5,Chapter Five: RED(前半) ── そして、「その」向こう側へ しゅかの物語
【導入】
ここで話すこのchapterの内容はわたしの大きなターニングポイントになった話なのである。
いい意味でも
逆の意味でも。
11月~12月を書いているこの章は、純白の雪の中なのにわたしたちが向かう先は決して「純白」ではなかったと言える。
この章は一番ドラマチックかもしれない。
ーーーーーーーーーーこれは、わたしと彼の本当の恋が始まる「少し前」の話。
あるいは、わたしと彼の本当の恋が始まった「あと」の話。ーーーーーーー
以下、しゅかの物語 Chapter Fiveです。
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11月になった。
わたしたちの暮らす地域は雪が多い。うんざりする季節でもある。
女友達との間で「例の彼とはクリスマスどうするの?」
月一で集まっては女友達と色々な話を繰り広げていた。女友達にしかわからない女の感情があるのだ。
それはどんな男友達に話しても昇華されないものなのである。
クリスマスか…
一緒に過ごしたいけどわたしに求める権利はあるのか迷った。
でも頭で考えても仕方ない。
わたしと彼は看護師でシフト制で夜勤もある職業だから、シフトの希望を出さなければその日を一緒に過ごすことはできないのである。
だからこそそれが一緒に過ごしたい気持ちを伝える勇気に変わった。
「ねー、来月のクリスマス、夜勤明けか休みにしておいてね。そうしないと大変なことが起きるよ」
そう少し笑いにかえたようなメールを送った。クリスマスという文章を打つときはわたしの鼓動は多分速くなっていた。
すぐに彼から「はいよー」と返信がきた。
意外とあっさりな回答にわたしはびっくりして拍子抜けしたのだった。
彼は赤い色がとにかくよく似合う。
その冬はパタゴニアの真っ赤なアウターを着ていた。わたしはそれが好きで時々ちゃっかり着ていた。
彼氏に借りた感じのアウターをきることが、その時の最上級の彼女感だったのである。
わたしには赤いパタゴニアのアウターは似合っていたのかはまた別の話。
シフトのほうはというと、
12月24日はわたしが夜勤明けで、25日は休み希望を出していた。
見事、それは通ったのだった。
クリスマスは、どうしても彼と過ごしたかったからだ。
……そう、できることなら、ゆっくりと。
だけど、彼のシフトは逆だった。
24日は休みで、25日は仕事だったのだ。
あれ?と思った。
本当にゆっくり過ごしたいなら、25日も休みにしておくはずじゃないのか。
でも、その理由を、わたしは聞けなかった。
怖かったのだ。
どうして?と聞いてショックな回答来ることが本当に怖かった。
そう思うと、言葉が喉の奥で止まってしまったのだった。
そしてもうひとつ、悩みの種があった。
それは、プレゼント問題。
わたしは、欲しくないプレゼントをもらうのが苦手というか、そうはなりたくない。
嬉しいふりをしながら、本音では戸惑ってしまうからだ。
だから、いつもは欲しいものを先に伝えておくことが常である。
けれど、今回は少しちがった。
わたしのほうが、彼に贈りたいものがあったのだった。
どうしても、それを渡したかったのだ。
理由は、はっきりしていた。
彼が今使っている財布――それは、モトカノが贈ったものだったからだ。
「物に罪はないでしょう?」と彼は言う。
たしかに、そうなのかもしれない。
けれど、そんなふうに割り切れない気持ちが、わたしのなかにはあったのだった。
なぜなら、モトカノのことを、わたしは知っていたからだ。その逆もあり、モトカノもわたしのことを認識していたのである。
全部、知っていた。
理由は、わたしと同じ病院で働く一つ年上の看護師だったからである。
そして、彼とわたしが関係を持っていることも、もう知っていた。
わたしはどちらかといえば目立つ存在。日勤終わりに仕事仲間とモンハンをしたり、仕事以外でもあれこれと活動をしていたから、それはそれは目立つ存在だったと思う。
モトカノは明らかにあまり目立たない存在。対照的なのだ。
ある日すれ違ったとき、モトカノはわたしに向けて、明らかな違和感を感じる視線を向けてきた。
はっきりとした敵意を、視線の中に宿していたのだった。
そのことがあってから、
彼の使うその財布を見るたび、わたしの心はざわつくようになった。
モトカノも、きっと彼に触れたのだろう。
その手で。
その指で。
その目で。
わたしが今、触れているこの手と、
おそらく同じ場所に、
おそらく同じようなやさしさで。
彼の少年のような笑顔をみて
伏し目がちな顔にときめいて、
その温度に安心したことがあったのだろう。
そう思うと、どうしようもなく苦しくなったのだった。
わたしは、耐えられなかった。
彼が何も気づかずにしていること、
それがわたしには残酷な仕打ちに感じられた。
無意識に傷つけられているようで、それが耐えられなかったのだった。
だから、わたしがわたし自身でプレゼントを選びたかったのである。
わたしがわたしで選ぶ。
財布は彼の一部ではなくわたしにとっての全部なのだ。
わたしの色で、
そっと、彼の記憶を「わたし色」に塗り替えたかったのだった。
わたしにも、明確にほしいものがあった。
モトカノは彼からネックレスをプレゼントされていた。
わたしは今まで彼からアクセサリーをもらったことはない。
それはそうだ。正式に彼女ではないのだから…
そこは冷静にきちんと理解していた。
でも、思い切って、とある朝に彼にテキストで伝えた。
「クリスマス一緒に過ごせるなんてうれしい!
わたしね、ネックレスがほしいの。特別なものをあなたからプレゼントしてほしい」
とストレートに。
こういう場合、彼はうまくスルーするところがある。わたしの中での賭けでもあったかもしれない。
でも踏み出さなければ変わらない。
自分の行動力には時々びっくりすることがある。
だって、何の関係にもなっていないときの片思いの相手に、下着をプレゼントするなんてなかなかないことしてしまうから。(chapter1参照)
するとすぐに返信がきた。
「ネックレスね。わかったよ♡かんがえておくからね」と。
このときの彼はお酒も飲んでいない完全のシラフで♡がついていたことにびっくりした。
ん?何かがいつもと違う。
と思った後にわたしはこの人の一部ではなく全部に近づいたような気がして、頬に温かいものが流れていったことをわたしは一生忘れはしないだろう。
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Chapter Five: RED 後半へ続く。
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