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ザザーン【お題:波の音】|シロクマ文芸部 ショートショート

ザザーン…。ザザーン…。波の音というのは不思議なもので、その音一つで様々な記憶が呼び起こされる。ザザーンという音を聞けば、穏やかな海や、沈む夕日が浮かんでくる。これがザッパーンだったらどうだろう。ザブーンだったら。
「寄せては返す波」という言葉があるように、波は感情や記憶の象徴だ。少なくとも、俺にとってはそうだった。

ザザーン…。ザザーン…。俺は波の音になりたかった。この海抜0mの町に生まれ、海と共に生きてきた。よく釣りにも行ったし、度胸試しに友達と一緒に飛び込んだりもした。水面に浮かびながら、ザザーンという波の音を聞くと、この海と同じになった気がしてとても気持ちが良かった。

この町には高校がなかった。だから俺は本土へ渡り、高校生になった。そのまま大学、就職と流れるように俺のキャリアは進んでいった。しかし、順風満帆な人生というわけにはいかなかった。職場では日々のノルマに追われ、忙殺される日々。毎日浴びせられる罵声に、心は波一つ立たなくなっていった。

ある日、気が付くと身体が動かなくなっていた。目から涙だけが滴り落ちる。それ以外は、どうすることもできない。出勤しなくては。そう思う程に身体は強張っていく。何かがおかしい。俺の心は、不気味なほどに凪いでいた。

ザザーン…。ザザーン…。取り戻さなくては。俺の心を。あの頃のように、波と一つになりたい。這うようにして俺は港へ向かった。

ザザーン…。ザザーン…。

ザザーン…。ザザーン…。

ザブン。

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