【読書記録 -168】『戦略的に休む』ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年9月号
戦略的に休むとはどういうことか
「戦略」ってなんだっけ。
一般的には、中長期的な視点に立って、人やお金などの限られた資源をどのように使うかを決める、総合的な方針や計画のことを指す。
企業であれば、限られた人材や資金をどの事業に配分するのかを考えること。成長が期待できる事業へ投資することもあれば、あえて投資しないという判断をすることもある。
では、「戦略的に休む」とはどういうことなのか。

ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年9月号の特集タイトルは「戦略的に休む」だ。本特集では、短時間の休憩から余暇、サバティカル、さらにはキャリアの一時的な後退まで、さまざまな「休み方」が取り上げられている。
そして、本特集の冒頭に登場するのが、ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正のインタビューだ。
柳井さんっていうと「猛烈に働く経営者」の代表格じゃないか。その柳井さんが「余暇」について語っているのだから、なかなかインパクトのあるインタビューだ。
ただ、そのタイトルは「仕事と真剣に向き合う人だけが、余暇を有意義に過ごすことができる」だ。どうやら、柳井さんの「休む」ってのは、そんなに単純なお話ではなさそうだ。
自分という資源をどう使うか
さて、企業にとって人やお金が資源であるように、個人にも限られた資源がある。
それは自分自身だ。
ボクたちは毎日、自分という限られた資源を仕事や家庭、学習など、さまざまなところへ配分しながら生活している。
ところが、なぜか仕事となると、この(限られた)資源をできるだけ多く投入しようとする人が多い。全力投球だ。
しかし企業経営で考えれば、持っている資源を常に100%使い切ることが最適とは限らない。なぜなら、未来には不確実性があるからだ。
3年後、5年後に何が起きるのかはわからない。
それは昨今のAIの進化のスピードを見ても明らかだ。
市場環境が変わるかもしれないし、新しい技術が登場するかもしれない。だから企業は、将来何かが起きた時に動けるよう、手元資金や人員、設備などに一定の余力を持たせておくものだ。
人はコンテクストの中で生きている
本特集には、約2000人を対象とした調査から、充実した余暇を過ごすための戦略を考察した論文が収録されている。重要なのは余暇の長さだけではなく、その時間をどう使うかだ。
たとえば、休日に本を読むなんてどうだ?
読書中は身体を完全に脱力させて休んでいるわけじゃない。脳だってフル回転だ。だけど仕事というコンテクストから離れて、別の知識に触れている。
スポーツはどうだろう?
ボクはスポーツをする趣味は全くないが、平日より身体を酷使している人は多い。それでも仕事とは違う人たちと出会い、違うRoleを持ち、違う価値観に触れることがある。
つまり、休むことによって生まれた余力を、学び、人間関係、経験、別のコミュニティといった、別の資産へ変えることができるのだ。
そう考えると、上司とゴルフへ行ったり、取引先と飲みに行ったりすることは、ちょっと違って見えるんだな。
仕事をしていないようには見えるけれど、余暇の場所でも会社でのRoleを背負い、仕事と同じ人間関係の中にいるのであれば、それは「休んでいる」とは言えないだろう。
大切なのは、仕事をしていないかどうかではなく、仕事とは違うコンテクストに自分を置けているかどうかなのだ。
人生にもポートフォリオがある
株式投資においては、一つの銘柄にすべての資産を投じることにはリスクがあると言われる。企業のクライアントだってそうだ。
人生もそれに似ていると言えるだろう。
ボクらはどうしても仕事中心の生活になる。人生というコンテクストで考えれば、かなりの一社依存状態だ。
仕事が順調な間は問題ないだろう。
会社というコミュニティの中で存在感を発揮でき、貢献感を得られている間は間違いなくハッピーだ。
しかし、会社の状況が変わるかもしれない。自分の仕事が変わるかもしれない。そして多くの人には、いつか定年がやってくる。
その時になってから「何か趣味を始めよう」「新しいことを学ぼう」「会社以外の友人をつくろう」と思っても、それまで何十年とかけて築いてきた資産と同じものは、すぐにつくることはできない。
人間関係も知識も経験も、蓄積には時間がかかるからだ。
だから、仕事というコンテクストに自分を100%投資するのではなく、仕事以外にも少しずつ自分を配分しておくべきだ。
家族でもいい。
学びでもいい。
趣味でもいい。
即座にリターンを求める必要はない。
仕事からは収入を得、学びからは知識を得る。
コミュニティからは人間関係や貢献感を得る。
人生というコンテクストの中に、将来的に異なるリターンを生む(かもしれない)複数の投資をしておく。
それが人生のポートフォリオなのだと思う。
用途の決まっていない自分を残しておく
心理学用語に「結晶性知能」というものがある。
流動性知能と結晶性知能は、心理学者レイモンド・キャッテルが提唱した知能の分類です。流動性知能は新しい状況に適応して問題を解決する力であり、結晶性知能はこれまでの経験や学習で得た知識や判断力です。加齢に伴い、前者は低下しやすく、後者は維持されやすい特徴があります。
40代、50代になると身体は衰えてくる。
それに加えて「流動性知能」も衰えるらしい。
しかし「結晶性知能」は、年齢を重ねても比較的維持され、経験や学習によって中高年期まで高まるとされている。
そう考えると、自分という資源を、毎日仕事で使い切ってしまうのはもったいなくないか?
自分の資源のコンテクストへの配分に正解はない。
未来に何が起きるかわからない以上、最適な資源配分なんてわからないからな。
できることは、ひとつのコンテクストに自分のリソースのすべてを配分しないことだ。まだ用途の決まっていない自分を、少しだけ残しておくことだ。
ボクはそれを「戦略的に休む」ことだと理解した。
参考リンク
DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年9月号
