【百合掌編】私の日記帳

「暑いね~。○○もサイダーの飲む?」
 帰りの駅に向かう途中、私はいつも通り、飲みかけのサイダーを差し出した。
 いつも通りのはずだった。
「う……うん」
 今日もまた、彼女は躊躇いがちにサイダーを受け取り、おそるおそる口にした。
 最近、彼女の様子がおかしい。
 妙にそわそわしてるというか、どこか落ち着きがない。
 昨日もそうだ。
 ベンチで隣に座ると若干距離を空け、ジュースのシェアも少し躊躇ってから飲むようになった。向かい合って座ることも最近はしない。
 でも、こうして一緒に帰ってるし、他のグループにいることもないから、嫌われたとかではないはず。
 今だって私の差し出したサイダーの口をじっと眺めている。
「ねえ○○。最近よそよそしいけど、何かあったっけ?」
 心配になり、ついに口にしてしまう。彼女とは高校に入学して以来の付き合いだが、今では大切な友人だ。このままギクシャクしたままというのは嫌だ。
 彼女は、ハッと顔を上げると、
「え? あ、いや、その、ごめんね。あ、あの、あのね。違うの。そうじゃないの。××が悪いんじゃなくて、全部私が悪くて、いやそれで——」
 息つく間もないくらいに、早口になった。
「ストップ」
「痛ぁ!」
 私は額にチョップをくれてやると、壊れた蛇口が閉まる。
「落ち着いてゆっくり説明して。大丈夫だから」
 ふるふると不安そうな瞳を真っ直ぐに見つめて、私は子どもをあやすように、彼女に促した。
 息を大きく吐き出した彼女はぽつりぽつりと、話し始める。
「実は、この前、××の日記を少し読んじゃってね……」
「うん」
 うん?
「偶然開いてあったページにね、私へのラブコールがあんなに書いてあるから、どうすればいいのか分からなくって……」
 しまった。
「イママデアリガトウ。ホネモヒロワナクテイイカラネ。デハサヨウナラ」
 私は足を反対方向に向けると、一言、彼女に遺言を残し、一目散に海に向かって走り出す。
 のを、背中から抱き着かれ、彼女に止められた。
「離して! あんなクソポエムを本人に読まれたらこの先生きていけない!」
 必死に振り払おうと腕を回す私の背中で、彼女もまた、必死に叫ぶ。
「やだよ! 両想いだってわかったばっかりなのに!」
「……え?」
 腕を止めた私は、彼女に向き直る。
「ごめんね、勝手に見ちゃって。それと、言えなくて」
 腰に抱き着いたまま、上目遣いに彼女は零す。
「私こそごめん、ちゃんと口で伝えられなくて」
 私もまた、ようやく素直な気持ちを告げると、彼女の頭に手を添え、そっとなでた。
 少し汗ばんでるけど、ふわふわの髪が心地いい。
 日記に書き留めた私の密かな願いは、こうして叶えられたのだった。

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