ずんどこ家族旅行記2026〜②面倒くせえな!〜
今回の旅行で、ひとりの変なおじさんに出会った。
知らない中年男性を「変なおじさん」と呼ぶのは、失礼なことに違いない。
しかし、それ以外に彼を表すのにぴったりな言葉を私は知らない。
彼と最初に出会ったのは、大阪へ向かうフェリー乗り場の待合所だった。
彼は現れるなり、誰にというでもなく
「え?え?みんな何してるんですか?」
と大きな声で言った。
その場にいる全員が心の中でつっこんでいたことだろう。
乗船開始時間を待ってるに決まってんだろうが。
面倒くせえな。
誰も彼の質問には答えなかった。
彼は手当たり次第に周りの人に話しかけたあと、私の妻のすぐ横の席に腰掛けた。
待合所ガラガラだろうが。
面倒くせえな。
彼は新日本プロレスのライオンマークのTシャツを着ていた。
偏見であることを自覚した上で言うが、この類のTシャツを普段から着用している人物は要注意である。
科学的根拠はないが、私の統計上、かなりの高確率である。
フェリー乗船後、ロビーで酒を飲んでいたところ、彼が現れ、ふらふらとこちらに近づいてきた。
そして、「どこに行くんですか?」などと話しかけてきた。
普段だったら適当にあしらうところだが、ちょうど家族が部屋に引き上げてしまい、一人になったところだったので、暇つぶしに相手をしてみることにした。
どうやら彼の目的地も同じテーマパークらしい。
それが分かった途端、彼のボルテージは一気にレッドゾーンに突入する。
彼はそのテーマパークの攻略法を熱っぽく語り始めた。
聞いてもいないのに。
朝一はこのエリアが空いているので狙い目だ。
超人気エリアには夕方以降に入場した方が良い。
このショーがおすすめだ。
などなど。
彼の攻略法トークはとどまることを知らない。
聞いてもいないのに。
そして、彼はいつの間にか私の隣の席に腰掛けていた。
勝手に座ってんじゃねえよ。
面倒くせえな。
そんな彼の勢いを食い止めるべく、私は、トークのわずかな間隙を狙って言った。
「へー、詳しいんですね。よく行くんですか?」
すると、彼は
「3回目。」
と答えた。
同じじゃねえか。
面倒くせえな。
私たちの間に微妙な空気が流れ、会話が滞る。
このまま席を立ってしまってもよかったのだが、私も酔っていたのだろう。
継続だ…!
私は、彼が着ているTシャツに話を振ってみた。
「プロレス好きなんですか?」
すると、
「別に大阪にプロレスを見に行くわけじゃないですよ。今、やってないでしょ、大阪で。ジーワンクライマックス。」
答え聞かなくてもプロレス大好きだって分かったわ。
面倒くせえな。
さらに彼が持ち歩いているマグカップに目が止まった。
赤色ベースにMSN−04の文字。
サザビーかよ。
これもなんとなく答えは予想できたが、聞いてみた。
「ガンダム好きなんですか?」
すると、
「え?え?何で?あ、このマグカップ?
いや、今特設ショップやってるから、買って来たんですよ。別に好きなわけじゃないんですけど。」
いや、素直に好きだって言えや。
面倒くせえな。
それ以上話すこともなかったので、その日はそこでお開きとなった。
翌朝。午前4時30分。
私はいつものように早起きをして、ロビーでひとり、本を読んでいた。
すると、浴衣姿の彼が船内をウロウロしている姿が目に入った。
読書に集中したかったので、心の中で「来るな、来るな」と念じていたが、当然のように近づいて来た。
虫か、お前は。
そして彼は言った。
「寝れないんですか?」
お前だってワクワクして寝れねえんだろうが。
面倒くせえな。
私は文庫本に目を落としたまま言った。
「いつもこれくらいに起きてるんですよ。」
明確な拒絶の意思表示だ。
彼はさびしそうな顔をして去っていった。
しかし、その後もしばらくの間、船内をウロウロしていた。
話したがってんじゃねえよ。
面倒くせえな。
そして、思った。
まさか、目的地でも会うんじゃなかろうな、と。
結局私は目的地のテーマパーク内で彼と出会うことはなかった。
しかし、同行していた家族が、クッパのシャツを着て園内を歩いている彼を見かけたそうだ。
って、着替えてんじゃねえよ。
面倒くせえな。
旅行も終わりに近づいていた。
帰りのフェリーの待合所で乗船を待っている間に、家族の誰かが言った。
「帰りのフェリーでもいるんじゃない?」
まさか、と言いつつも、私は待合所でも、帰りのフェリーの中でも、ふとした瞬間に彼の姿を探していた。
しかし、船内に彼の姿はなかった。
また、同じ日に同じ場所にいたという話を聞いた私は、もしやと思い、撮影した写真や動画を見直してみた。
しかし、彼が映り込んだものは見つからなかった。
あーあ、映り込んでたら面白かったのにな。
って、ちょっと残念がってんじゃねえよ。
面倒くせえな。
