【2026年最新版】JRE POINT使って東京の速度から降りる、新潟・直江津の旅。

JR東日本が提供するJRE POINTをご存知だろうか。
ざっくり言うとSuicaでJR東日本管内の鉄道利用や周辺施設で買い物をするとポイントが貯まると言うものである。コロナ禍も過ぎ去り、都心回帰が叫ばれ、軒並み出社に切り替える会社も増えてきた昨今。都心へ通勤する際にSuicaを用いてあらゆる決済をするとイヤでもポイントが貯まる。この貯まったポイントを放置している人も多いだろうが、実はいろんなものに還元することが出来る。例えばポイントをSuicaにチャージして鉄道利用することが出来たり、駅ビルの会計でポイント利用することも出来る。
そして、えきねっと経由でポイントを活用して新幹線・特急列車に乗ることも出来るのだ。今回は貯まりに貯まったポイントを活用して旅に出ることとした。その模様を旅行記としてまとめてみた。
※本記事ではアフィリエイトが含まれます。
ポイントは旅に使うべし。

仕事がうまくいかない。
後輩も出来て、役割も増えて。
でも給与は上がらないし、日本経済全体を見渡しても一部業界が隆盛を極める一方で、多くの業界は企業や株主だけが潤っている状態が続いている。一介のサラリーマンには何ら恩恵を感じない日々に鬱屈していた。
ただ毎日通勤電車に脳死状態で揺られて、ブルートゥースのイヤホンが混線するほど人でごった返す駅で降りて仕事場に向かうサラリーマンに明るい未来は差し込んでこない。
しかし今日の私はご機嫌だ。
なぜなら明日から旅に出かけるからである。
ブルートゥースが繋がりにくい新宿駅だろうが、新橋駅だろうが関係ない。今日という灼熱の都心を耐え凌げば明日からは旅がある。
そういうわけで仕事を早々に切り上げ、夕食もそこそこに荷造りを始める。
必要最低限の荷物をカバンに押し込み、早めに床に就く。
子どもの頃から何一つ変わらないのは、旅の前日は寝付けないということだ。とはいえアラサーともなれば自分をコントロールすることは難しくない。お気に入りのラジオを流しながらウトウトし、あっという間に朝を迎えた。
目的地は直江津。
今回の旅は何せ出費が圧倒的に少ない。
回りすぎて干からびた回転寿司のネタのようにひたすらに家と職場を往復し続けたことで手に入れたポイントが2万ポイント以上ある。この日を待っていたのだ。まるで積立NISAのように。
えきねっとでポイントを効率良く使えて、かつ旅情を楽しめる場所を探し、今回は新潟県上越市直江津に決めた。いつも灰色に染まった東京湾ばかり見つめているので、しばし距離を置いて日本海の風に癒されたいと思い立ったのだ。東京に住んでいると日本海は果てしなく遠く感じる。それだけに日本海を摂取することで何か前向きになればいいと思ったのだ。さらに言えば直江津は幼い頃からの思い出の地でもある。海のない県で育った私にとって家族で行く海水浴といえば直江津だった。改めて大人になって見る直江津はどんなところなのか、Googleマップを開いてダーツの旅よろしくピンを刺した。
直江津に向かう一番いい方法は北陸新幹線で上越妙高駅まで乗り、そこからえちごトキめき鉄道という第三セクターが運営するローカル線に乗って行くというものだ。今回はポイント利用で東京から上越妙高まで予約した。指定席で片道8,000ポイント。なかなかに消費するが、仕方あるまい。どうせポイントは貯まる一方だし、恵比寿や吉祥寺のオシャレなアトレで買い物をするわけでもない。だったら行ってみたい場所に行ってみるのが幸せってもんだろう。
この日の東京は気温35度を超え、朝から蒸し風呂に入っているような暑さだった。沖縄よりもはるか東に位置しているのになぜこうも暑いのか。人が多いからか、ビルの影響か。そりゃ南極の氷も溶けますわな。詳しいことはわからないが、いつもは家と職場を往復するためだけに存在する鉄の塊に乗り込んで東京駅を目指す。
新幹線ってこんな快適だったっけ。

四方八方から人が押し寄せ、それぞれが日体大名物の集団行動みたく、目的のプラットフォームへと消えていく。私もその一部になり、出来る限り田舎育ちが目立たぬように22番線に降り立った。
北陸新幹線は実に久しぶりに乗車した。上越妙高には最速で金沢・敦賀方面に向かう「かがやき」は停車しないため、後続の「はくたか」に乗る。のっそりと動き出した新幹線は次の停車駅である上野駅に向けて都心の合間を縫うようにして進んでいく。「あれ、新幹線ってこんな快適だったっけ。」思わず口を突いて出た。いつも無機質な通勤電車にばかり揺られているもんだから、都心の絶え間ない喧騒をかき消していく新幹線の乗り心地に心を打たれた。これだからポイント使って旅するのは、いいよな。上野までの区間は新幹線といえどもスピードは遅い。ゆっくりと流れていく漫画喫茶やホテルの看板を横目に滑らかに、しかし着実に目的地に近づいていく。上野からもたくさんの人が乗ってきた。みんなこぞって山岳地帯に向かうのか、大きめのバックパックを背負っている。新幹線というのは実に路線ごと客層が色濃く反映されている。東海道新幹線ならばピシッと決めたスーツ姿の人、上越新幹線にはスキーを楽しみに分厚いウェアを羽織った人。そして北陸新幹線には登山客。すでに車内の時点で北アルプスにいるかのような清涼感を感じる(実際にはガンガンに空調が効いているのだが)。列車は上野を定刻通りに出発し、ゆるやかにスピードを上げつつ、さいたま新都心の高層ビル方向に向けて針路を取り、さいたまアリーナでアイドルのライブを心待ちにしている人たちの横を通り抜けて大宮駅に到着した。
「はくたか」は大宮を出ると、群馬県最大の商業都市である高崎に向けて新幹線らしくスピードをグイッと上げていく。ビルはどんどんなくなり、遠くに山が見え始め、いよいよ旅に出てきたことを感じさせる。東京駅からはまばらだった乗客も大宮で一気に乗り込んできて、いつの間にか満席に近い状況になった。
出発から1時間とちょっと。長野駅で多くの人が入れ替わり、都心から私の隣で仕事をしていた初老の男性も降りていった。「まもなく上越妙高」というアナウンスが響く。まだトンネルの中だったが、名前からしてすでに涼しい。ここまで最寄の駅から東京駅に向かうまでの電車代しか掛かっていない。本来ならば9,000円近く払うにも関わらず。どうやらサラリーマンも悪くないらしい、この一瞬においては。

プッシュー、という空気圧が抜ける音とともに扉が開く。東京の茹だるような暑さから一転、わかりやすいくらいに涼しさを感じる。目の前には青々とどこまでも続く田んぼが広がり、その中にアパホテルやスーパーホテルといった建物がポツンと立っている。九州新幹線の途中駅も同じような景色だが、辛うじて上越妙高の方が駅前に文明があるようだ。
トキめく、ローカル線に乗る。

上越妙高駅が開業したのは2015年。2026年で丸11年を迎えるこの駅は随所に新しさを感じる。バックパックを背負った人たちに紛れるようにして半袖短パンのアラサーも改札を抜ける。新幹線の停車と図ったようにえちごトキめき鉄道の車両も滑り込んできた。今どき珍しい有人改札で駅員に切符を渡し、押しボタンを押して中に入る。私の地元と同じような全席ロングシートの車内では部活帰りの生徒らしき人や英単語帳片手に音楽を聴く若者の姿が。みんないずれは東京に行ってしまうのだろうか。そんな余計な思いを胸にローカル線は終着・直江津に向けて巨体を揺らしながら走り出す。
えちごトキめき鉄道は新幹線の開業を機に、もともと信越本線だった区間を引き継いだローカル線で、地元ではトキ鉄の愛称で知られる。上越妙高駅から直江津駅までは15分ほどで到着する。ガタガタと線路を掴むようにしてゆっくりと田園地帯を切り拓いて海の待つ直江津駅に走っていく。
ローカル線といえど、走っているのは新潟県内第3の都市である上越市。そこそこの都市規模を持つため車内は意外にも混雑していた。終着の直江津駅が近づくと車両はゆるやかにスピードを落としながら右に傾いていく。15分だけでも都心では味わえないのんびりした空間を心に留める。そこそこのスピードで進入して急ブレーキをかけて止まる山手線とは違い、この街のルールに従って落ち着いて走っている。私の心も徐々に都心のスピードからこの地のスピードに順応していく気がした。
直行する価値のある駅そば。

旅には大きく分けて2つの方法がある。1つ目はGoogleマップや周囲の情報を基に「あらかじめ行くことを決めたところ」に行くこと。もう1つは自分の足で稼いだ新しい出会いに行くことだ。理想はその2つを柔軟に織り交ぜることだ。そういうわけで直江津の駅に到着してほぼ迷いなく「直江津庵」に入る。ここは駅前にドンと構えるホテルハイマートが運営する駅そば屋で、直江津名物のメギス天ぷらがのったメギス天そばを食すことが出来る。甘さとしょっぱさが絶妙に混ざり合ったダシに程よく浸かったメギス天が長旅を癒すと同時に直江津へようこそ、と歓迎しているような気がした。まあ完全に自分にとって都合よく解釈しているわけだが。今日くらいは鞭打って都心で日銭を稼ぐ自分を自分自身で褒め称えてもいいだろう。

その昔、直江津駅は新潟最初の鉄道駅として開業。北陸新幹線の延伸に伴い、鉄道の重心が上越妙高に移るまでの長い間、起点の駅として機能してきた歴史がある。駅前は港町そのもののような街並みが広がる。潮風に影響を受け、少し寂れた商店街や一昔前のレトロなホテル、商業施設。かつての繁栄を今に残す景色が広がる。そんな積み上げてきた歴史を感じながら食べるメギス天そばは値段以上に街の哀愁と甘さに奥行きを感じさせた。
今と昔をせめぎ合う街

直江津庵で新潟最初の食事を摂り、今日泊まるホテルまで歩いて向かう。今と昔。この街には今と昔の記憶がない混ぜになったような空気がある。少し歩いたところにあるセンターエルマールという商業施設にやってきた。ここは外観こそ古びたような印象を与えるが、中に入ると県内最大級の面積を誇る無印良品が入っている。1階フロアは地方都市にありがちな携帯ショップ、ブティック、待合室があるが、2階の無印フロアに上がると全くの別世界が広がる。

無印らしい引き算の美学が詰まったようなオシャレな空間に整然と商品が並ぶ。木の温もりを感じるレイアウトにスターバックスやカルディまで入っており、さながら代官山を思わせる。1階と2階でここまで景色が変わる商業施設もここくらいだろう。それくらい高低差がある。店内には地元の学校とコラボレーションした商品から、どこの店舗でも見かけるような商品まで一通り揃っている。一通りというか完璧に揃っている。私の愛する無印のカレーまで全種類コンプリートしているではないか。これだから街歩きは辞められない。偶発的な出会いこそが、古かった自分の認識を一気に現代へアップデートしてくれる。
ビジネスホテル籠城に備えよ。

私は過去にも数度記事にしているが、ビジネスホテル籠城生活を推奨している。特に暑い夏は空調の効いた部屋で過ごしながら地のモノをいただくのが至高だ。もちろん街中にある海鮮丼屋に行くこともいいが、今回は1人だ。ビジネスホテルでの生活を快適にするためには地元のスーパーに行き、地元の人と同じ食生活を堪能するのが礼儀ってもんだろう。センターエルマールからすぐ近くにあるスーパーイチコに向かう。イチコは上越・妙高エリアを中心に展開するローカルスーパーであり、直江津港や能生から運ばれてきた鮮度抜群の海鮮類が手に入る。
店内は普段まいばすけっとで買い物をしている私にとっては度肝を抜かれるほど広い。スペースにゆとりがあり、思う存分に商品を物色出来る。さすがは日本海に面した直江津。刺身パックのコーナーを見るだけでも他とは一線を画す品揃えだ。それと新潟はどこのスーパーに行ってもクジラの刺身が置いてある。新潟出身の友人によれば「昔からクジラ汁とか鯨食が盛んだったからね」と言っていた。少なくとも関東のスーパーではお目にかかれないような地のモノをたらふく購入して店を後にした。
ビジネスホテルで夢弾む。

今回宿泊したのは直江津駅から歩いて15分ほどの場所にあるホテルアルファーワン上越。トキ鉄の線路をこえたところにある。時刻は15時少しすぎ。都心ならばこの時間でもサウナか砂蒸し風呂状態だが、ここは日本海から吹き抜ける海風が心地よく頬を撫で、体温は下がるが幸福度は上がる。部屋に入り、空調の温度を設定し、正方形の小さな冷蔵庫のスイッチをオンにし、次々と戦利品を詰め込んでいく。
どれどれ、部屋を物色しようか。
1人の部屋なんざすぐに探索は終了するが、隅々まで目を見張る。
このホテルの開業はいつかわからないが、少し古いようで、アパホテルのような都心特化型のホテルとは違い、延長コードがないとベッド周りでスマホをいじることは難しそうだ。こんな時ですらスマホが手放せないのは、もはやスマホに人生の主導権を明け渡しているような気がして、スマホをベッドに投げた。

閉め切ったカーテンを捲ると、目の前にはトキ鉄と信越本線の線路が見える。この部屋は8階だから、よく見える。さっきまではセンターエルマールとイチコしか目に入らなかったのに、あんなところに公園があるのか。仕事も物事も鳥の目で俯瞰して見なさい、と上司に言われたことを思い出す。なるほど、確かにそうかもしれない。平行に歩いていたら公園で遊ぶ子供たちは見えなかっただろう。街の輪郭が徐々に見え始めた。
夕日を見に、海へ。
ホテルでテレビを点けてプロ野球中継を観ていたらあっという間に時刻は18時すぎ。調べてみると直江津は夕日が沈む街としても有名だそうだ。それなら見にいくしかない。何せずっとホテルに籠っていてすることもないのだから。お得意のGoogleマップで夕日が見えそうな場所をザッピングしていると、船見公園という場所が良さそうだとわかった。アルファーワンからは歩いて20分ほどか。歩いて行けるな。
再び靴を突っ掛けて外に出る。
相変わらず吹き付ける風が気持ちいい。
私は地方に出かけたとき、よく歩くようにしている。全国47都道府県に行くだけでもずいぶんと大変なことだが、自治体にまで広げると一生に一回しか行かない場所もたくさんある。そうした道を、景色を、匂いを、通り過ぎる普段見かけないナンバープレートの車に思いを馳せ、踏みしめながら歩いて行く。
線路を跨ぐ陸橋を過ぎて、10分ほど歩くと海が見え始める。左手には上越市水族館(うみがたり)があり、目の前には日本海と断崖絶壁が。この辺りは湘南の景色とも、東北のリアス式海岸とも違う、この地だけでしか見られないような断崖が広がっている。そう思いながら船見公園に向かって歩いて行くとあら不思議。断崖が消えて目の前に砂浜が広がっているではないか。いつか海と陸地を隔てる境界線が曖昧になったところで公園に着いた。時刻は18時50分。今日の日没は18時55分。もう間も無くすると淡い輪郭を描いた丸い太陽は海へと溶けていく。

船見公園のベンチに腰掛ける。遠くには直江津のLNG基地と火力発電所が見える。明滅する施設の明かりをしばし眺めて、改めて日の沈む方向へ目を移す。綺麗だ。本当に綺麗だ。太平洋は広過ぎて想像し得ないけれど、日本海はその先が見える。もちろん実際に肉眼で見えるわけじゃないけど、その先にも大陸が続いていると頭でわかっている。それだけに、その方向に消えていく太陽が、より実感を伴って迫ってくる。

いよいよ沈み始めた。先ほどまで青々と輝いていた海の顔つきが変わっていく。耳を澄ませば押し寄せては引いていく波音が聞こえる。夏場は穏やかでも、冬になるとその海は姿を変えて荒れ狂う。そんなことを微塵も感じさせないほどにゆったりとした時間が流れる。
何分ほどその場所にいただろうか。波音に耳を傾け、パレットにオレンジと青色を混ぜたような海を眺めていたら辺りは暗くなっていた。都心の疲れを、喧騒を、合わない上司とのやり取りを、後輩からの突き上げを波に流してもらったような気がした。さて、延々と続く街灯を頼りに街中へと戻るか。その足取りは来た時より幾分か軽くなった。
ローカルスーパーはやっぱり最強。

ホテルに戻り、冷やしておいたノンアルコールビールと寿司パックを手に取る。今日は新潟に到着してから直江津庵のそばしか食べていない。小1時間も散歩すれば自然に腹も空いてくる。キンキンに冷えたノンアルと寿司パックを多少常温に近づけるため、シャワーを浴びてリードタイムを作る。
シャワーで今日の汗と海風に晒された身体を洗い流し、ベストコンディションとなった寿司を食す。本マグロに白身魚、イカ、サーモン、生海老、ウニ、イクラ、つぶ貝という色鮮やかなラインナップが出迎える。直江津で製造された醤油をチョロチョロと寿司に掛けて食べる。本マグロの雑味のない脂と酢で締められたシャリとのバランスが絶妙だ。回転寿司や高級カウンター寿司に行かなくてもこれで十分ではないか。こんなに美味しい寿司パック、なかなか全国探しても見つからんだろう。こういう発見も気ままに旅したことで得られる産物だ。

ひとしきり寿司を楽しんだ後はイシナギの刺身を食べる。関東圏では聞き馴染みのない魚だが、ハタ科の一種でコリコリした食感が特徴だ。スーパーのポップには「一度でいいから塩で食べてください!」と書いてあった。こういう掘り出し物の刺身に出会うことは普段ほとんどない。それだけに期待値が高まっていたが、その期待値に十分耐え得る魚だった。コリコリしていながら余計な脂感はなく、すっきりとした後味が残る。塩が合うというのがよくわかる。鯛よりも淡白でありながらあっさりしている。思わずノンアルが進んでしまう。めっぽうアルコールに弱い下戸にもかかわらず、なぜか酒に合うツマミを探してしまうのは旅だからだろうか。うん、旅だからだろうな。いつもはすき家の牛丼だし、今日くらいは知らないものを食べよう。

ノンアルが足りない。
もう1本を冷蔵庫から取り出し、最後に生牡蠣をいただこうではないか。石川県産と書いてあり、2割引だった。今回の旅は本当にコストパフォーマンスに優れている。JRE POINTで新幹線代を賄い、徒歩でホテルに向かうことで健康増進とタクシー代を浮かせている。チームラボよりも綺麗な夕日に心打たれたが、なんと無料だ。そしてこの2割引の生牡蠣ときた。
付属されている塩ポン酢の袋を開けつつ、レモンを絞る。酸っぱさと牡蠣の深海まで続くような旨味が口に広がる。もう高級旅館じゃないか。高級旅館のビュッフェだろこれ。最高だ。
一通り食事を終え、満足した。
すべてスーパーで揃えたのに満足度が高い。
こんなにハイスペックなスーパーがある直江津はポテンシャルの塊でしかない。
帰りの新幹線を予約して床に就き、明日の旅程をざっくりと描く。
贔屓の球団は大量得点のリードを活かせず危うく負けかけたが、なんとかピンチを凌いで1点差で勝ったらしい。今日は何の迷いも、一点の曇りさえなくどっぷり寝られる。
最高の寝覚め、ガツンと生姜醤油。

翌日、朝10時のチェックアウトに合わせてギリギリで外を出る。気温は徐々に上がっているとはいえ、やはり東京の朝10時とは全く暑さが違う。すぐにでも室内に避難したくなるような蒸し暑さは皆無で、ほのかに頬に吹き付ける風を感じながら今日朝一番の目的地へと向かう。せっかく新潟まで来たのなら、ローカルグルメも食っておくべきだと思ったのだ。だからホテルの朝食は付けなかった。これが大正解。アルファーワン近くの長岡生姜醤油ラーメン屋に行くことに。この地から長岡市までは信越本線で数時間離れた場所にあるが、距離は関係ない。同じ県内ならOKにしようではないか。今の私にはそれだけの大らかさを兼ね備えるほど人生にゆとりが生まれていた。
10時半の開店とともに次々と客が押し寄せ、ものの数分で満席となった。それだけ美味しいということだろう。
確かに初めて食べる生姜醤油ラーメンは衝撃だった。
スープを一口飲んでみると最初に生姜の清涼感が押し寄せ、続いて醤油のキレが鼻腔をくすぐる。そして最後に再び生姜の存在感がアクセントとなって消えていく。この立体的な味わいがクセになる。これはハマる。麺も中太でパッツンパッツンの噛みごたえがある。
わずか15分ほどで完食し、店を出る。2、3滴の汗が流れるが、胃もたれすることもなく、満足感だけが腹を満たした。
カーシェアという革命に身を委ねて。

ラーメンを食べた後は散歩して申し訳なさ程度に運動するべきだろうと判断し、最寄りのトキ鉄の駅まで歩くことにした。場所は直江津と隣の春日山のちょうど中間地点で、上越妙高に戻るなら春日山の方が近いということで春日山駅まで2キロ弱歩いた。道中はロードサイド型の店舗が広がり、トヨタや日産のディーラーで新型車を試乗する家族連れを見かけた。よくある景色だ。
春日山駅は戦国時代の名将・上杉謙信の居城として有名な春日山城跡の最寄りで、今でも多くの上杉ファンが訪れる。そんな歴史を今に受け継ぐ場所から再びえちごトキめき鉄道に乗車し、上越妙高駅を目指す。これで東京に帰るのか?一度は頭をもたげた無粋なアイデアを掻き消し、上越妙高駅前のタイムズでトヨタ・アクアのカーシェアを借りることにした。まだまだこの地を味わいたい。出来れば何かしらの外的要因が起こって新幹線が不通にならないだろうか。そうすればもう一泊この場所で過ごせるのにな。そんなうまい話はないんだけど。
カーシェアは非常に便利だ。上越ナンバーのアクアに乗り込み、速攻でカープレイに接続する。あっという間に室内に冷房が広がり、文明の利器を感じる。せっかく数時間借りたのだから、どこかへ行こうか。
そうだ、駅弁を調達しよう。

「そうだ、駅弁を調達しよう。」後から知ったことだが、この駅弁は上越妙高駅でも購入できるらしい。しかしそんなことは知らぬ私は直江津が誇る駅弁を求め、一路再び直江津に向かった。

直江津の駅弁といえば「鱈めし」だ。全国駅弁コンテストでも数々のグランプリを獲得している超人気の駅弁で、こちらも直江津庵と同じく駅前のホテルハイマートが運営している。ハイマート強し。ちなみにハイマートでは駅弁がセットについた宿泊プランまで用意されているので、気になっている人はぜひそちらも調べてみると良い。
鱈めしを購入し、帰りの新幹線で夜食として食べよう。
そう思いながら車に乗り込み、適当にドライブを再開する。目的地は特にない。どうせなら行ったことのない場所に行ってみよう。新幹線は20時すぎだし、6時間以上時間はある。
しばらく車の中でGoogleマップを見ながらあちらこちらとスクロールして場所を決める。
柏崎に行ってみよう。
よし、決めた。
柏崎市を目指そうではないか。
なぜなら柏崎は行ったことがないからだ。
誰かに今「柏崎には何がある?」と聞かれたら大変に困る。何の印象もない。強いて言えば柏崎刈羽原子力発電所だろう。災害が起こったときにニュースで原発の様子が映し出されるので、耳にしたことがある。
直江津から柏崎市までは下道で1時間ほど。道中は高低差が急に生まれるような急峻な海沿いを走る。実に楽しませてくれる道だ。思わずケツメイシの「夏の思い出」をApple Musicで聴きたくなり、セレクトした。太平洋のような照り付ける恋焦がれる暑さとは違い、穏やかに満ち引きを繰り返す日本海を眺めながらアクアは持ち前の高燃費を発揮しながら進んでいく。

朝飯にあれほどチャーシューがのった生姜醤油ラーメンを食べたというのに、運転していると小腹が空いてくる。身体は正直だ。柏崎市内のスーパーで「さわら炙り刺身」を購入する。日本海地物と書かれて仕舞えば買うしかないだろう。昆布締めされ、旨味が閉じ込められた炙り刺身は絶品だった。香ばしさの奥から脂の甘みが押し出される。これが600円台ですか。やってられませんな。思わず酒を煽りたくなるが、もちろん飲酒運転は出来ないし、どんなに威勢のいいことを言っても下戸だから。大人しく炭酸水で流し込んでいく。
それにしても柏崎市もなかなかの港町だ。街の観光案内をみると米山というシンボル的な名峰があり、地理をみると上越と長岡という都市の間に挟まれた街であることがよく分かる。滞在時間はわずかだったが、それでもこの街の一員としてスーパーに潜り込んで地のモノを食べられたのはいい思い出だ。これぞカーシェア。これぞ旅だ。頭の上に耳を付けて千葉のパークに行くだけが旅ではないのだ。
昼飯は、というか昼飯もやっぱりラーメン。

そろそろアクアの返却時間も近くなってきた。
何せここから上越妙高に戻るまでは1時間以上かかる。もたもたしていられない。徐々に都心の時間軸で針が動き出す自分に少し嫌気を感じる。
直江津に向けてケツメイシをリピートしながら走らせ、1時間。予想以上の混雑に巻き込まれながらも無事に戻ってきた。佐渡汽船の直江津フェリーターミナルを横目に見慣れた直江津の街並みが見える。そういえば3年ほど前に直江津から佐渡汽船のジェットフォイルに乗船して佐渡島に行ったな。その時は友人とイカ釣りするべく乗ったわけだが、その時もこの街で一晩世話になったことを思い出した。さらに時間を遡ると家族で直江津の海で海水浴をした。今でもあるようだが、当時は地元最有力紙の信濃毎日新聞が経営する海の家を根城にして泳いだものだ。そう考えると私にとって未到の地ではなく、それなりに長い間の記憶が刻まれた街でもある。
直江津の市街地で行ってみたかったラーメン屋に入る。「中華そば 亀屋」。ここの中華そばを食べたかったのだ。思い返せば朝も、昨日の夕方も麺類だ。美味しいものは脂肪と糖で出来ているとどこかの商品が声高にキャッチコピーを出していたが、まさしくそういうことだ。誘き寄せられるようにして亀屋に到着。
チャーシュー麺をオーダー。昼時はとっくに過ぎているのに広い店内には家族連れやカウンターで1人黙々とラーメンと格闘する人たちでごった返していた。私もその湯気と熱気が入り混じった空間でチャーシュー麺を食らいつく。箸で掴むとホロホロと溶けてしまうほど柔らかいチャーシューはもはや飲み物で、次々と口の中に運ばれては胃袋に吸い込まれていく。スープは透明感のある醤油という感じだが、飲むとあらゆる味わいが迫ってくる複雑でこだわりを感じる。もっちりとした食感の太麺はこれでもかと入っており、ボリューム満点。こちらも15分ほどで完食し、会計を済ませる。
ダメだ。良すぎる。良すぎるぜ、直江津。こんなにいい店があるなら住む価値は十分にある。不動産屋は亀屋があるから地価を上げるべきだろう。
終章:ポイントで旅は、一層の輝きを増す。
夕日が近づくにつれてどこまでも突き抜ける太平洋の景色とは打って変わって、どんよりとした日本海らしい天気になってきた。それがいいんじゃないか。ここに来てようやく日本海の街へやってきたことを本格的に実感させると同時に、間も無くこの旅が終わりを告げるような雰囲気を醸す。アクアを所定の場所に返す。「はぁ。」自分でも驚くほどにしっかりと明瞭にため息が漏れた。みんなでキャッキャしながら遊園地を目指す旅も、旅。そして1人でしんみりと過ごすのも、また旅。ブルーアワーを過ぎて本格的な闇がやってきた。まばらに人が新幹線のプラットフォームに立っている。彼らはスマホを見ているから下を向いているのか、明日からの仕事に対して下を向いているのか。そのどちらもあり得るような気がする。

20時12分。定刻通りに「はくたか」がやってきた。徐々にスピードを落として、1人も取り残さないぞ、と言わんばかりに強めに扉が開く。もちろん帰りもJRE POINTを活用する。普通の指定席では到底この余韻を処理し切れないと判断し、グリーン車に乗車する。北陸新幹線のグリーン車は東海道新幹線よりも余白がある。せっせとパソコンを開く人はおらず、皆がそれぞれ闇夜に溶けていく景色を窓から眺めている。
私も上越妙高から発車してしばらくは車窓から流れていく景色を眺めていたが、すぐにトンネルに入り、新潟県を超えて長野県に入ることがわかると、車窓から村上春樹の新作小説「夏帆」に体制を移してページを開く。久しぶりの村上春樹のハードカバーは持ち歩くには少し嵩張るが、そんなことはどうでも良くなるほどに面白い。同氏にとって初めて女性が主人公となる本作はグリーン車の静けさも相まってページを捲る手が止まらない。

さてと。ハイマートで購入した駅弁を食べようではないか。
新幹線は長野県最初の駅、飯山駅に停車して長野駅へ向かう途上だ。この先続々と人が乗ってくることを予想し、早めに食べておくことにする。
正方形の入れ物に入った弁当はまさに鱈づくしだ。どこまでも深淵に連れて行ってくれるような甘辛い棒鱈の煮付けに香ばしく炙られ、半生のたらこ。これじゃ、米が足りんよ。絶妙な塩気に包まれた弁当を平らげ、蓋をして再び村上春樹に浸る。なんと美しいリレーだろうか。どちらも高く評価されている。だからこそ美味しいし、面白いんだろう。

東京駅に到着すると、この新幹線は車庫に向かう。
疲れて寝てしまっている人たちを起こしながら車内を点検する駅員を横目に降りる。今日の東京は夜にゲリラ雷雨になる、と天気では言っていたが、どうやらそんな感じはしない。むしろここまで連日続いていた酷暑が酷暑がなりを顰めたように涼しい。
今回のJRE POINT旅をハイライトする。
ポイントを消費するために急遽旅に出たにしては完璧だったように思う。結局のところ、このポイントが貯まっていなければ直江津に行こうだなんて思わなかった。仙台や宇都宮といったわかりやすい都市に行っていたかもしれない。日々の通勤で得られた褒美を存分に享受したのだ。これはJR東日本に感謝すればいいのか、会社に感謝すればいいのか。きっとそのどちらにもだろう。おそらく会社で「この間は最高の旅をありがとうございました。」と言っても人事や総務は「は?」だろう。まあそんなことは自分の中だけで留めておくとして、私は日曜日の客とともに東海道線に乗り込んだ。いつもの通勤電車とは見せる顔が違って見えたのは偶然だろうか。
