''田中秀和''という作曲家に音楽があってよかった
みんなそう思ってる、きっと。
(写真: https://hdkzt.jimdofree.com/about-me/ )
今回は、楽曲派の作曲家として「田中 秀和」さんから僕が受けてきた影響を中心に執筆します。僕自身と秀和の音楽の歴史みたいなものです。デリケートな話題を含む可能性がありますが、あくまで音楽家としての評価を軸に記すので、ご理解を強制いたします。(時折、敬称を省略しています)
Wake Up, Girls!から彼を知った
田中 秀和という作曲家の音楽を知ったのは、2018年ごろ。仙台に住んでいた私は、街中でたまたま目にした''Wake Up, Girls!(以下、WUG)''という声優アイドルが気になり、YouTubeやWikiなどをくまなく調べるようになりました。WUGが仙台を舞台にした作品だと知り、映画『Wake Up, Girls! 青春の影』 と『Wake Up, Girls! Beyond the Bottom』を借りて、観てみることにしました。その時に聴いた''ある曲''が衝撃的すぎたことを、いまでも鮮明に覚えています。
1. Beyond the Bottom (Wake Up, Girls!)
イントロから、想像と創造の範疇を超えてくるボーカルチョップ。辛矢凡 (山本寛) が激しく綴るシュートで棘の痛い歌詞。アーメン終止を繰り返してサビに向かう聖歌のような展開…… 全てが僕を浮世から隔絶しようとしてきました。それでいて現実を刺してくる痛みが心地よかったのを覚えています。今聴くと涙を流しそうになるけれど、当時は刺激の強さに言葉を失っていました。聴いて数十分して何だこの曲は?!と我に返って、この曲の威力と魅力に気づけるようになりました。
ところで、2018年当時のWUGは、永遠に成長するコンテンツではなくなっており、翌年3月の解散が決まっていました。知るには3年ぐらい遅かったなと今でも後悔しそうになります。当然メモリアルアルバムが出ることになったので、中学1年生の私は仙台中を駆け巡って版を買いました。なけなしのお年玉を溶かして、彼女達の足跡を手元に置こうと思ったのです。それは同時に、作家が作ってきた楽曲の結晶を手元に置いておくことにもなるのでした。
物語を紡ぐ天才・田中秀和
WUGのメモリアルアルバムはCDが8枚構成になっていて、うち1枚はこの版にしか入っていない新曲が4曲入ったものになっていました。中には神前 暁・広川 恵一・高橋 邦幸の曲とともに、田中秀和の曲も入っていました。そこで私はまた、語彙で表現出来るスケールを超えた名曲に出会いました。
2. 土曜日のフライト (Wake Up, Girls!)
WUG解散に向けた不安な気持ちや寂しさを、包み込んでくれるような、それと同時に別れをどうにか呑み込ませようとするような曲でした。この曲を聴き始めると、終わるまで息付く暇がないんですね。涙したら止めさせてくれやしないんです。1曲を通して1つのパッセージなのだと感じさせてくるんです。それについては、作家本人がこう書いてました。
3月8日だから言える
— 田中秀和 / Hidekazu Tanaka (@HdkzTanaka) March 7, 2020
というわけでもないのですが
最後に書き下ろさせていただいた「土曜日のフライト」にはワンコーラスのデモが存在せず、最初からフルサイズの音楽として作られました。どこがBメロでどこがサビで、というよりも、一曲を通して曲想が展開していくような音楽を目指しました。#WUG_SSA
そう、田中秀和という作曲家の素晴らしいところは、楽曲の展開を作ることに際して、伝えたい物語が必ず意図してあるという点にあります。ノリだけではないこの思考が彼の魅力であり、彼の作る曲には如実に出ているのだと、このポストを見て尚更思ったのです。流石は、神戸大学発達科学部の出身だけありますね。『土曜日のフライト』に関して言えば、こちらのnoteが素晴らしいので、ぜひご覧くださいませ。
ちなみに、この時は作曲家がどうとかあまり気にしないで聴いていた年頃でした。ですから、ここまでの見解は後から肉付けされたものが殆どになります。
しかし、ある人間の動画を見てしまったがために、作曲家はすごい!田中秀和は魅力的だ!と思える羽目になり、挙句には僕が作曲家そのものを志すことになりました。
ゆゆうたに気付かされた魅力
WUGに関する動画を見ていたときに、ゆゆうたという配信者が秀和の曲を分析するという動画に出会いました。確かこの曲でした。
3. スキノスキル (Wake Up, Girls!)
この曲を分析しているときに、「サビの2周目でコードが違う!」ということにゆゆうたが気づいているのですが、僕はそれに感動しました。今までの音楽体験には、作曲家の技巧があって成り立つものがあるんだ!って気づきました。同時に田中秀和という作曲家がやべーと知り、彼にまつわる動画や曲を漁るようになりました。
4. M@GIC☆ (CINDERELLA PROJECT)
この曲をまたしてもゆゆうたが分析している動画に出会ったときは、ゆゆうたと同じタイミングで絶叫しました。何せ、こんなに説明が難しいのにすんなり行く転調があるのかと、同じように驚きました。この頃には彼がよく用いる「イキスギコード」という和声的にイカれた響きもなんとなくは理解していたので、ただただ田中秀和の世界観に魅了される日々が続くことになったのです。 (イキスギコード:分数augやマイナーメジャーコードの総称)
秀和に出来ないことはないのでは
5. Share the light (Run Girls, Run!)
'20年代になると、田中秀和は曲作りがあまりにも上手いので、エース級の楽曲ばかりを依頼されるようになっていました。そんな中、中2の秋を迎えた私が『Share the light』に出会った時は、またもや閃光貫くよう衝撃が走りました。
エース曲と言えばそうなのですが、短調のすなわちダークな曲を書く印象が秀和にはなかったのです。そして、この曲では当時新鮮だった2段サビの構成になっていたので、そのジェットコースターに翻弄されまくっていました。なんでも出来るじゃんこの人!って思って、この頃から秀和のことを自分勝手に敬愛するようになりました。
突然、彼の新曲が出なくなった
やがて僕が作曲を始めることになりました。内には田中秀和への憧れがあったと間違いなく思っています。そんな2022年、その秋にとんでもないニュースが飛び込みました。
当時の僕は憔悴しきっていました。何故こんな事になるんだ、こんな事を秀和はしてしまったんだ……と、擁護できない事実ではありましたが、何故か僕自身を責めるような思いに駆られました。僕の信じてきた音楽が間違いじゃないと思いたくて必死になりました。まるでラスコーリニコフのように、でも刃は自分に立てて。
それでも、秀和が作ってきた音楽は明らかに優れている表現を含んでいますし、革新的でありながら親しみを持てるような作品であることに変わりはないのです。だから、人格こそ批判されるべき点はあるでしょうが、この後も私は秀和が生み出してきた曲を愛し続けることにしようと決めました。
6. サイキョウチックポルカ (尾丸ポルカ)
なぜなら、彼はこんなCUTESTな曲を書けるんですよ……!カワイイ曲が流行り蔓延りまくっている昨今ですが、それらを作る現在の作曲家・編曲家の大半は秀和に憧れてるに決まってます (たぶん) 。田中秀和について、コード進行のトリッキーさが際立ってはいますが、音色選びの秀逸さも注目すべきです。 そんな怪しい音色のシンセをどこから持ってきたのかは分かりませんが、彼の耳のセンスは明らかに常人とは違うのだと思います。
田中秀和という音楽家としての功績が偉大であることは、今も昔も変わりないのです。だからこそ、ずっとファンがいて色んな人に親しまれているのだと思います。
せめて影響された証を残したくて
今、僕は彼への愛が上手く拗れたのか、作曲家になってしまい、また東京音楽大学の学生になってしまいました。ですから、常日頃彼のような音楽を追い求めて暮らす日々を送っていますし、田中秀和がいかに凄いかの語彙を揃える勉強をしているわけです。
ただ、東京音楽大学にはまだ、ポピュラー音楽の作家について話せたり研究したりする人々が少ないように感じます。卒業生には滝澤俊輔とか、伊藤翼とかいらっしゃるんですけどね。寂しい気がします。
逆に言えば、僕が高らかに''田中秀和が生み出した音楽の良さ''を伝えていけば、今までになかったものとして新しく受け入れてもらえる可能性は十分にあるのです。
ですから、大学で彼の曲や話題をそれなりに持ち出したり、Blackadder Chordを効果的に使った曲を作ったり、大学の授業を頂いて講義をしたりと、様々な活動をしてきました。どれも好感触で、卒業の研究も彼の音楽を元にしたものになる予想です。なぜなら僕は……
― 秀和の曲に出会って人生が変わったから
かなりのリソースを彼に割くことになったこの人生、秀和、あなたがいたから楽しくなってるのかもしれません。''田中秀和''という作曲家に音楽があってよかった。秀和の音楽に出会えてよかった。
結びに
僕が、田中秀和の作ってきた曲でお気に入りな曲を4つ置いておきます。聴いたことがなかった人は、1度でも聴いておくように。では。
7. ファイオー・ファイト!(SMILE PRINCESS)
徹頭徹尾、厳しすぎる歌詞が気になるこの曲ですが、サビでとんでもない転調を試みます。音楽理論を知らない友人が「なんだこれ?!」となったレベルのコード進行ミステリーツアーに招待されます……(?)
8.ドラマチックガール (れみ・ふうり from STAR☆ANIS)
展開の作り方が上手い秀和がガン見えします。ちょっとポスト渋谷系の香りがするんですよね。だからスタイリッシュな雰囲気をずっと醸して、ダサいことはしていないフリをするんですが、展開が上手いのでしっかりA / B /サビがあることが感じ取れますし、すっと聴けるのに飽きがこないんです。流石。
しかも、これを女児向けコンテンツに持ってくる秀和、恐ろしや。
9. Cidre (Mia REGINA)
この曲は冒頭からイカれた和音ばっかりを並べてあります。もちろんお洒落〜♪ ただ、ちゃんとコードネームを見ると普通に強進行してるだけなんですよね。色んな人が言っていると思いますが、秀和は案外、和声進行の理論に忠実なコードワークをしています。社会のルールまで守って欲しかった……
10. アマカミサマ (名取さな)
展開の作り方が上手い秀和 × コード進行が巧みな秀和 × かわいい曲を作れる秀和 の総ざらいみたいな曲です。サビに向かっていくところの緊張を溜めていく感覚は、息が詰まるようなそれです。そこからの解放がたまらなく好いので、ぜひ味わってみてください。
