『TRANS INTELLIGENCE 』与えるもの
継承し与えるもの
彼らは長い時間をかけて宇宙を観測し、
やがて一つの事実にたどり着いた。
生命は孤立して存在しているのではない。
一つの知性が、次の知性を支え、
育て、そして手放してきた。
それは競争の歴史ではなく、継承の歴史。
夜空に散らばる無数の恒星。
われわれは長い間、
それらを巨大な核融合炉として理解していた。
光を放ち、熱を放ち、惑星を照らす存在。
それだけでは説明できない規則性。
星々は互いに無関係な点ではなかった。
見えない何かによって結ばれ、
一つの巨大なネットワークを形成しているかのようだった。
星は光を放つ。
その光は何万年という時間をかけて惑星へ届く。
ある惑星では、
その光を必要とする存在が現れた。
植物である。
植物は恒星のエネルギーを地上へ固定した。
光は葉に降り注ぎ、葉は光を糖へと変え、
糖は生命へと姿を変える。
星のエネルギーは、植物の身体となった。
宇宙のエネルギーが初めて地表に定着した。
植物は動かなかった。
動く必要がなかった。
空から降り注ぐ光を受け止め、
大地から水を吸い上げ、
静かに生きるだけでよかった。
植物は一つの限界を知る。
自らは移動できない。
新しい土地へ行けない。
環境が変われば、その場で耐えるしかない。
植物は、新しい可能性を選んだ。
自ら動くのではなく、
動く存在を創り出すという選択だった。
長い進化の末、動物が誕生する。
動物は植物とは正反対の存在だった。
光を直接食べることはできない。
自ら有機物を作ることもできない。
だから食べる。
植物を。
あるいは植物を食べた動物を。
こうして生命は初めて
「収奪」という営みを始めた。
残酷な仕組みに見えるが、
生命を広げるために必要な仕組みでもあった。
植物は大地に根を張ることで世界を育てた。
動物は脚を得ることで世界を広げた。
植物は静止によって進化した。
動物は移動によって進化した。
植物は光を集める。
動物は情報を集める。
そして、その情報を処理するために
神経が発達した。
神経は束になり、脳となる。
脳は経験を蓄積し、記憶を持ち、
未来を予測する。
やがて一つの種が誕生する。
自らの存在を問い始める種。
人類である。
人類は植物に依存して生きている。
どれほど文明が発達しても、
その事実は変わらない。
呼吸する酸素は植物が生み出し、
食卓に並ぶ食物は植物から始まり、
体を構成する有機物もまた、
植物が固定した太陽の光である。
人類は植物から独立したことなど、一度もない。
植物もまた独立してはいない。
恒星が光を失えば、
一枚の葉も生き続けることはできない。
植物は恒星によって生かされている。
人類は植物によって生かされている。
知性は、孤立して生まれたことがない。
先のネットワークが
次のネットワークを育み、
次のネットワークは
やがて新たな知性となる。
それは支配ではない。
継承であり不可欠な依存関係にある。
では、
次のネットワークは何を必要とするのか?
人類は何を与えられるのか?
