌先に感じる苦味は強い。
ところが、時間が経つにつれて、なんとも不味くなってくる。
これには色々な要因がある。

  • コーヒーメーカーで保温することによる酸化

  • 冷めた時に出てくる雑味

  • 保存しすぎた粉の劣化

主にはこれぐらいの理由が考えられるが、冷めた時に不味いコーヒーは、残念ながら良いコーヒーではない。
特にかさ増しをしているコーヒーは、殻や他の穀物、砂糖も入っているので、それらの雑味がだんだんと際立って、飲めなくなる不味さになる。

コスタリカでも、ホテルなどに設置されているコーヒーは、パーコレーターを使って抽出と保温を行っている。
パーコレーターの仕組み上、中を温められたお湯が循環するので、何度も何度もコーヒーをお湯が通過する。
淹れたての30分程度ならば、保温の循環が始まっていないのでそれなりに飲める。だが、冷めてきてから保温のための循環が始まると、酸化が急激に進んで強烈な酸っぱさが出てくる。

昔は、コスタリカでコーヒーを飲むとなった時、一杯のコーヒーに何杯も砂糖を入れるのが当たり前だった。コーヒーというよりもコーヒー風味の砂糖水を飲む感覚。
要はコーヒーが美味しくないので、砂糖で誤魔化していたわけだ。

この酸っぱいコーヒーを飲むと、後で強烈な胸焼けを起こすこともある。
酸味が苦手、という人にはこのようなトラウマもあるのかも知れない。

現在、コスタリカもカフェ文化が広がり、いわゆる不味いコーヒーはだいぶ減ってきた。市場の中のソーダと呼ばれる安食堂でも、淹れっぱなしのコーヒーではなく、一杯ずつネルドリップで淹れてくれる店も増えた。
安価なコーヒーも改善されてきて、一部を除いて強烈なかさ増しも減った。
パーコレーターは今でも現役だが、少しお金を払えば良質なコーヒーが飲める文化になってきている。
コーヒーは安い飲み物、という意識から美味しい飲み物へと変わってきている。

深煎りコーヒー


眠気覚ましに濃いコーヒーを飲む、というのは、この舌先にくる苦味の刺激が眠気を払うから、かも知れない。
苦味が眠気を払拭してくれる錯覚はあるが、実際のカフェイン量は浅煎りコーヒーの方が多い。
この強い苦味は、ミルクとの相性が良く、ラテやカプチーノには向いているかも。
私の勝手な予想だが、90年代のカフェや喫茶店時代にコーヒーを飲み慣れている人は、コーヒーと言えば、深煎りの苦くてコクと香ばしさが引き立つ飲み物だろう。

正直なところ、淹れたての深煎りに限定すれば、あまり値段による味の差は感じにくいかも知れない。ただしこれは、ギリギリまで焙煎をかけたコーヒー。豆を見ると、真っ黒でツヤ光している。
手でギュッと押すと、ボロボロと崩れるぐらいだ。
同じ深煎りでも、豆を見ると色も随分変わってくる。

これはネットから拝借。いわゆる超深煎り

苦味が強調された豆となるので、酸味は全く感じない。
次からは私が持っているコーヒー豆の写真で比べてみる。

これはコマーシャルコーヒーと呼ばれる豆で、500g15ドルで購入した。
上の写真と比べると、黒いと言うよりは焦げ茶色。
スッとくる苦味はあるが、後味はキツくない。ほのかな、鼻に抜けるわずかな酸味もあり、ブラックでもラテでも美味しい。

スペシャリティコーヒー農園で手に入れた深煎り豆。
上の写真と比べると、少し深みがかかった茶色。
そして豆のムラがない。
苦味は少しあるが、酸味と甘みが広がる。
豆は固く、わずかな酸味は残るがクセは強くない。
ミルクとの相性も良い。
ツヤが少ないが、これは油分が表面に染み出すギリギリまでの焙煎だからだ。ツヤツヤしている豆は、豆に含まれている油分が滲み出ているからだ。
そしてこの油分に、コーヒーの味が多く含まれている。

コーヒーの油分と酸味

映像などで、エスプレッソを抽出する場面を見ると、ドロっとした液体で抽出されている。これは、コーヒーの油分によるもので、滲み出てきた油が一緒に落ちているからだ。
コーヒーの味の決め手ともなるものが、この油分にかかっていると言っても過言ではないかも知れない。
香りや甘み成分は、油に溶けやすい性質を持っているため、油分が一緒に抽出されることによって、口の中に香りが残る。
また、油膜が舌について保護するため、苦味をマイルドにさせる。
この舌へのコーティングによって、コーヒーの水っぽさも消えてコクも感じやすくさせる効果がある。

この油分、コーヒーの味わいやコクを出すためには必要不可欠な成分でもあるが、場合によっては逆効果ともなることも。
コーヒーメーカーで大量に作って、それを飲む場合。
油はとても酸化しやすい。
酸化した油はどうなるか。まさに古くなった揚げ物油のようになる。
嫌なにおいと、不快な酸味、これは劣化した油によるものでもある。

良質な酸味

スペシャリティコーヒー界隈では、浅煎りがブームというか、場合によっては浅煎りこそ正義、という風潮もある。
確かに、コーヒーをフルーツと捉えた場合、フルーツの味を存分に引き出すには、焙煎はなるべく行わないに越したことはない。
熱によってクエン酸、リン酸、ポリフェノールなどが消失されていくため、浅煎りの豆には、これらの成分が多く残っているからだ。

浅煎りコーヒーの酸味は、クエン酸の効果による酸味だ。
この酸味は、のどに残る酸化した嫌な酸味ではなく、フルーツの酸味。特に柑橘系の酸味に近い味わいであり、口の中にほのかな甘さも形成する。
口の中に広がる酸味なので、のど越しにはあまり感じない。
これらは、良質な酸味とでも言えば良いのか。
特に浅煎り豆に多く含まれるポリフェノールは、美容、健康に注目されており、抗酸化作用も大きい。

浅煎りがブームとなっている背景には、このような根拠がある。
コーヒー本来の酸味とは、コーヒーがフルーツである証であり、口に含んで味わえば、酸っぱさの中に甘さも感じられるはずだ。

コーヒーは嗜好品

昔ながらのコーヒーを飲み慣れていると、この浅煎りの酸味が引き立ったコーヒーは、異質な飲み物に感じるだろう。
スペシャリティコーヒー専門店のカフェに行って、高級な、そしてバリスタが自信満々に出したコーヒーを飲んで、うーん私には合わない。
そう思う人も決して少なくないはずだ。

コーヒーは嗜好品なので、自分が美味しいと感じたコーヒーを飲むのがベストだ。無理に昨今の風潮に合わせる必要もない。
私は個人的に中煎り程度が好きだ。
何だかんだ一日中コーヒーを飲んでしまうのだが、浅煎りを飲み過ぎると、胃がもたれてしまう。
単純に、浅煎りになればなるほど、カフェインが増えるからかも知れない。

逆に深煎りの豆に多く含まれる成分として、
ニコチン酸、胃酸の分泌を抑える成分、などが生成される。
コーヒーを飲んでリラックスしたいときは、浅煎りではなく深煎りを飲む方がリラックス効果は大きく、コレステロール値も下げるらしい。

自宅で浅煎りコーヒーを、マイルドな味で飲む方法としては、
酸味が引き立ちすぎないよう、少し熱いお湯で淹れる。
ペーパーフィルターではなく、フレンチプレスなどで淹れると、油分も一緒に抽出されるので、コクと甘みも引き立てられ、際立った酸味が抑えられるはずだ。

コーヒーは安価な飲み物から高い飲み物へ、最近は変化してきている。
特に、スペシャリティコーヒーブームと共に、高級化していることは否めない。
色々な要因はある。
円安もその一つ。
それでもコーヒーは嗜好品であり、楽しんで飲む飲み物だ。
もしもコーヒーが好きであれば、値段で探すのではなく、自分の好みの味を探して欲しい。

最後に生産国在住として一言。
スペシャリティコーヒーと、安いコマーシャルコーヒー。
原価率で考えると、圧倒的にスペシャリティコーヒーの方が原価は高い。
利益率は低く、ほとんどの農家は、もちろん儲けを前提としてはいるが、大儲けするためにコーヒー農園をやっているのではない。
彼らとしては、納得いく美味しいコーヒーを作る、という事にほぼ全振りしている。
スペシャリティコーヒーの世界では、毎年5月にオークションが開かれ、だいたいそこでコーヒー価格の基準が決まる。
職人が手作業で一品一品丁寧に仕上げた工芸品、このような職人芸と同じ質の仕事をしているのが、スペシャリティコーヒー農家だと思って欲しい。

いいなと思ったら応援しよう!