杣江市綺録【第053篇】火吹男|特記観察対象照会簿:File 17
火吹男
— 文郷地区で噂化した火気異常対象

基本情報
氏名:不詳(通称:火吹男)
分類:対応注意
確認日:1987年11月18日
生年・年齢:不詳
居住:不詳
立場・所属:不詳
観察概要
杣江市文郷地区で、1980年代後半に噂化した
男性様対象。
文郷各所の灰皿置き場に現れるとされ、
文化施設裏手、商店裏、通用口脇など、
当時灰皿や吸殻入れが置かれていた場所での
目撃が多い。
地元では「火を噴く男」として語られていた。
ただし記録上は、対象が大きな炎を吐く場面
よりも、対象周辺で火気の発生順序が乱れる
事例として残っている。
火元が確認できないまま煙草や吸い殻が再燃する、呼気に煙が混じる、近距離にいた者が喉の熱感を訴える、といった証言がある。
対象は多くの場合、暗色のコートを着た中年男性様として語られる。
古い背広または作業着風の上着を着ていたとされ、特異な装備や明確な仮装は確認されていない。
ただし、目元と口元が暗く落ち込み、吐息の周囲だけが火色に見えた、という証言が複数残る。
発話例は少なく、接触、追跡、明確な攻撃行動は
いずれも確認されていない。
照合事項
火吹男に関する噂は、昭和六十二年前後の文郷地区で集中した。
同時期、文郷地区では小規模なボヤ騒ぎや、
原因不明の焦げ跡に関する記録が複数残っている。
消防記録上、それらを火吹男に直接結びつける根拠は確認されていない。
一方で、当時の地域内では、灰皿内部の異常焦げ、吸い殻の再燃、壁面のすす状付着、喉の熱感などが、火吹男の噂と結びつけて語られていた。
当時の記録には、鳴渡郡方違講による処理記述が
残る。
この団体は、現在の杣江市成立以前、旧鳴渡郡域で方除け、火難除け、辻・橋・井戸まわりの障りを扱っていた陰陽道系の民間組織である。
火吹男については、昭和六十二年十一月付の控えに「文郷裏火気男 一名 封済」とする記述が確認
されている。

ただし、「封済」が具体的に何を指すのかは不明で
ある。
控えには処理内容の詳細が残っておらず、
対象が捕縛されたのか、火気のみが封じられた
のか、現場そのものが処理されたのかは判然と
しない。
少なくとも同記述以後、文郷地区での火吹男目撃は急減している。
後年、灰皿が撤去された跡地で、短時間だけ焦げ
臭さが戻る、古い吸い殻が内側から黒く崩れる、
雨の夜に壁際がわずかに温かい、という報告が
散発している。
これらを火吹男の残留現象と断定する材料は不足
するが、灰皿置き場、火気異常、呼気様の熱感と
いう組み合わせは当時の記録と一致する。
所見
火吹男を通常の放火者として見ると、記録の中心がずれる。
噂では「火を噴く男」と呼ばれているが、照合される事例の多くは、火炎の直接噴出ではなく、対象
周辺で発生する小規模な火気異常である。
対象が火を起こしたのか、対象の周囲で火の順序が崩れたのかは確定しない。
ただ、火元不明の着火、吸い殻の再燃、呼気周辺の火色、喉の熱感といった記録は、通常の喫煙行為
だけでは処理しにくい。
一方で、火災や重度火傷へ発展した確実な記録は
乏しいため、現段階では対応注意に留める。
鳴渡郡方違講の「封済」記述により、昭和六十二年時点で一度処理対象化されたことはほぼ確実と
みられる。
ただし、処理内容が不明である以上、対象が完全に消滅したとは判断できない。
現在は、文郷地区で噂化し、鳴渡郡方違講により
封済とされた火気異常対象として保持する。
以後は、文郷地区における灰皿跡地の焦げ臭さ、吸い殻の再燃、口元または呼気に関する火気証言を
優先照合事項とする。
#杣江市 #杣江市綺録 #特記観察対象照会簿 #人物記録 #火吹男 #文郷 #灰皿置き場 #鳴渡郡方違講 #都市伝説 #怪人 #創作 #創作設定 #架空都市 #モキュメンタリー #創作大賞2026 #ホラー小説部門
