目標ではなく、自由な運動を。現代思想としての櫻坂46
我らが櫻坂46 14枚目シングル”The growing up train”の楽曲・MVが2/12に公開された。これを持って2/12は祝日になる予定だと聞いた。夢だったかもしれない。
タイトルだけで事前にイメージしていたテイストとは随分違ったのだけど、あぁ、だから僕は櫻坂が好きなんだ、と改めて感じるMVだった。
1番は、メンバーが列になったり、円になったりして1本の直線・曲線を表現しているのが印象的。”Train”のモチーフ通り、メンバーの積み重ねてきた軌跡が今この場に結実している感を想起させる。
でも、このMVが面白いのは2番からだ。ここでは直線的な動きではなく、その直線からはみ出るように、メンバーが自由に動き出す。全体の統一をきれいに表現するユニゾンダンスとは対象的に、個人が差異を表現する。そしてラストシーンも、メンバーは思い思いのあり方で、たどり着いた今の景色を見ている。
鉄道は、人類に巨大な経済成長をもたらした近代の大発明だ。僕らが今熱狂の渦にいるAI革命が足元にも及ばないくらいの変化を人類にもたらした。
そのネットワークにより世界中に人・物が動かせるようになったことがその変化の本質だけど、ミクロで線路を見ていくと、A地点とB地点を直接結ぶ手段である。
2つの地点を結ぶために合理的かつ現実的な経路が計算され、場合によっては自然を切り崩してその手を伸ばす。近代らしい、合理主義的なシステム。
その鉄道をモチーフにした今回の楽曲だけど、彼女たちにかかると、その合理性は解体される。直線ではなく、自由な運動でもって。合理ではなく、遊びでもって。
そしてこの解体は、この楽曲だけでの表現ではなく、彼女たちのこれまでの活動もそうだったのではなかったか。
「欅坂46」からの改名を選び、「櫻坂46」として再スタートを切った。かつてのチームからの流れを切断し、新たな根を伸ばす苦難の道を選んだ。
グループの色が明確な乃木坂、日向坂と比べ、「櫻坂らしさって何?」と自他ともに問われ続けながら、自らを規定せず、様々な方向に根を伸ばし続けた。明確なアイデンティティがあるチームも素晴らしい。でも、この自由な運動そのものとしてのチームだって、同じくらい素晴らしいことを僕らはリアルタイムで目撃している。
そして、櫻坂46には具体的で測定可能な目標を明示していない。「いつか国立競技場でライブをする」みたいな。(これは実現しちゃったけどね。すごい!)
代わりにあるのは、「櫻坂の最高地点へ」という、何がどうなったら達成なのかはわからない標語だ。でも、僕はその温度感がベストだと思う。
目標を設定し、そこに向けて努力を重ねる。それ自体は否定しないが、自由な運動としての櫻坂には馴染まない。一度その回路が設定されると、すべての活動は目的に向けた手段に還元されてしまうからだ。
それは、A地点からB地点まで最短距離で路線を引くことだ。今回の楽曲で、これまでの活動で彼女たちが見せてくれた自由、遊びはトレードオフになる。自由、遊びこそがチームの核である今、明確な目標設定は原理的に不可能なのだ。
「櫻坂の最高地点へ」いいじゃないですか。どこに行くかわからない、でもなんだかワクワクするその運動に、Buddiesも思いっきり巻き込まれていきたいと思う。
参考文献
構造に取り込まれず、中心を持たない根を張り巡らす「リゾーム」は、現代の逃走のキーワードとして挙げられている。
今を生きる僕らは、渦中の技術革新を過大評価しがちだけど、実は人類史を見るとインパクトとしては大きいものではない、と教えてくれる。勉強をする目的の一つは、この相対化の目線を持つことだと思う。
