【配属75日目】「これ、実装できますか?」デザイナーからの相談を、検証ツールで即座にハック。コードを叩く前の、最も美しいワクワク。
1. 9月の激流のコートで、また一つ巨大なボールが飛んできた
配属から73日目、74日目と、僕は自分のエンジニア人生において大きな転換点となる出来事を立て続けに経験してきました。
足掛け2ヶ月間にわたって向き合い続けたロングラン案件の無事な「本番公開(デプロイ)」、そして共通コンポーネントという安全装置を一切使わずに「0から1」で構築する完全新規案件へのアサイン。
そして迎えた、配属75日目の朝。
チーム全体が来年用の大規模更新(バージョンアップ作業)という大嵐を突き進む中、僕のデスクには今日も怒涛の勢いで案件が舞い込んできていました。
「今日も案件の処理だ。」
毎朝、誰よりも早くオフィスに入り、静寂の中でMacBookと大画面モニターを立ち上げて呟くこの言葉。
しかし、今日僕の手元に届いたのは、いつもの単発の修正作業ではありませんでした。
インターネットに触れる人なら誰もが知るレベルの、超巨大なWebサイト。その大規模な新規アサイン。
そして、そのアサインと同時に、担当デザイナーさんから一つの熱い「パス(相談)」が僕のもとに投げかけられたのです。
2. デザイナーからのパス:「これ、技術的に実装可能ですか?」
「新しく作るこの画面のデザインなんだけど……この演出と構造って、Webのコードで実際に実現可能かな?」
Figmaの画面を共有しながら、デザイナーさんが少し申し訳なさそうに、けれど瞳に強いこだわりを宿して僕に問いかけてくれました。
画面に映し出されていたのは、従来の整然としたグリッドレイアウトの枠組みを心地よく破るような、非常に遊び心に溢れたインタラクティブなデザインでした。要素と要素が繊細に重なり合い、スクロールやホバーによって複雑に挙動が変わる、圧倒的に美しい「0から1」の表現。
一見すると、「CSSのレスポンシブ対応で崩れるのではないか」「ブラウザごとの描画仕様でパフォーマンスが落ちるのではないか」と躊躇してしまうような、難易度の高いデザインです。
しかし、そのデザインを目にした瞬間、僕の胸の奥で激しい武者震いが起こりました。
「デザイナーさんが魂を削って生み出した『0から1』の美しい表現を、無理ですと突き放すのではなく、コードの力で完璧に『1を10にする』のが、プロのコーダーである僕の価値だ」
研修19日目に学んだ「デザインリテラシー」の教訓が、僕の脳内で一気に起動しました。
僕はすぐにブラウザの「検証ツール(DevTools)」を立ち上げました。
対象となるサイトの現在のDOM構造、CSSのグリッドやFlexboxの挙動、caniuseでの最新ブラウザのCSSプロパティ対応状況を、その場で手際よくシミュレーションし、解読(ハック)していきました。
「この要素はCSSの position: sticky と clip-path を組み合わせれば、レイアウトを崩さずに再現できます」 「こちらの複雑な重ね合わせは、BEMのModifierで状態管理をして、z-indexの詳細度を崩さないように設計すれば、レスポンシブでも崩れません」
検証ツールの画面上でリアルタイムにCSSプロパティを書き換え、擬似的にその挙動を作り出してみせたとき、デザイナーさんの表情が一気に明るくなりました。
「すごい!本当に実現できるんだ!相談してよかった!」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱い達成感で満たされました。
まだ1行も本番のコードは書いていません。しかし、検証ツールという武器を使い、技術的な実現可能性(フィージビリティ)をロジカルに証明できたこと。それだけで、プロのコートに立っているという強烈な手応えがありました。
3. コードを叩く前の『思考の設計図』:BEMの命名と箱の組み立て
実際にエディタを開いて本番コードを書き始めるのは、デザインが最終確定するこれからです。
しかし、僕の頭の中ではすでに、最高にスリリングで楽しい「思考のコーディング」が始まっています。
この複雑に遊んだデザインを、どんなセマンティックなHTML(箱)で構造化するか?
未来の自分が、そしてチームの仲間が修正するときに一目で構造がわかる、美しく堅牢なBEM(Block, Element, Modifier)のクラス名をどう命名するか?
カスケードの衝突を起こさず、描画パフォーマンスを最速に保つCSSをどう組み立てるか?
8月30日にCursor(AI)を仮想ペアにして夜遅くまで繰り返した「BEMの構造崩れ」や「詳細度コンフリクト」のセルフデバッグ(千本ノック)。
前日に意識した「モジュールを使わずに、1からコードの箱を作る」トレーニング。
それらすべての点と点が繋がり、目の前の巨大サイトのコード設計図として収束していくのを感じています。
15年間のソフトテニス人生において、僕が最も好きだった時間は、サーブを打つ前のほんの数秒間でした。
相手陣形のポジションを見極め、風の向きを感じ、これから打ち込むボールの軌道と、相手が崩れて返してくるであろうレシーブの未来を、頭の中で完璧にイメージする時間。
今、僕が感じているワクワクは、あのサーブ直前の感覚と全く同じです。
どのようなクリーンなコードを組み、どのような命名規則で整理すれば、デザイナーの意図を完璧に再現し、ディレクターが一発で「合格」を出せるか。 コードを叩く前のこの「思考の準備期間」こそが、エンジニアにとって最も贅沢で、美しい時間なのです。
4. メタ観察:2年前の「質問すら拒絶された75日目」との対比
自分を上空から見下ろす「メタ観察(Meta-observation)」という視点を持って、2年前の自分と現在の自分を対比してみます。
2年前、新卒で入ったメーカーでの「配属75日目」。
当時の僕は、暗い現場で冷たい鉄のレールの前に立ち、不条理なトラブルと孤独に怯えていました。
分からないことがあっても誰にも相談できず、勇気を出して話しかけたC先輩から浴びせられた、
「え、今それ聞く?後にしてくんない」という氷のように冷たい拒絶。
喉がキュッと締め付けられ、お弁当も喉を通らず、自分の存在価値を完全に見失って適応障害へと追い詰められていた、あの暗闇の夏。
同じ「配属75日目」を迎えた今、僕が立っている景色はどうでしょうか。
そこには、僕の技術的な意見を信頼し、「これ、実現できますか?」と笑顔で相談してくれるデザイナーがいます。
僕が検証ツールで示したロジックに、「助かる!」と背中を押してくれる仲間がいます。
専門学校の恩師に教わった、「リーダーは引っ張るのではなく、後ろから支えるもの」という教訓。
ソフトテニスのコーチ時代、教え子たちを地区準優勝へ導いた「GROWモデル(問いかけ)」の精神。
いま、僕はWeb制作のコートで、デザイナーやディレクターを技術的な後ろ盾として「後ろから支えるダブルス」を、確かに体現できています。
誰かに恐怖して喉を閉ざすのではなく、プロ対プロとして互いの強みをリスペクトし合い、最高のアウトプットを目指してラリーを交わす。
2年前の僕には想像もできなかった、圧倒的な逆転(リファクタリング)がここにあります。
5. おわりに:明日、最高の1行をデプロイするために
配属75日目の夕暮れ。
検証ツールでのテストを終え、明日からの本格的な設計に向けて頭の中でBEMの命名規則を整理しながら、僕は静かにPCを閉じました。
1Kの一人暮らしの部屋に帰ったら、たくみの里で彼女と選んだスウェーデン流の休息アロマ「FIKA(フィーカ)」を首元にシュッと吹きかけて、高ぶった思考のCPUを観覧車のような穏やかなスピードへと冷却しようと思います。
「1万歩歩いた先には、必ず最高の景色が待っている」。
派遣の肉体労働で毎日1万歩以上を歩き、足がパンパンになりながら重い荷物を運んだ、あの泥臭い夏。
あの日々が僕の「折れない心の土台」を作ってくれたように、今日、検証ツールの前で考え抜いたロジックの1つひとつは、明日から始まるコーディングで、僕を誰も真似できないレベルのプロフェッショナルへと連れて行ってくれるはずです。
これから始まる、BEMの命名とCSSの構築という最高の楽しみ。
慢心という「天狗」を常にデバッグしながら。
明日もまた、誰よりも早くオフィスに入り、静寂の中でエディタを立ち上げます。
デザイナーの表現を100%以上の輝きで世界へデプロイするために。 誠実な、新しい1行を、誰よりも丁寧に積み上げていきます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
