『正欲』(朝井リョウ)
【Facebook】2025年5月12日

「フロイトの混沌を、アドラーで突き抜ける」
この問題作を読まれた方でも、私のこの読後感は「意味わかんねぇ」だろう。本書には、フロイトの「フ」の字もアドラーの「ア」の字も出てこない。
過去、私もマーケティング・リサーチの仕事で携わったことのあるLGBTQ。
そんな行政や広告代理店の人間たちが、したり顔で使っているチャラチャラした表層的な概念ではなく、本能が壊れた唯一の動物である人間ならではの苦悩を、素手で抉りながら摘出している本書。
これこそ、文学が文学たる所以だ。
そして、この問題作はバッドエンドだ。
ささやかな望みが悲劇的に引き裂かれてしまう〝仕組み〟は、とても現実的な「ある!ある!」。
それもこの作家の力量だろう。
NHK教育テレビ(当時)「中学生日記」の、問題が解決されることなく、視聴者に「君はどう考えるのか?」と提起して終わる、後味の悪さを思い出してしまった。
それでも、登場人物の一人が絞り出した言葉に、かすかな希望を見出すことができる。
フロイトを想起せざるを得ない〝混沌〟の中、被害者意識の〝沼〟から這い上がることができそう、というか、とりあえずはそれ以外、考えられない。読後の私が想起したのがアドラーだ。
「あなたが私を嫌っているのは、私の問題ではなく、あなたの問題だ。だから私には関係ない。以上」
「そんな単純な問題ではないだろう?」という声が聞こえてきそうだ。
「いや、単純なことしかできないよ、僕達は」と私は答える。
