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10代の頃、横展開された先で見た悲しい現実〜他人の大きな成功より、地元の小さな成果が地域を変えるということ

林芳正総務大臣が9月5日、鹿児島市での講演で、地方創生についてこう述べたと報じられています。これまでの地方創生では成功事例の横展開が重視されてきたが、同じ取り組みを別の地域で行ってもうまくいくとは限らない。地域ごとに異なる魅力や資源を活かし、それぞれの地域に合った取り組みを進めることが重要だ、と。

言っていること自体に文句はありませんし、むしろ正しいのですが、この認識には30年ほどの遅れがあります。しかも同じ講演のなかで、長野県の酒蔵を使った体験型観光や、徳島県上勝町の葉っぱビジネスが事例として紹介されたと伝えられていて、横展開はうまくいかないと言いながら、事例カタログのページはめくり続けているわけです。

そもそも、なぜ役所はここまで横展開という型に執着してきたのか。答えは身も蓋もありません。自分たちで成果を上げるケースを一度も作ったことがなく、作れないからです。誰かが自分の地域で試行錯誤し、小さな成果を少しずつ育てて形にしたものを、後から「成功事例」と名付けて持ってきて、予算をつけ、他の地域に同じことをやらせる。この型なら、自分は何も生み出さずに政策を回せます。

これは二重に失礼な設計です。成果を出した地域に対しては「あなたたちのやったことは、お金さえつければ他所でもできますよ」と言っているに等しく、これから挑む地域に対しては「あなたたちの地域のことはよくわからないけれど、お金は配るから他所で成果が出ていることを真似してください」と言っている。どちらの側にも敬意がない。

そして私は、その真似をさせられた側の商店街を、10代のうちに自分の足で見て回っています。私が見た当時、そこはすでに立ち行かなくなっていました。

補助金で真似た商店街は、機械も人も清掃も外注して何一つ自分でやっていなかった

先に自分の立場を明かしておきます。私は成功事例として取り上げられ続けてきた側の人間です。高校1年から関わった早稲田大学周辺の商店会では、1996年から空き店舗を使って空き缶やペットボトルの回収機を置き、持ち込んだ人にクーポンを出して店に戻ってきてもらう仕組みをやっていました。エコステーションです。サービス券の来店換金率は4割から9割にもなったと、建設コンサルタンツ協会の機関誌(2008年)にも記録が残っています。とうか、そもそもとして1996年から始まった取り組みで、1998年に私が関わったあたりから全国展開をしていっていますから、そういう意味では様々な事例集に多様に掲載され、ニュース新聞などでも取り上げられていました。その後にこの取り組みは経済産業省・中小企業庁の「がんばる商店街77選」にも選ばれましたが、それはもうかなりあとの話で、どれだけ成功事例なるものを使い回すか、もわかるかと思います。

https://www.chusho.meti.go.jp/shogyo/shogyo/shoutengai77sen/idea/3kantou/2_kantou_13.html

国が良い取り組みを世の中に見せること自体を、私は否定しません。知られなければ始まらないのも事実です。問題は次の段階で、これが成功事例だということで、全国に横展開するための補助金がついた。制度名も年度も金額も、私の手元に資料が残っているわけではありません。ただ、その補助金で真似をした地域を自分の足で見て回ったのは事実です。

その頃、私は高校3年から大学にかけて、全国の商店街を巡る行脚をしていました。そこで見た光景がひどかった。

お金があるから機械を買ってくる。お金があるから人を雇う。お金があるから清掃も外注し、クーポンの中身もコンサルに払って作らせる。何ひとつ自分たちの手でやっていないのです。街のなかで揉めながら、怒られながら、少しずつ形にしていった部分が、全部お金で置き換えられている。しかも当人たちは、成果が出ないという愚痴を言っている。

九州のある商店街に行ったときは、もっと分かりやすかった。補助金で買った回収機が、借りた場所に置きっぱなしになっていて、動いていたのはテープカットの日だけ、掃除もされていない。私は滞在していた1週間、毎日そこを掃除して回りました。18歳の学生が、他所の街の機械を毎日拭いていたわけです。

オープンしたままホコリをかぶっていたのに驚いた…しょせん他地域の事例を金の力で真似てもなんの意味もないことがわかった。愛がない。2001年8月著者撮影

このとき腹に落ちたことがあります。横展開の補助金は地元の人を堕落させ、向き合うべきものと向き合わせない。しかもそれを、国が助長している。成果が出ているものを、お金の力だけでそのまま真似できるはずがなく、然るべき努力を経ずに手に入るものなど何もない。この確信は、10代のときの実感です。

先進事例の多くは稼ぐと決めた後に制度が追いついただけである


では、上勝町の葉っぱビジネスはどうだったのか。

きっかけは1981年の異常寒波で、主力のみかんが出荷できなくなったことです。当時、農協の営農指導員だった横石知二さんが、1986年に料理に添える葉を商品にすることを思いつく。そこからが長い。自費で京都や大阪の料亭に通い続け、どんな葉が、どんな形で、どういうときに求められるのかを自分の目で調べています。誰かの事例集を見て始めたのではなく、自分で市場を探しに行った。

法人化して株式会社いろどりになったのは1999年で、発案から13年経っています。上勝町などが出資する第三セクターですから、公金は関わっている。ですから私は「補助金と無縁だから偉い」という言い方はしません。順序の問題です。稼がなければこの地域はもたない、という危機感が先にあって、その積み上げの結果を制度が後から追認した。2008年度の売上高は4,927万円、経常利益936万円で、葉類事業全体では年間2億6,000万円の規模になっています。

横石さんとは会議でご一緒したりすることもあったり、NHKの特集番組で葉っぱビジネスの特集から20年という記念番組でコメンテーターをさせていただいたこともありました。残念ながらお亡くなりになられていますが、今も上勝町の稼ぐ事業として引き続き多くの人達の生計の糧となっている、素晴らしい取り組みです。

岩手県紫波町のオガールプロジェクトも同じです。紫波中央駅前の町有地10.7ヘクタールを対象とした公民連携によるまちづくりで、町の取り組みそのものは平成19年、2007年から始まっています。よく起点として語られる2009年は、オガール紫波株式会社が設立された年です。岡崎さんが最初に置いた前提は、補助金で過分なハコを建てて後で維持費に潰れる街をさんざん見てきた、という現実認識でした。だから先に稼ぐ設計を組み、そこに公共機能と連携する公民連携事業を形にした。カタログを見て制度に呼ばれた側とは、組み立てが逆なのです。

https://www.mlit.go.jp/common/001119423.pdf

第三セクターだから駄目だ、という話ではないのです。ちゃんと売上を立て、利益を出し、税金を納める第三セクターであればいい。最初から稼ぐ気がなく、補助金をもらえるネタを探しているのなら、組織の形が何であろうと結果は同じで、推進する側の問題意識が間違っていれば、絶対にうまくいきません。

この表を見ればわかりますが、違いは能力ではなく順序です。

そもそも稼ぐと決めてから地元で取り組みを積み上げ、結果として成果が出る。それを何も関係なかった政府機関が後追いで「成功事例」と位置づけ、補助金つけて横展開するためのネタに使うのです。そもそも違うのですよ。最初から。

横展開で確実に得をするのは、地域ではなく予算とコンサルの側である

ではなぜ、これほど成功事例の横展開って何十年もやって山程失敗が積み上がっているのに、この政策の型だけは生き延びるのか。得をしている人がいるからです。

まず予算をつける側にとって、横展開は便利な道具です。この成功事例を全国に広げますから予算をください、と財務省と交渉できますし、国会で政策の意義を問われたときにも、こうして成功している地域がありますと説明できる。が、先に解説したようにその地域はその制度のおかげで成功したわけではないのに、制度の成果として語られてしまう。手柄の付け替えです。

次にコンサルです。私が見聞きした範囲では、役所と紐づいた総研系の会社が横展開の支援業務を受け、地方には補助金申請の代筆を仕事にしている名ばかりのコンサル(なんちゃらアドバイザーとしての仕事ばかりしている)が山ほどいて、しかもそのなかには元役人とかも少なくない。自分では汗をかかずに、他所の事例を横流しして、補助金の一部を手数料として受け取っていく。○○アドバイザーという肩書きで派遣されるのも同じ構図です。

事例集そのものにも同じ問題があります。がんばる商店街も、最近の新しい呼び名の事例集も、要は役所にとって都合のいいカタログです。自力で稼いで誰の世話にもなっていない取り組みは、地方局の情報網には引っかかりません。だから毎回、同じ顔ぶれが市長や大臣のところに上がっていく。

正直、2026年になっても総務大臣が上勝町の話をしているのは、申し訳ないですが情報が古すぎるからです。総務省としてはソーシャルビジネスという文脈で過去に大型予算で上勝町に全国にソーシャルビジネスを広げてもらおうと予算を渡したこともありましたからね。だから紹介されるのでしょうが、それは全くうまくいっていません。それは上勝町が悪いのてはなく、そもそも成果をあげていない成功事例の横展開を現場の人たちを使って手抜きでやろうとした役所側の問題です。

そのうえ、政策として支援したがここが間違っていた、という失敗の反省が載っている事例集を、私は見たことがありません。反省が載らない事例集に、事例集としての価値はありません。うちが失敗事例を集めた「墓標シリーズ」を出したときに話題になったのは、それだけ失敗というものを世の中に具体的に出さず、なかったものとして葬り去るからです。

リスクを負っているのは、事例にされた地域と、補助金を受けた地域だけです。前者は視察対応で消耗し、後者には撤退できない設備と失われた10年が残るのに、予算をつけた側とコンサルには、何も残らない代わりに何も失われません。ここが構造の急所です。

そして真似をさせられた地域では、その間に人が10歳20歳と年をとっていきます。体力もお金もなくなって、いまさら補助金を配られたところで横展開すらできない有様になった。これは大いに反省したほうがいい。

他所の大きな成功より、地元で汗をかく一人

自分の町に横展開型の補助金メニューが降ってきたら、どうするか。

まず、悪習をやめることです。補助金があるからやるのか。補助金がつくから他所の成功事例に付き合うのか。10年20年、そのルーティンを繰り返してきた地域なら、最初にやるべきはデトックスです。カタログを見て、似た取り組みを選んで、申請書を書いてもらう。この一連の動きを一度止めないと、次の企画も同じ形になります。

そのうえで、自分たちで小さく試す。今はネットがありますから、成果を出している地域の人と直接つながればよく、聞けばいろいろ教えてくれますし、そのまま連携事業になることもあります。あいだに補助金と代筆屋を挟む必要はどこにもない。

もうひとつ。地元で汗をかいて、小さくとも成果を出している人を大切にしてください。多くの地域で、これができていません。地元の誰かを表に出すと、あの人だけ贔屓するのかと内輪で揉めるので、安全な外の大きな事例を持ってきて、国が言っている先進事例の人を招いて講演会をやってわかった気になって補助金活用する。このルーティンとも言える癖こそが、地域の芽を毎回摘んでいます。

そもそも補助金がもらえるから、という理由から入って成功した事例を、私は一度も見たことがありません。逆に、自分たちの課題と資源に向き合って動き始めた結果、途中で補助金も使った、という例ならいくらでもあります。順番が違うだけで、結果はまるで変わる。

ということで、他人の大きな成功より、地元の小さな成果です。横展開の話が降ってきたら、まず断る勇気を持ってください。そして明日、自分の町で一番地味に頑張っている人にまずはフォーカスしてください。

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