真夏の盛岡 -賢治とかクウネルとか徳三郎とか -
盛岡に行ってきた。
前の週まで市内の最高気温は28℃とかだったので、よしゃ、避暑だ!とワクワクしていたが、新幹線を降りたら盛岡も猛暑。滞在中は34℃が続いて湿度も高く東京より体感的に暑かった。
街を流れる北上川や中津川の遊歩道、散策するのもとにかく暑い!ぐったり。

あちこちに熊の注意喚起があり、こんな街中にも出没するんだとびっくり。


岩手といえば宮沢賢治。

ポラーノとかモーリオとかクラムボンとかゴーシュとか、賢治ゆかりの固有名詞が店名や施設や商品などいろいろなところに使われていて、さすがご当地。
花巻の賢治記念館・童話村・賢治の学校・イーハトーブ館をまわる途中、お昼は山猫軒で。

料理を待つ間、夫は店の本棚の「なめとこ山の熊」を読んでいた。熊出没や被害のニュースも多い昨今、熊問題をファンタジーにすり替えるのは不謹慎かもしれない。でも単純な共生で終わらない猟師の小十郎と熊たちのお話しは、悲しいけれどとても美しい。
賢治記念館は凝った展示があり、専門の農業や文学だけでなく天文学・哲学・宗教・音楽・美術など37年の短い生涯の中でいかに賢治が広く深く吸収して多くの作品を残したかがよくわかった。65までぼーっと生きてきた私と違う、なんという濃い人生。
親子連れも多く、子どもたちが大人の体に顔を埋めて「山男の四月」や「クねずみ」の映像紙芝居を見ていた。童話だと思って油断しているとめちゃくちゃ怖い展開だもんね。

イーハトーブ館は宮沢賢治学会の事務局もあり、書店には賢治の研究書籍がたくさん並んでいた。展示内容は作品に登場する植物や生物の写真展示などシンプル。他の賢治関連施設よりひっそり落ち着いていて、建物のデザインとかロケーションがとてもよかった。書店・売店の名前は「猫の事務所」。意地悪な猫ではなく親切な人間の女性から、以前買いそびれてずっと欲しかったますむらひろしの『銀河鉄道の夜 四次稿編』企画展記録集を購入。

朝市や光原社、ごさ九や番屋や旧岩手銀行などがある盛岡中心部の観光スポットにも行ってみたけれど、こんなに暑くなかったら普通の住宅街の方まで歩きたかった。
光原社前の通りは、ちょうど週に一度の材木町よ市という歩行者天国になっていた。

今は民藝店。中庭には賢治の資料館や碑なども。


壁にかかった山下清の蜘蛛の絵や、ベン・シャーンのワルシャワなどインテリアや家具もよかった。雨で暑さもちょっとおさまっていいおしめりだよねと名物のくるみクッキーと味噌羊羹食べながら呑気にコーヒー飲んでいたけれど、店を出た後雷鳴轟いてとんでもないゲリラ豪雨になり、よ市を楽しむどころではなく撤収。
夜になっても断続的に強い雨が降るので、夕飯はホテルのそばの、昼間見た鮮魚店の2階にある居酒屋で。

見たことない魚や魅惑的なお惣菜が売られていた。

同じビルの2階の居酒屋は鮮魚店直営で、ホスピタリティー溢れ出る店主がおもしろかった。
盛岡はチェーン店ではない個人経営の喫茶店や小さな書店もたくさんあり、昔から文化的な土壌があった街だったことがよくわかる。
ヘラルボニー創業の地でもあり、作品が街のあちこちに溶けこんでいる。日本は都会も地方もどこものっぺり画一化されているけれど、こういうユニークな街は貴重。

本とコーヒーのBOOKNERD。セレクションも居心地もとてもよかった。こういう店はその街の印象の良さを支えているなー。
ここでは鈴木るみこの「ふらんすの椅子」と木村衣有子の「生活は物語である 雑誌『クウネル』を振り返る」を買った。

四月と十月文庫9
港の人 2025
「生活は物語である 雑誌『クウネル』を振り返る」
木村衣有子
BOOKNERD 2025
「ふらんすの椅子」はクウネルとは直接関係はないが、著者の鈴木るみこは創刊から関わった人。
リニューアル後の現クウネルは、名前は同じでも中身はもう全く別の雑誌になってしまって手にすることもなくなった。前のクウネルも編集傾向に首を傾げる部分もたまにありいつも読んでいたわけではないが、これはいい文章だなと思うと最後に必ず編集部の鈴木るみこの名前があったので、この人の書いたものをいつかまとめて読みたいと思っていた。「ふらんすの椅子」は過去にクウネルとは別の雑誌に掲載されたものと、逝去される直前の書き下ろしを収録した本。清涼感のある文章を懐かしく読んだ。著者の友人牧野伊三夫の表紙と最後の「るみちゃんへ」がちょっと切ない。
もう一冊の本「生活は物語である」は、出版元がこのBOOKNERDというのは店で手にして初めて知った。
木村衣有子がクウネル創刊当時の世相や人々の意識、雑誌作りの周辺を時に批判的に考察していておもしろかった。「はたしてそこはユートピアだったのか」という副題がピリッと効いている
最終日三日目、中津川が目の前の店で朝ごはん。川の対岸にぽつんと佇む古い平屋が、ドキュメント72時間のテーマソング「川べりの家」みたいだった。

「川べりの家」は、対岸の右手、画面の先にある
帰りの新幹線の時間まで盛岡県立美術館。SF的な雰囲気の建物。


企画展は小林徳三郎。




常設も萬鐵五郎(小林徳三郎の親友だった)や松本俊介、舟越保武、舟越桂など充実のコレクションだった。
おみやげは光原社モーリオのくるみクッキー。
可否館で食べておいしかったので。鎌倉紅谷のクルミッ子に似ているけれど、こちらの方が大きくて甘さは控えめ。
民藝店のお菓子らしく、芹沢銈介に師事した染色工芸家の小田中耕一による箱や包装紙のデザインも味わい深い。

楽しかったけれど、暑さとゲリラ豪雨のせいで街歩きがほとんどできなかったのはものすごく心残り。徒歩で行きたいところ、まだ色々あったのに。次行く時は真夏以外の時期に。
