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今村翔吾と「愛のスコール」〜今村作品推します〜

私にとって今村作品はバイト終わりの休憩室で飲んだ「愛のスコール」だ。

特に好きな作品としては「八本目の槍」「人よ、花よ、」を挙げる。

「八本目の槍」は豊臣秀吉の家臣として名を挙げた「賤ヶ岳七本槍」各人の物語を通して、これまでの石田三成像とは一線を画す、ひとりの愛すべき男の姿が見えてくる物語だ。
ラストシーンでは「青春の終わり」の空気感が鼻の奥をツンとさせる。

一方、「人よ、花よ、」の主人公は一部の歴史好き以外には馴染みのない楠木正行。
この物語のクライマックスがもたらす読後感は他の何物にも代え難い。
「極上」
それ以外の言葉が思い浮かばない。

今村翔吾は、リアリティを損なわない絶妙な塩梅で、歴史の空白に少年漫画のような熱量を大胆に注ぎ込む。
だからこそ彼の作品は、読む人の感情を激しく揺さぶるのだ。

しかし不思議だ。
あれだけ熱い物語を読み終えたあとだというのに、そこに残るのは燃え上がるような思いでも、感動の涙でもない。
ただ、ひとり広い草原に立った時のような涼やかさだ。
この読後感は、今村作品以外では感じたことがないものである。

その感覚はいつも私に、大学時代の一場面を思い出させる。
パチンコ屋の喧騒と副流煙の中の激務。
深夜に及ぶ長いシフトを終えたあと、ホッとひと息をつきながら休憩室で飲む甘い「愛のスコール」。

それは決して気取った味ではない。
だが、その甘い炭酸飲料は、その日の仕事を無事にやり切ったという小さな達成感と共に、優しく体に溶け込んでいく。
私にとってその時間は、かけがえのないものだった。

今村作品の登場人物は、完全無欠の英雄や聖人君子としては描かれない。
泥を啜り、もがき、時には報われぬまま散っていく。人間くさいその生き様を見届けた後に残るのは、湿った感傷などではなく、

「あんた、よくやったよ。」

という清々しい肯定感だ。

それはまさに、あの日の「愛のスコール」の味だった。

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