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【読書記録 -167】『ブランドの力』ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年7月号

ブランドは企業がつくるものなのか

御社の強みは何ですか?

企業で働いていると、そんな問いを投げかけられることがある。

高い技術力。
長年培ってきたノウハウ。
優秀な人材。
競合にはない商品やサービス。

もちろん、それらは企業にとって大切な資産だ。
だが、企業が「これがウチの強みです」と言ったところで、顧客がそこに価値を感じなければ、それは「強み」ではない

それは「ブランド」も同じだ。
ブランドとは、企業が自分たちが決めるものではなく、受け取る側が決めるものなのだ。

さて、ハーバード・ビジネス・レビュー2026年7月号の特集は『ブランドの力』。副題は「AI時代こそ、信頼で勝負する」だ。

本号では、以下の五つの視点から、AI時代のブランドについて論じられている。

・スターバックスのブランド経営
・「消費資本」というマーケティングの考え方
・AIエージェント時代のブランド戦略
・ファストバタイジング
・オニツカタイガーのブランド戦略

HBRがいう「ブランドの力」とは何か

企業は、ロゴや広告を作ることはできる。
商品や店舗をつくり、接客方法を決めることもできる。

しかし、それだけでブランドをつくることはできない。

顧客が商品を使う。
店舗を訪れる。
従業員と会話する。
広告を見る。

…そういった「企業との接点で生まれた体験」が顧客の中に少しずつ蓄積されることが重要だ。その体験が「この会社は信頼できる」「この商品が好きだ」という認識へ変わっていくからだ。

企業がブランドを直接つくるのではない。
顧客との接点を通じて蓄積された体験が、結果としてブランドを形成するのだ。

本特集は、その「接点」をどう設計し、長期的な信頼へ変えていくのかを、さまざまな角度から考察したものだ。

森井久恵(スターバックス コーヒー ジャパン)

ブランドは従業員から始まる

問い:スターバックスは、なぜ長期間にわたってブランドを維持できるのか。
結論:ブランドを体現する従業員を育て続けているからである。

2026年に日本上陸30周年を迎えたスターバックスがブランドの中心に置いているのは「パートナー」と呼ばれる従業員だ。

スターバックスは、デジタル化による効率化を推し進めている。しかしそれは、効率化によって人との接点を減らすのではなく、そこで生まれた余白を顧客とのコミュニケーションへ振り向けようとしているのだ。

スターバックスはマス広告を行わない。
それは、彼らがブランドとは広告によって伝えるものではないと信じているからだ。

スターバックスの考える「ブランド」とは、そこで働く人の行動を通じて、顧客が体験するものなのだろう。

天野友道

マーケティングは「消費資本」への投資である

問い:マーケティングは、何を生み出す活動なのか。
結論:短期的な売上ではなく、顧客の中に将来の価値を蓄積する活動である。

ハーバード・ビジネス・スクールの天野友道は、「消費資本(Consumption Capital)」という考え方を紹介している。

消費資本とは、過去の消費経験が蓄積されることで、その商品やサービスから価値を引き出す能力が高まっていくことを指す。

つまり、マーケティングを今期の売上を増やすための「フロー」として考えるのではなく、将来の購買や愛着につながる「ストック」として考えるのである。

JINSでは、単純な来店者数を増やすことだけではなく、顧客が眼鏡を使い分ける能力そのものを高める取り組みを進めている。

商品を使うことによってその価値を知り、価値を知ることによって、そのブランドを選ぶ理由が増える。そうした体験の蓄積が、競合への乗り換えを難しくしていく。

ブランドとは企業が持つ資産というよりも、顧客の中に蓄積される資産と考えた方がいいのかもしれない。

ウトク・アカー/デイビッド・シュワイデル

AIもブランドの「受け手」になる

問い:AIエージェントが購買を代行する時代に、ブランドはどう変わるのか。
結論:人間だけではなく、AIにも正しく理解される必要がある。

これまで企業がブランドを伝える相手は人間だった。しかしAIエージェントが商品を検索し、比較し、購入候補を提案するようになると、企業と顧客の間にAIが入ることになる。

ペルノ・リカールでは、主要なLLMが自社ブランドをどのように認識しているかを「シェア・オブ・モデル」という指標で確認している。

実際にLLMがブランドの価格帯を誤って認識していた際には、ウェブサイトの構造や表現を変更し、AIが正しく理解できるように修正したという。

つまりこれからは「顧客からどう見えるか」だけではなく、「AIからどう見えるか」という新しいブランド接点が生まれるのだ。

ライアン・レイノルズほか

ブランドは文化のスピードで動く

問い:変化の速い時代に、ブランドはどう社会との接点をつくるのか。
結論:完璧な広告をつくることよりも、その瞬間の文脈に参加することが重要である。

著者らは「ファストバタイジング」という考え方を紹介している。

SNSによって社会の話題が瞬時に広がるようになった現在では、何週間もかけて広告をつくっている間に、その話題自体が終わってしまう。

そこで重要になるのが、

・スピード
・関連性
・流動性
・人間性
・失敗の許容

という五つの原則だ。

完璧な広告をつくるのではなく、その瞬間に起きていることへ反応し、ブランドと社会との接点を作るのだ。

庄田良二(オニツカタイガー)

ブランドの核は変えない

問い:変化の速い時代に、ブランドも変わり続けるべきなのか。
結論:顧客との接点は変えても、ブランドの核まで変えてはいけない。

オニツカタイガー カンパニー長の庄田良二は「特異性」をブランドの中心に置いている。

同社の主力商品の「MEXICO 66」は、社内から「薄底で歩きにくい」という意見が出ていた。しかし、オニツカタイガーはその仕様を変える選択をしなかったのだ。その商品が、後にブランドを代表する存在へ成長していった。

さらに庄田は、マーケティングの4Pの中でも「Place」を重視するという。

それは、ブランドにふさわしい場所でなければ売らないということだ。

顧客がどこで商品を見るのか、どんな店で買うのか… それもまた、顧客がブランドを認識するための重要な接点だからだ。

庄田は「売るな、買ってもらえ」と言う。

企業側からブランドを押しつけるのではなく、顧客自身が「あそこで買いたい」と思う状態を作ること。企業が主張するのではなく、顧客に選ばれること。

それがブランドが成立する要素なのかもしれない。

この特集から読み解くべきこと

ここに挙げた論考には、大きな矛盾が含まれている。

「速く変われ」
「変わるな」

スターバックスは、従業員との接点から体験をつくるという。HBRの天野は、その体験が「消費資本」として顧客の中に蓄積されると説明する。アカーらは、その接点にAIという新しい存在が加わる未来を描く。そしてファストバタイジングは、社会との接点を素早く変える必要性を説く。その一方、オニツカタイガーは、時代が変わってもブランドの核を守り続ける重要性を説いている。

そう、変えるべきは顧客との接点であって、変えてはいけないのはブランドの核なのだ。

テクノロジーや顧客との接点が変化しても、その体験が一貫していれば、顧客の中に同じブランドイメージが蓄積されていく。

企業が設計できるのはブランドそのものではない。
顧客がブランドを感じるための「体験」なのである。

それが「ブランドの力」なのだろう。

参考リンク

DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2026年7月号

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