音楽が戻ってきた朝
夏休みが終わり、2学期の始まりとともに、我が家では人生の秋のような時間が流れています。
私たちはこの21年間、ずっと一緒に仕事をしてきました。
そして今年の春を過ぎたころから、実に9年ぶりか、10年ぶりくらいに、二人で音楽を作る時間が戻ってきました。
10年前には、娘はまだこの世に存在しておらず、今は毎朝、元気に赤いランドセルを背負って学校へ歩いていく娘の背中を見送っています。
思い返せばこの10年ほど、私たちの音楽を作る時間は止まっていたのですね。
でも、この10年間は、ただ止まっていたわけではありませんでした。
子どもを育て、新しい家庭を築きつづけ、地に足をつけて暮らしていくということを、私たちは学んでいました。
娘を見送ったあとの朝は、食卓やキッチンを片付けると、食洗機と洗濯機がそれぞれに音を立て始めます。
それからゆっくりと、Watariさんはコーヒーを淹れ、私はお気に入りの蓋付きのティーマグで紅茶を淹れます。
お互いの飲み物が揃ったら、
「今日はどんな予定?」
そこから、あんなこと、こんなこと。
したいこと、しなければならないことを、お互いに確認しながら共有する時間です。
そして、少しずつ脱線するのも日常で。
Watariさんの好きなサッカーの話から、近々観に行きたい映画のこと。最新のニュースから、ふと思いついた取るに足らないこと。もちろん音楽の話まで。
午前中に決まった予定がなければないほど、おしゃべりの時間は延々と続きますが……
「あ、もうこんな時間!」
と立ち上がり、それぞれの作業に入ったり、レコーディングを始めたり。
そんなふうに、お昼までの大切で贅沢な時間を過ごしています。
そういえば私は昔から、レコーディングそのものだけではなく、レコーディングが始まる前の時間が好きでした。
これから歌録りをする私を気遣ってか、それとも機材が温まるのを待っていたのか。
コーヒーでも飲みながら、ああだこうだと近況を話す。
「最近こんなことがあって、笑ったなあ」とか、
「あのとき、ああだったよね。おかしかったよね」とか。
30分でも、小一時間でも。
空気を温めるというのでしょうか。
そこにいるみんなの心が、少しずつ同じ場所へ集まってくるような時間。
そして、
「さあ、そろそろ録るか」
と腰を上げ、それぞれが自分の仕事場につく。
そんな前座のような時間が、昔からなんだかとても好きでした。
考えてみれば今、それを毎朝Watariさんとやっているような気がします。
この時間が10年ぶりに戻ってきたからこそ、音楽を作る時間もまた、私たちのところへ戻ってきたのかもしれません。
そして今、ひとつの歌を作品として仕上げることができました。
『はじまりの譜 〜きみにあげよう〜』
前回、少しだけ予告をしていた歌です。
あのころ書いた「きみ」と、今歌う「きみ」。
「きみ」という言葉の向こう側にはもう、たった一人の誰かだけではなく、たくさんの大切な人の笑顔が見えるようになりました。
そばにいる人も、遠くにいる人も。
今ここにいる人も、これからいつか出会う人も。
聴いてくださる方それぞれの心に浮かぶ「きみ」に、そっと重ねて聴いてもらえたらうれしいなあと思います。
『はじまりの譜 〜きみにあげよう〜』
Instagram — 26秒の音
Bandcamp — full recording
よかったら、ふらりと遊びにいらしてください。
そして私たちはもう、次の音を作っています。
二曲目はレコーディングを終えて、音を仕上げているところ。
三曲目は楽譜を書きながら、アレンジを整えているところです。
また、朝のコーヒーと紅茶の続きをしながら。
