原点の山・白馬三山(2)
山の朝は早い。
朝というか、深夜2時過ぎには周辺で動く音がする。
出発は5時前を考えていたが、3時には完全に目が覚めてしまったので、早めに朝食をとることにした。
8月とはいえ高山、寒いので寝袋に入ったままパンを齧る。

テントから顔を出すと、まだ空は一面の星空だ。
その下で、昨日一緒に夕日を見た1人が、ヘッドランプの灯を頼りにテントの撤収を終えて、出発するところだった。
自分もテントの撤収を済ませて、もう1人のテント場仲間に別れを告げた。
「ありがとう。また、いつかどこかの山で!」
1人は不帰ノ劍を超えて五竜岳、もう1人は雪倉岳から朝日岳へ。
皆行く方向は違うけれど、またどこかで会えたら嬉しい。

テント場を登っていくと、右手に白馬岳山頂、目の前に旭岳。
丸山を超え、朝日に薄く染まった杓子岳に向かって歩き出す。
ここから先はまだ行ったことのない道だ。
先の雲海の上に剱岳・立山連峰が見える。



杓子岳はガレ・ザレた石をかき集めて出来たような山だった。
カメラを片手に持ち、更に重量のあるザックではズルズルと滑りやすいので、慎重に行く。
全体的にオレンジや茶系の岩が多く、昔赤く見えた正体はこれかと思った。



山頂に立つと、白馬鑓ヶ岳に向かって切り立った稜線の道が続いていくのが見える。
見上げると果てしなく広がる青空、眼下に広がる雲海。
まるで天空を歩いているようだ。


やがて赤い石が白く変わり始める。
コルをなだらかに大きく下って、また登り返す。
時々振り返り、歩いてきた道を眺める。
登山道の脇には紫や黄色の花々が雪渓を背に咲いている。




白馬槍ヶ岳は同じくザレているけれども、こちらは白い。
塔のようにいくつも並んでいる岩が、まるで遺跡のようだった。
山頂からは雲海から顔を出す杓子岳と白馬岳が見えた。
一瞬一瞬で変わっていく雲の動き、隠れてはまた姿を現すニ峰の壮大な光景に、ずっと見惚れてしまっていた。



鑓温泉への分岐まで降り、ここで少し休憩をいれた。
こちらから見る白馬鑓ヶ岳は、まるで白い砂丘のようだ。



「鑓温泉の下りは意外とキツイよ」と、昨日テント場の人達から聞いてはいた。
鎖場の連続
滑りやすい蛇紋岩
崩れ落ちそうなガレ場のトラバース
地味に効いてくる登り返し
蒸し暑さと、歩きにくい樹林帯…
「キツイって、これのことかぁ…」と思いつつ、猿倉目指してひたすら下山した。
標高が下がってくると、蒸し暑さも加わり、自分の汗を吸ったザックのショルダーハーネスがずっしり重く感じる。
さすがにいつもより休憩も増え、ペースも落ち気味になる。




鑓温泉を通過する時に、昨日の登りから時々顔を合わせていた人とまた会ったので、軽く言葉を交わす。
今日はこのまま幕営だそうだ。既に温泉にも入った後で、汗だくの自分はちょっと羨ましくなった。



白馬岳から約7時間ほどかけ、ようやく猿倉に到着。
上と違って暑いので、とりあえず冷たい飲み物を買う。
ちょうどタクシーが停まっていたので、聞いてみたらタイミングよく空車。
ドライバーさんがご自身も登山をする方だったので、乗車中は山の話で楽しく過ごさせてもらった。
車内はガンガンにクーラーが効いていて、登山客に対する心遣いも嬉しい。

八方の駐車場に戻り、車の中にザックを詰め込む。
登山靴をサンダルに履き替えると、一気に足が軽くなった。
クタクタだが、心地よい疲れだ。
天気にも会う人にも恵まれて、素晴らしい山行だったと思う。
今降りてきた白馬三山を眺めるが、半分以上は雲の中に隠れてしまって全貌は見えなかった。
数時間前まで、あの雲の上を歩いていた。
「これで憧れの山の全てに登頂した。」
自分が一番やりたかった事ではあるが、実現するのに随分時間が経ってしまった。
「それでも、望んでいればいつかは叶える事ができる。」
ようやく子供の頃の自分に伝える事が出来た気がする。
名残惜しいけれど、もう行かなければならない。
明日からまた、いつもの日常に戻る。
車のエンジンをかけ、憧れだった山々に別れを告げた。
そして、今度はどこへ行こうか。
また、新たな場所へ。
またいつか、どこかの山で。
