【読書記録 -171】『経営者の右腕』ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年2月号
経営は孤独な仕事
会社のトップは、一人である方がいい。
二人の人間が同じ権限を持って会社を動かそうとすれば、意見が割れたときに誰が最終的な判断をするのかわからなくなるからだ。
しかし、一人の人間だけで会社を経営することも難しい。
会社が大きくなれば、経営者一人で把握できる情報には限界が生まれるからだ。会社が大きくなればなるほど、現場との距離も遠くなり、自分の考えを組織の隅々まで伝えることも難しくなる。
だから「右腕」が必要になるのだろう。
だが、「右腕は必要なのか?」「どんな人を選べばいいのか?」「どうやって見つければいいのか?」は、経営者の永遠の課題だ。
ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年2月号では『経営者の右腕』という特集が組まれている。

本特集では、実際にナンバー2や参謀として経営者を支えてきた人たちの経験と、共同創業者に関する研究から、その問いを考えている。
優秀な人が「右腕」になるとは限らない
サイバーエージェント共同創業者の日高裕介は、藤田晋の右腕として長年経営を支えてきた人物だ。
しかし、創業前の日高裕介は、決して会社で目立った成果を出していたわけではない。彼は藤田晋とインテリジェンスの同期だったが、トップクラスの営業成績を上げていた藤田晋に対し、日高裕介の営業成績は「ビリに近かった」という。
それでも藤田晋は、日高裕介を創業メンバーに選んだ。
そして、日高裕介が担うようになったのが、藤田晋の判断の背景にある価値観を理解し、それを自分の言葉に置き換え、社員へ伝えること。つまり、「経営者の価値観を感覚でつかみ、実装すること」だったのだ。
日高裕介のインタビューを読んでいると、右腕を選ぶときに重要なのは、単純な能力の高さだけではないと理解することができそうだ。
共に働いた経験の重要性
では、そんな人をどうやって見つければいいのだろう。
ハーバード・ビジネス・スクールのジュリア・オースティンは、共同創業者選びを「結婚」にたとえる。相手の経歴やスキルを見るだけでは不十分であると。
成功している創業チームの多くは、起業する以前から一緒に働いた経験を持つ。もしくは、正式に組む前に顧客インタビューやプロトタイプ作成などの「ディスカバリーワーク」を行い、創業前に実際に一緒に仕事をしている。
一緒に仕事をすれば、相手の考え方が見える。
問題が起きたときにどう判断するのか。意見が割れたときにどう振る舞うのか。プレッシャーがかかったときにどんな行動を取るのか… それは、何度か食事をしたくらいではわからない。
さらにオースティンは、共同創業者を持つことのメリットを認めながらも、共同CEOという体制は避けるべきだとする。
経営を一緒に担うパートナーは必要だ。しかし、役割と意思決定権を明確にし、最後に誰が決めるのかは決めておく必要がある。
経営は一人ではできない。
だからといって、トップを二人にすればいいわけでもないのだ。
経営者に見えないものを見る
元ブリヂストンCEOの荒川詔四は、自身がトップになる以前、長年にわたって経営者を支える「参謀」の役割を経験してきた。
荒川詔四が指摘するのは、経営者という立場が持つ構造的な問題だ。
たとえば社長が「現場主義」を掲げているとしよう。当然頻繁に現場に足を運ぶ。しかし現場の面々は、社長が来るとなれば当然身構えるものだ。
社長は社長だからこそ見えないものがあるのだ。
そこで荒川氏は、自分自身の情報ネットワークをつくったそうだ。現場の人たちから情報を集め、ときには経営者にとって耳の痛い話も伝えるための。
参謀に必要なのは、経営者の指示を忠実に実行することだけではない。トップとビジョンを共有しながらも、自分の頭で考え、必要なら異論を唱えること。荒川詔四は、それが参謀のリーダーシップだと説いている。
HelmsmanとGeneral
以前、ボクは「Organization論 #1」という記事で、組織の中で人が担っているJobについて考えた。
その記事の中で、ボクは組織が向かう方向を示す役割をHelmsman(舵取り役)、Helmsmanの隣で組織全体を見ながら経営を支える役割をGeneral(戦略の策定役)と呼んだ。
本特集の「経営者と右腕」の関係は、この記事に書いた「HelmsmanとGeneral」の関係だ。オースティンが共同CEOを避けるべきだとするように「Helmsman」は一人でいい。船に舵は一本しかないからだ。二人のHelmsmanがそれを取り合っていては経営が上手くいくはずがない。
しかし、一人のHelmsmanがすべてを見ることはできない。日高裕介のように、Helmsmanの価値観を理解して組織へ実装する人が必要になる。それが「General」だ。
そして荒川詔四のように、Helmsmanには見えなくなったものを見つけ、ときには「それは違う」と返す人も必要になる。
同じ方向を向きながら、違うものを見る。
それが、HelmsmanとGeneralの関係だ。
経営者は一人でいい。
しかし、経営者は一人で経営してはならないのだ。
