病院へ向かう途中で出会った、春の微笑ましい出来事とは?
母と病院へ向かう途中、 いつもは静かな道が、少しだけ華やいでいました。
幼稚園の前には、コートを着た父親や母親たちが集まっていて、 その横には、小さな園児たちが並んでいます。
どうやら今日は卒園式らしく、 園の前では写真を撮る家族の姿がたくさんありました。 春の光の中で、子どもたちの声が弾んでいます。
そのとき、ひとりの園児が、 遠くからこちらに向かって走ってくる友だちを見つけて、 大きな声で「おはよう!」と叫びました。
その声に、母がふっと反応しました。 まるで自分の孫に声をかけるように、 その子に向かって「おはよう!おめでとう!」と、 自然に言葉を返したのです。
私は思わず笑ってしまいました。
「お母さん、その子、私たちに挨拶してないよ」
母は少し照れたように笑い、 でもその表情はどこか誇らしげでした。
すると、園の前に立っていた男性―― おそらく園長先生でしょうか?
その方が母に向かって、丁寧に頭を下げて言いました。
「ありがとうございます」
母はまた、やわらかく微笑みました。
その笑顔は、春の光に溶けていくようでした。
卒園式という特別な日の空気の中で、 母の「おめでとう」は、 ほんの一瞬の出来事だったけれど、 確かに誰かの心に届いたのだと思います。
病院へ向かういつもの道が、 その日は少しだけ温かく感じられました。
子どもたちの未来と、母の優しさが交差した、 そんな春の朝のことです。
