【ショートショート】祖母が毎晩、庭にご飯を並べる理由
夏休み、私は祖母の家に預けられていた。
祖父は数年前から行方不明らしい。
祖母の家は、苦手だった。
匂いなのか、雰囲気なのか、なぜか気分が悪くなる。
長い廊下の先は、暗くて不気味で進むのが怖かった。
祖母は毎晩、夕食が出来上がると、庭にご飯を並べていた。
何もない庭に。
一度、祖母に聞いたことがある。
「何もないのに、どうしていつもそこにご飯を置くの?」
祖母は私を見つめて微笑んだ。
「そこにいるんだよ」
と言って、手を合わせた。
そっか。
神様がいるんだ。
そう思って、私も隣で手を合わせた。
中学生になると、祖母の家へ行くことはなくなった。
そして祖母が亡くなり、久しぶりにあの家を訪れた。
身体が重い。
葬儀を終え、母と縁側に座って話をしていたとき、ふと庭が目に入った。
「そういえば、昔おばあちゃんが毎晩ここにご飯を置いてたの」
母は少し寂しそうに笑った。
「昔、ここで犬を飼っていたの。柴犬でね。白くて丸い眉があったから、シロマユって呼んで可愛がってたのよ」
そうか。
私が神様だと思っていたのは、犬のお墓だったのか。
「じゃあ、もう一匹は?」
母が目を丸くして、私を見る。
「え?」
「ご飯、二つ並べてたよ」
母の顔から、みるみる血の気が引いていった。
「飼っていたのは、その一匹だけよ」
後日、庭から二体の骨が見つかった。
一体は犬。
もう一体は、成人男性のものだった。
私の身体は、ようやく軽くなった。
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