🌲 蒼い森の物語 第25章 戻れなくなる前に —ちゃんと見て⑤ —
シオンの涙に濡れた瞳が、イオリを見つめる。
しがみついた腕から伝わる体温はそのまま。
「……シオン」
イオリの唇が、かすかに震えた。
彼はゆっくりと手を上げ、彼女の細い肩へと伸ばした。
引き寄せたい……
寸前で止まる。
(……だめだ。これ以上は、戻れなくなる)
手は、静かに静止した。
「嫌い……なわけがない」
それ以上、何も言えなかった。
シオンは、待っていた。
イオリの手が触れるのを。
けれど、その手は髪をスッと撫でただけ。
触れた?
けど……ちゃうやん
足りてへんやん……
そんなん、違うし……
「お前は……」
その先を、シオンは息を止めて待つ。
数歩離れた場所で、ノクはただじっと二人を見守っていた。
「……行くぞ。日が暮れる」
イオリらしい一言。
シオンの手を優しく、けれど確実に解く。
再び歩き出す。
シオンは立ち尽くしたまま、遠ざかる彼の背中を見つめる。
「なんなん、それ」
ふふふと小さな笑いが込み上げる。
ああ……そうやん、あれがイオリやん。
もぉ、イオリがイオリらしくて……
ノク、尻尾を揺らす。
風が吹き抜け、枯れ葉が二人の間を通り過ぎていく。
