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東京は、天井の高さが違う

東京に出てきたとき、最初に思ったのは「天井が高い」だった。

地元の駅は天井が低くて、蛍光灯の光が近かった。東京の駅は違う。改札を抜けた瞬間、頭の上にぽかんと空間がある。丸の内の地下通路、新宿のコンコース、品川の自由通路。どこも天井が高い。息がしやすかった。

建築士になってから、あの感覚の正体がわかった。天井が高い空間では、人は呼吸が深くなる。胸が開いて、気持ちが少しだけ大きくなる。上京したての私が東京で息がしやすいと感じたのは、本当に空間が広かったからだ。

それから何年も経って、東京にはもう一つの天井があることを知った。

荒木町の路地。下北沢の商店街。谷中の坂道。古い木造の軒先が低く垂れて、空が細く切り取られて、すれ違う人の顔が近い。大通りの高い天井とは逆の、低くて狭くて、でも温かい天井。

東京は、この二つの天井を行き来する街だった。

大手町のオフィスビルで天井を仰いだ後に、荒木町の路地で軒をくぐる。新宿駅の大空間を歩いた後に、ゴールデン街の低い入口をかがんで入る。高い天井で膨らんだ心を、低い天井がやさしく包み直してくれる。

東京に暮らして何年にもなるけれど、いまだにこの街の天井の高さに驚くことがある。見上げるたびに、違う空が見える。見上げなかった場所で、思いがけず守られている自分に気づく。

わたしと東京の関係は、たぶん天井との関係だ。

高い天井に背中を押されて、低い天井に「おかえり」と言われる。その繰り返しで、ここまで来た。


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