掌編小説「熱帯夜の吸血鬼」※シロクマ文芸部7/23お題「熱帯夜」より
熱帯夜には、吸血鬼が現れる。
そんな伝説を聞いた。
誰から聞いたのか覚えていない。
吸血鬼。ヴァンパイア。
古今東西、妖怪変化は数あれど、その中でも最強格と言われる怪異。
私の両親は、あの熱帯夜の日、干からびた状態で亡くなっていた。
夕食の時までは、笑っていたのに。
私は、割れたガラス窓からコウモリが飛び立つのを見た。
人間の死体は、よほど気象条件が重ならないと、ミイラにはならない。
警察から死体遺棄を疑われた私は、どれだけ異常を訴えても、錯乱しているとしか受け取られなかった。
誰も、真実を追求しようとしてくれなかった。
だから私は、あれから世界を巡り、調べた。
行き着いたのは、吸血鬼の手口だった。
これまで霧のようだった両親の仇の正体が、ようやく、形を帯びた。
私は、ありとあらゆる吸血鬼退治の専門家に話を聞き、その手法を身につけた。
ある熱帯夜。
窓を開けていると、わずかな空気の揺らぎを感じる。
薄目を開けると、巨大なコウモリのような輪郭が、真っ暗な部屋の中に鎮座している。
私は、何もしなかった。
眠っていると安心したのか、吸血鬼が私の首筋に喰らいつく気配とともに、指先に走るような痛みが襲った。
体内から血液が失われていく感覚が絶えず感じられ、だが私はほくそ笑む。
文字通り私の血を貪っていた吸血鬼は、やがて違和感を覚える。
私は、離れようとしたその身体を、愛しい男を抱くように四肢で絡め取る。
吸血鬼は、痙攣し、もがき、私から離れようとする。
しかし、私は血を吸わせ続ける。
やがて、吸血鬼は膨れ上がり、爆ぜた。
殺人現場のように赤く染まった部屋の中、私は、体内に通していたチューブを抜き去る。
チューブの先には、私が保存し続けていた大量の血液が入ったタンクが置かれていた。
日本の片田舎で、吸血鬼退治の専門家から伺った手法をアレンジしたものだ。
私は、仇を取れた喜びに打ち震え、かの御仁に感謝を捧げた。
***
「あー、こうやってな。腕に刺してきたらよ。ぐっと力を入れて、針を筋肉で固定すんのよ。そしたら、血を吸い続けるしかなくなって、身体が血で破裂すんだよ。夏になると飛び回って鬱陶しいけどよ。こうして遊んだりしてんのよ」
そう言って、吸血鬼退治の専門家は笑った。
こちらの企画に参加しました。
いいなと思ったら応援しよう!
お気持ちをいただければ、より頑張ります!