100億の男
もう20年近い付き合いになる、仲の良い社長さんがいる。
気さくで楽しくて、サッカーが大好きな素敵な人だ。
もともとその会社の社長は叔父さんだった。
けれど急死されたことで、当時専務だった彼が社長に就いた。
そして、社長になって初めて知ったという。
先代の放漫経営の結果、残された借金は――100億円。
いきなり会社存亡の危機だった。
売れる資産はすべて売り、
取引先には何度も頭を下げ、
それでも諦めなかった。
「ようやく残り3億になったわ」
そう笑って話してくれたのが、10年ほど前のこと。
きっと今は、もう完済されているんだと思う。
そんな話、こちらから聞けるわけもないけれど、
本当にすごい人だと思う。心から尊敬している。
「社長になってから、ほんまに良いこと無かったなぁ…」
ボソッと呟いたあの言葉が、今でも心に残っている。
俺なんて、自分と家族を守るだけで精一杯だ。
でもその人は、従業員を誰ひとり路頭に迷わせることなく、
見事に会社を立て直した。
まさに、“100億の男”。
何年か経ったある夜。
いつものようにジントニックを飲んだあと、
「バランタイン30年をロックでちょうだい。マスターも乾杯しようや」
そう言ってくれた。
ありがたくいただいた一杯。
その瞬間、何となく彼の中で一つのけじめがついたような気がした。
グラスを傾けながら、
彼が味わっていたのは何だったんだろう。
解放感か、責務を果たした充実感か…。
僕には分からない。
でもあの時の笑顔は、これ以上ないほど穏やかだった。
本当に――
何十年もお疲れ様でした。
「最近、毎年ラスベガスに行ってんねん。マスターも今度一緒に行こうや」
最後にそう言って帰っていった。
その後ろ姿が、何ともカッコよかった。
本物の男だけが見せられる後ろ姿。
おこがましいけど、
いつか自分も、そうありたいと思う。
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