うっかり天然妻は、愛されている。
義実家から帰れない!?の巻
いらっしゃいませ。
ようこそ喫茶ブルーモカへ。
普段、家でもよく本を読んでいる店主でございます。
本はいいですよ。
ソファに寝転がってスマホを触っていたら、父親としての威厳なんてあったもんじゃありませんが、同じ姿勢でも本を開いているだけで「なんだか知的で格好いいパパ」に見えるんだそうで。
娯楽として楽しみながら、知識を蓄え、ついでに娘からの好感度まで上がる。
一石三鳥ですね。
そのせいでしょうか。先日、長女から夏休みの読書感想文の依頼が舞い込んできました。
依頼というより、ほぼ丸投げです。
当然、父親としてしっかり説教してやりましたよ。
「二人でやろう!」
……とね。
いや、違うんですよ。読むのと書くのは使っている脳が違うんです。私は本を読むのが好きなのであって、読書感想文が得意だなんて一言も言ってない。
そう説明したかったのですが、娘がこちらを見る目がもうね。
憧れの父を見る目というより、宿題という難敵を倒してくれる救世主を見つけた目なんですよ。
あんな目で見られたら断れません。
そんなわけで、娘が感想文用の本を読んでいる横で私も本を読んでいたのですが、そこで気になった話を先日「#仕事での気づき」として投稿しました。
ただ、なんだか私にしては小難しい話になってしまったので、本日はもう少し口当たりの軽いものを。
コーヒーのお供に出てくる、小さなお菓子くらいの話です。
それでは、ごゆっくりどうぞ。
天然妻、義実家から出られない!?
夏休み。
日々、自分の時間を削り、家族や社会のために働く人々が心身を休めるリフレッシュ期間。家族で思い出を作り、古い友人たちと再会し、かけがえのない青春をもう一度――。
……なんて淡い夢のような時間は、現実世界には存在しません。
お盆休みなんて、日本中の人間が一斉に「休むぞ!」と動き出すものだから、道路は混むわ、観光地は混むわ、飯を食うにも並ぶわで、休みに行ったのか疲れに行ったのか分からなくなる。
幸い、私は比較的好きなタイミングで休暇を取れるので、今年もお盆を少しズラして十日間。
きっちり遊び倒してまいりました。
我が家の夏休み最大のイベントは、実家への帰省です。
私の実家と妻の実家は車で三十分ほどしか離れていないので、帰省中は子どもたちを連れて両家を行ったり来たりしています。
ただし、私は自分の実家にはあまり泊まりません。
誤解のないように言っておきますが、家族仲はいいんですよ。今となっては恥ずかしげもなく「家族が好きだ」と言えますとも。
ただね。
家が汚いんですよ。
オカンが重度の「もったいない症候群」でして、家中に「いつか使うかもしれない何か」が大量に保管されている。
いつ使うんだ、それ。
たぶん来世だぞ。
そんなわけで、予定がなければ妻の実家に泊まります。我が実家とは対照的に綺麗で、料理もうまい。何より居心地がいい。
あぁ……書いていたら帰りたくなってきた。
そんな夏休みのある日。
さすがに妻を我が家の魔窟へ宿泊させるつもりはありませんでしたが、挨拶くらいはしておこうと家族四人で私の実家へ立ち寄りました。
妻は、私の家族から妙に愛されています。
親父もオカンも、弟も妹も、みんな妻と二人の娘が大好きです。
この日も「嫁と孫が来るぞ!」と気合を入れて掃除をして、妻の好きな甘いものまで大量に用意して待ち構えていました。
午前中から数時間を過ごし、そろそろ帰ろうかという頃。
帰らない。
チビ怪獣二匹が、帰らない。

叔父や叔母たちにこれでもかと甘やかされ、散々遊んでもらった娘たちは、「そろそろ帰るぞ」と言ったところで聞きやしません。
しかし、この日の私はどうしても帰らなければならなかった。
なぜなら――
友人たちとの飲み会があるからだ。
大事でしょう。
ものすごく大事でしょう。
娘たちを説得しているうちに時間は刻々と過ぎていく。
こりゃ埒が明かん。友人に「少し遅れる」と連絡しようかと思った、その時でした。
妻がそっと耳打ちしてきた。
「私が運転して帰るから大丈夫だよ。もう時間でしょ? 行っておいで」
優しい。
とても優しい妻でございます。
ただし、一つだけ問題がありました。
妻を私の実家に置いていくこと?
違います。
自分だけ飲みに行くこと?
違います。
私は妻の運転を信用していない。
納車一週間で廃車寸前事件だけではありません。
新車の五枚あるドアのうち、四枚を一ヶ月以内に傷物にした実績もあります。
その他、ここには書き切れないほどのヒヤリハットが脳裏を駆け巡る。
「……本当に大丈夫?」
「うん! 大丈夫! 道も分かるし!」
うん。
きっと大丈夫じゃない。
そもそも、こっちが心配しているのは道ではない。
とはいえ、時間も迫っていたので、私は妻の言葉に甘えることにしました。

久しぶりに会う友人たちとの時間は、それはもう楽しいものでした。
三十歳を過ぎたというのに、話している内容も態度も学生時代とほとんど変わらない。唯一変わったものがあるとすれば、見た目と翌日に残るダメージくらいでしょう。
一次会、二次会と酒を酌み交わし、普段あまり飲まない私はすっかり上機嫌。
そのまま三次会のカラオケへ突入しました。
そこで、スマホが鳴った。
妻です。
熱唱するオジサンたちの部屋を抜け出し、静かな階段の踊り場へ移動する。
「もしもし、どうした?」
「今、大丈夫?」
声が、妙におとなしい。
一瞬で嫌な予感がした。
「うん。どうかした?」
「いつ頃、帰ってくる感じ?」
腕時計を見る。
二十時。
オジサンたちの飲み会は早い。夜遅くから始めると、こちらの体力が先に終わるからです。
三次会も始まったばかりだし、帰るとしても二十二時前くらいだろう。
そう伝えると、
「だよねぇ……さすがにまだ帰らないよねぇ……」
「なに? もう帰った方がいいの? どうした?」
少しの沈黙。
「いや~……鍵がさ」
「鍵?」
「車の鍵、家に置いてきちゃった(笑)」

……。
…………。
ほらぁ!!!
だから心配だったんだよ!!
事故じゃなかっただけ百倍マシですが、やっぱり何かは起こる。
妻は妻でございます。
すると電話の向こうで何やら声がして、相手が代わりました。
「おう。今から鍵取りに行くから、住所送っとけ」
親父でした。
どうやらポンコツな妻に代わって、カラオケまで鍵を取りに行ってくれるらしい。
電話の向こうでは家族の笑い声が響いている。
……楽しそうだな、おい。
ひとまず親父に礼を言って電話を切り、友人たちの待つ部屋へ戻ろうとしました。
その途中。
アルコールで鈍っていた私の脳みそが、突然ものすごい勢いで回転を始めた。
…………待てよ。
待て待て待て。
俺、たしか――。

慌てて親父へ電話をかける。
「親父!!!」
「なんじゃ!」
「俺、鍵置いていってるわ!!」
「は?」
「実家! 俺のリュックの中!!」
危なかった。
親父がバイクに跨り、まさにヘルメットを被ろうとしていた、その瞬間だったらしい。
実は出発前、私はこうなる可能性を考えていた。
妻が車で帰ることになった場合に備えて、スペアキーを自分のリュックへ入れ、実家に置いていったのだ。
我ながら素晴らしい危機管理能力である。
問題があるとすれば、
その危機管理をした本人が完全に忘れていたことくらいだ。
危機管理とは。
こうして天然妻とチビ怪獣二匹は、無事に妻の実家へ帰っていきました。
そして二十三時を回る頃。
私は私で、友人たちとの飲み会を終え、自分の実家へ帰宅しました。
もちろん、妻の実家ではありません。
さすがに酔っ払った状態で義実家へ「ただいまー!」と帰れるほど、私の肝は据わっていない。
玄関を開けると、親父がいました。
さっきは危うく往復一時間の無駄足を踏ませるところだったので、ここは素直に謝っておきましょう。
「いやぁ、悪かったな。妻が申し訳ない。いつもあんな感じだから許してやってくれ」
すると親父。
「おめぇな!」
はい。
「連絡がおせぇわ! 出発しとったら無駄足になったろうが!」
…………。
いや! 俺が悪いんか!!
鍵忘れたの俺じゃねぇぞ!
なんじゃこいつ!
どいつもこいつも妻の味方ばっかしやがって!

私が幼い頃から知っている家で、私より後から家族になったはずの妻が、いつの間にか私以上に当たり前の顔で笑われ、助けられ、庇われている。
まあ――。
それも、悪くない。
天然な妻は、今日も愛されていた。
この質問箱って機能はどうなんだろうか。
あれかな。匿名でできる分
コメントやメッセージよりか幾分ハードルが低いのかな
いいなと思ったら応援しよう!
応援お願いします!
いただいたチップで創作活動頑張ります!