ショートショート『恋人は吸血鬼』🦇Chapter 2🦇
※この作品は、海外の友人にも自動翻訳で読んでもらっています。
そのため、日本語としての自然さよりも、自動翻訳で意味が伝わりやすい表現を優先している箇所があります。主語の繰り返しなども、そのための工夫です。
日本語版と自動翻訳版、両方を楽しんでいただけたら嬉しいです。
バーやスナックが軒を連ねる呑み屋街をしばらく歩くと、『すっぽん亭 RED MOON』と書かれた怪しい看板が見えた。
彼はポケットから鍵を取り出し、古い木造の扉を開けた。
私は、開店前の店内で彼と食べる夜ごはんが好きだ。まだ温かいチキンライスとオニオンスープを袋から取り出して、テーブルに並べた。
彼が、冷蔵庫から自分の食事を持って、私の向かいの席に座った。
「それじゃあ」と彼が言い、「いただきます」と私が続けた。
彼は私のペースに合わせて、コップ一杯のトマトジュースを飲む。
「それ、一口飲んでみたい」
「ダメ」
「なぜ?」
「君の口には、合わない」
「私がトマトジュース好きなの、知ってるよね?」
「うん」
「じゃあ、それは何?」
「トマトジュース」
このやり取りは、付き合い始めた頃から何度も繰り返しているけれど、彼はそれを頑なにトマトジュースと言う。
とても美味しそうにそれを飲むのだ。
一方で、彼は私が食べているものには興味がなさそうだ。
「それ、にんにく入ってる?」
「え? にんにく抜きにしてもらったよ」
「……たぶん、あのカフェにおっちょこちょいなシェフが居るんだよ。間違えて入れちゃって、後から取り除いた。そんな気がする」
私はチキンライスをもう一口食べた。
言われてみれば、微かににんにくの香りがするかもしれない……。
私は彼と目を合わせた。
食後は、念入りに歯を磨くことにした。
*
22時の開店まで、あと15分。
私はお客様をお迎えする準備を概ね終えて、本日流すBGMをセレクトしていた。
私がコツコツ集めたヴィンテージのクラシックレコードの中から、カザルス演奏のバッハ『無伴奏チェロ組曲』を選んだ。
一方、彼は本日仕入れた新鮮な’すっぽん’を、一人で黙々と調理していた。
私は、壁の時計を見た。そして、レコードに針を落とした。
チェロの独奏が、古い木造の店内に沁み渡る。
開店の合図だ。
22時キッカリに木造の扉が、”カランコロン”と音を立て開いた。
1組目のお客様だ。
「いらっしゃいませ」
私は香水の匂いに思わず自分の鼻を押さえそうになるのをグッと堪えて、そのお客様をカウンターの1番端の席へご案内した。
冷えた水とおしぼりを運ぶと、そのお客様は水をゴクゴクと飲み干し、おしぼりで手を拭いた後に顔や耳の裏まで拭き始めた。
私はそれを見て、小さくガッツポーズした。
おしぼりにアルコールを少量吹き掛けておいたのだ。
これで狭い店内に充満する香水の匂いが、少し落ち着いた。
それでも嗅覚が鋭い彼には、まだキツいかもしれない。
私は、空気清浄機のスイッチをONにして、小窓を少し開けた。
「いらっしゃいませ」と言って、すっぽんの生き血で作ったハイボールをカウンターに置いた彼は、いつの間にやら防毒マスクを付けていた。
「このレモンて、どうしたらいいの?」
お連れの方が、ジョッキの縁に付いたレモンを手に取って言った。
「お好みですが、女性の場合は、絞ってそのまま中に入れた方が、飲み易くなりますよ」と、彼が言った。
女性は彼の言うことを素直に聞いて、一口飲んだ。
「うあ……本当だ!」
女性の顔は、少し赤らんでいた。
「おいおい、先ずは乾杯だろう?」
"香水のおじさま"が促すも虚しく、
「本当に美味しいですぅ」
女性は、"香水のおじさま"を無視して言った。
「このすっぽんの唐揚げは、ダメだ……」
"香水のおじさま"と女性のお客様の後、すぐに入店されたお客様がボソリと言った。
お客様は一体、何がダメだと言っているのだろう……彼と私は目を合わせた。
すると、お客様が顔を上げて言った。
「……美味し過ぎて欠点が見当たらない」
彼も私もホッとした。
「塩に飽きたら、これをどうぞ」
彼がお客様にわさび醤油を差し出した。
「うんうん。すっぽんの淡白な旨味によく合う。もっと貰える?」
「すみません。ご予約いただいた人数分しか仕入れていないのです」
私はすかさず手帳を持って、お客様の側へ行った。
「10月のこの日なら、ご予約いただけます」
「え!? 3ヶ月後まで予約が埋まってるの?」
私は申し訳ないと思いながらも、少し誇らしい気持ちでお辞儀した。
「すぐに埋まってしまうので、この日で予約を入れておきますね。ご都合が悪くなったら、前日までにご連絡ください」
お客様は少し残念そうにしていたけれど、
「最後は雑炊です」
彼が差し出すと、
「お! "すっぽん"の甲羅に盛った雑炊かぁ! いいね」
お客様は、すぐに機嫌が直って、小さなカメラで料理を撮り始めた。
「僕、フードライターをやってまして、反町(ソリマチ)といいます」
反町(ソリマチ)様は、彼へ名刺を差し出した。
「この店のことを載せてもいいですか?」
「見た通り、ひっそりとやっている店なので、あまり目立つようなことは遠慮させていただきたいです」
「じゃあ、店内や料理の写真は控えるとするか……」
反町(ソリマチ)様は、"すっぽん"の甲羅を舐める勢いで、雑炊を完食した。
次に"カランコロン"と扉が鳴ったのは、時計の針が23時を回っていた。
外国人の親子らしき2人が入って来た。
「Salve(こんにちは)」
一体、何語なのだ?
「Salve……」
私は咄嗟に、お客様と同じ言葉を返した。
「Ah, Welcome. Please take a seat right here」
そして、ひとまず英語でお客様をご案内した。
席に着いたお客様に彼が声を掛けた。
「Benvenuti. Nel nostro ristorante, come prima cosa, serviamo un highball a base di sangue di Suppon…(ようこそ。当店では、まず"すっぽん"の血をベースにしたハイボールをご提供いたします)」
え? 何語なの?
私は彼の正体を知っているけれど、彼の経歴はあまりよく知らない。
「Danny, rispondi da solo(ダニー、自分で答えなさい)」
父親らしき方が言うと、ダニーと呼ばれる息子らしき方が話し始めた。
「あー、自分は19歳でぇす」
「日本語が、お上手ですね」
「はぁい。日本の大学にぃ通っていまぁす」
「イタリアから留学されているのですか?」
「はぁい。日本のファッションを勉強しにわざわざイタリアからやってきましたぁ」
「日本では20歳になるとお酒が飲めます。今日は、すっぽんの生き血のソーダ割りをお出ししますね」
「はぁい。楽しみでぇす」
ダニー様がファッションの勉強をしていると聞いて、私は妙に納得した。
声や体格から2人は男性のように見えるけれど、サラサラのロングヘア、レディースのような可愛らしい洋服や小物を身に纏う中性的なその姿は、一般人のセンスを超越していた。
そしてダニー様は、お父様にイタリア語で、何やら説明を始めた。時折、「Momdad」という単語が聞こえた。
「Ecco a Lei(どうぞ)」と言って、彼がカウンターにハイボールとソーダ割りを置くと、2人はまるで食前の儀式のように慣れた手つきで長い髪を後ろでひとつに束ね、それをゴクゴクと飲んだ。
「Mm... Buono!」
"Buono"は、確か"美味しい"という意味だったはず。
私は嬉しくなって、彼と目配せをした。
「このレモンピールのシャーベット、甘じょっぱくて美味しい〜」
"香水のおじさま"のお連れの女性が、彼に向かって言った。
「ウチのパティシエが作ってます」
彼が私を見て言った。
私は女性の側へ行き、熱心に説明した。
「当店で使っているレモンは、すべてシチリア産でございます。酸味にコクがあるので、濃厚なはちみつと岩塩がよく合うのです。はちみつと岩塩にも実はこだわりがありまして……」
熱く語り過ぎたかもしれない。
女性は、少し戸惑った様子で「ああ……なるほど……」と言った。
私は慌てて、言った。
「レモンのパウンドケーキ、レモンのクッキーなど、日によってお出しするものが違います。ぜひ、またいらしてください」
すると、
「それは、ダメじゃないか!」
反町(ソリマチ)様がご立腹のようだ。
私は反町(ソリマチ)様の方を向いて、聞いた。
「どうされましたか?」
「日によって違うデザートを出されたら、食べられないデザートがあるってことじゃないか! そんなの……堪えられない」
彼は、笑いを堪えていた。
23:30近くになって、"カランコロン"と、扉が鳴った。
彼女たちは、常連の局田(ツボネダ)様と小文(コブン)様だ。
いつもお2人は、開店時刻より前に店の前で待機しているのに、こんな時間にご来店するなんて珍しい。
「恐ろしいわ……」
局田(ツボネダ)様は怯えていた。
私は、お2人を席にご案内して、聞いた。
「どうかされたのですか?」
局田(ツボネダ)様は、勢いよく話し始めた。
「いつも通り、店の前で開店するのを待っていたのよ。そしたら、コウモリの軍団が襲ってきたの! ね? 小文ちゃん?」
小文様は何度も頷いて言った。
「局(ツボネ)ちゃんを2〜30羽くらいのコウモリが襲ってた!」
私は彼と目を合わせた。
「局田(ツボネダ)様だけが、コウモリに襲われたのですか?」
私が聞くと、
「そう。私だけ」
局田(ツボネダ)様は納得できない様子だったが、
「局(ツボネ)ちゃんが、そこの小窓からマスターを隠し撮りしようとしたら、突然コウモリの軍団が現れて……」
「あー! 小文ちゃん! それは"しーっ!"(秘密)」
その理由は明らかだった。
彼が少し困った顔をして、局田(ツボネダ)様を見つめていた。
局田(ツボネダ)様は正直に白状した。
「いつもは、そこの窓からマスターをただ見るだけよ。それで満足しているの。でも、お盆でしばらくお店がお休みになるから……その間、マスターの顔を拝めないと思うと耐えられそうになくて……つい、出来心で……ごめんなさい」
彼は言った。
「お盆明けまでに新しいメニューを考えておきますね」
「マスター……!」
局田(ツボネダ)様と小文(コブン)様は、揃ってハンカチを目に当てた。
「さて、そろそろお会計……」
"香水のおじさま"が財布を出した。
お連れの女性が「私、もう少しここに居ます」と言って、そっぽを向いた。
"香水のおじさま"は少しイラッとした様子で、
「ホテルを予約してあるから、そっちで飲めばいいじゃないか」
と、強引に女性を連れ出そうとしていた。
私は彼と目を合わせた。
彼が小さく頷いた。
私は、"香水のおじさま"と、その女性の間に入って言った。
「プラス1,980円で、ハイボールを飲み放題。おつまみも付きます」
「えー! 安いー!」
女性は、目を輝かせていた。
"香水のおじさま"も財布をしまって、「確かに安い」と言った。
「僕もそれ、お願い!」
反町(ソリマチ)様がすぐに反応した。
「Non sono italiane queste olive?」
おつまみとして出しているオリーブの塩漬けを食べたイタリア人のお父様が言った。
「Sì, è così. Come hai fatto a capirlo?」
彼が少し驚いているようだ。
私は彼の側へ行き、どうしたのかと訊ねた。
「このオリーブが、イタリア産だって見抜かれたよ」
「How do you know this is from Italy?」
私は疑問を投げた。
「Italian olives are plump and rich in taste」
イタリア人のお父様が答えた。
そして、イタリア語でゆっくりと言った。
「"今日は深く感動しました。ダニーから日本では、すっぽんが食べられると聞いて、好奇心から来ました。しかし、イタリアでは、このような繊細な風味を体験することはできません"」
続けて、
「"私はノンバイナリーをコンセプトにしたファッションブランドのデザイナーです。実は...…"」
突然、ダニー様が彼に熱弁し始めた。
「Master! 自分は、この店を気に入りまぁしたぁ! だからぁ、自分にぃこの店の制服を作らせてぇくださぁい!!」
レコードが止まった。
私がレコードを裏返そうとプレイヤーに手を伸ばした時、"香水のおじさま"が言った。
「あのピアノを弾いてもいいかな?」
「え?」
私が返事をする前に"香水のおじさま"は、ピアノの前に座っていた。
「このピアノは、よく調律されてるね」
"おじさま"の指が滑らかに、まるで音が流れるようにピアノを弾いた。
その音色を聴くため、みんなのお喋りが止まった。
"ジャッジャッジャジャジャッ!"
思わず踊り出したくなるようなジャジーな曲が終わると、みんなが拍手した。
その拍手が鳴り止む前に次の曲が始まった。
今度は、"歌謡曲"のようだ。
渋くて品のある大人の声で歌い出した。スケベ心が見え見えだった"おじさま"とは、まるで別人だ。
「あ、この曲……」
局田(ツボネダ)様は聴いたことがあるようだ。
男に捨てられた女心を歌った曲だった。
"あんたに涙を見せてあげない♪ 私を振ったこと後悔すればいいわ♪"
"おじさま"のお連れの女性もこれには流石に見直したようで、ピアノと歌声に聴き入っていた。
"タンッタカタカタンッ!"
一瞬の沈黙の後、再び拍手が上がった。
局田(ツボネダ)様が、
「あの、あの、今の曲って、柴咲園太郎(シバサキ ソノタロウ)さんのGOODBYE MY LOVEじゃないですか?」
"おじさま"が、言った。
「君まだ若いのに、この曲を知っているのかい?」
「母が若い頃に柴咲園太郎(シバサキ ソノタロウ)というアイドルの追っかけをしていたんです。私が子供の頃に、よくこの曲を母が口ずさんでいました」
「是非、君のお母さんとお会いしたい」
「……まさか」
局田(ツボネダ)様の直感が、店内の全員へ伝わった。
"おじさま"は、頷いて言った。
「私が柴咲園太郎(シバサキ ソノタロウ)だよ」
それを聞くなり、みんなが自分のスマートフォンやタブレットで検索し始めた。
若かりし頃の柴咲園太郎(シバサキソノタロウ)を見て思わず、「イ・ケ・メ・ン」という言葉が漏れた。
「あの、あの、今度、母をこの店に連れて来ます」
「ああ。そうしたら、僕もその日にまたここへ来よう」
「僕もその日にまたここへ来たい!」
反町(ソリマチ)様も柴咲(シバサキ)様のファンになってしまったようだ。
皆が盛り上がる中、"カランコロン"と扉が鳴った。
本日、最後のお客様だ。
「いらっしゃいませ」
私は、最後にひとつ空いている席をご案内した。
「マスター、久しぶり」
そのお客様は、彼と同じくらいの年齢に見えた。
知り合いのようだけど、彼は頭の中の記憶を探っているようだ。
「俺のこと、分からない? 水族館に一度、来てくれたじゃん」
その言葉で、彼は何かを思い出したようだ。
「あ! もしや深海に住んでいた"ダイオウグソクムシ"さんですか?」
……深海?
…………グソクムシ?
「いや俺、実は宇宙人なんすよ。俺、婚約者から逃げる為に深海のダイオウグソクムシに転生したら、人間に捕まっちゃって、水族館で10年……」
お客様は真顔で言うが、他のお客様たちは、みんなそれを聞いて笑っていた。
結局、閉店時間になるまでみんな、食べたり、飲んだり、喋ったりしていた。
今日、この日しか揃わないメンバーで、ただ、この時間を共に楽しんだ。
「ありがとうございました」
店から出たお客様たちは、また日常に帰っていく。
私たちは、お客様の背中が見えなくなるまで見送った。
「お疲れ様」
そう言って、彼が私の頭を"ポンポン"と優しく撫でた。
私は、彼に抱きついた。すると、少し疲れが和らいだ。
実は、もっと疲れが和らぐ方法を私は知っている。
彼の目を見つめて、それを催促した。
彼の唇が私の唇に触れた瞬間、
キッキッ! と、慌てた様子でコウモリが現れた。
キキッキッキッキッー!
私は、コウモリの言葉は分からないけれど、「少しも油断できない!」と怒られている気がした。
「日が出る前に片付けよう」
私達は手を繋いで、再び店の中へ戻った。
END
